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乙女ゲームなのに戦闘もの。
ロールプレイ的な?
「クレイ、急がせて済まないね」
「とんでもごさいませんわ。此方こそお待たせして申し訳ございません」
「全然待ってないよ。とりあえず座って」
手を引かれ座ったソファーの前の机には沢山の紙が散乱している。
その紙は、今私達がいる地域の魔獣討伐の記録と地図らしきものだとわかった。
「魔獣が此処に?」
「話が早くて助かるよ。魔力はどう?今すぐ行けるかな?」
「ええ、移動だけでしたので大丈夫ですわ。準備も出来ていますので、今すぐ行けます」
「殿下!フォレスター公爵令嬢を同行させるおつもりですか!」
「言い争う時間が惜しい。出来ない者を連れて行く程愚かではありません。後は自分の目で確認して下さい」
そう言うなり私の手を取り歩き出した光輝を、部屋にいた近衛騎士達が慌てて追って来る。
「種類と数はわかっているのですか?」
「ゴブリンが百程、これは問題ないかな。でもオークが二体。しかもかなり大きいらしい」
「オークが?ゴブリンと一緒にですか?」
「多くの目撃情報がある。その中には冒険者もいたから、まず間違いない」
ゴブリンは小さく弱い。だから数が多くても割と容易く討伐できる。特に広域魔法があれば簡単だ。
だけどオークは違う。
オークはダンジョンでもあまり見かけない。何故ならオークは魔物の中でも人と争う事を好まない種類だからだ。此方から攻撃をしたり、縄張りを荒らしたりしない限り襲ってこない。しかも深追いしてこない為、人間はオークを見たら逃げればいい。
だが稀に力試しとばかりにオークに挑む愚かな人間もいる。そういう人間の末路は一つ。だからオークの体力や魔法の種類、特性などは未だ明らかにはなっていないのだ。
魔物や魔獣の生態や特性を把握する為に騎士団やS級冒険者達も挑んだけれど、一度として倒した例がなく、文献にも詳細が無いという珍しい魔物なのだ。
だが攻撃せず観察する事でわかっている事もある。
オークは他の種族と行動を共にしないのである。
そのオークが何故、ゴブリンと共に行動しているのか。
「人的被害は今のところ挙がってきていない。だが出現場所が街に近過ぎる」
「魔物達は何処かを目指しているのですか?」
「……それがわからないんだよ」
「わからない?」
「街道を通る人を襲う事無く、ある場所にただ居るだけなんだ」
「オークはともかくゴブリンも、ですか?」
「そう、ゴブリンもなんだ」
ゴブリンは身体は小さいけれど狡賢い。集団で行動し、人間の物を奪い取る。ゴブリンは人間の物を奪う為に、常に虎視眈々と人間を狙っているのだ。ゴブリンと遭遇して襲われなかった事例は殆ど無い。
だから街道を通る人間を襲わないなどという事は有り得ないのである。
一体何が起こっているのだろうか?
「オークがいる以上、此方から下手に手を出すわけにはいかない。最悪の場合、私とクレイとで風魔法を使いオークを遠くに飛ばす。闘って勝てる確証が無い以上、何処かに行って貰うしか方法がないからね」
確かに、私と光輝の風魔法ならオークでも吹き飛ばす事は出来る。だけど、この状況は異常だ。何かの意図があっての事なら、一時凌ぎにしかならないだろう。
「魔物と意思の疎通が出来れば良かったのですが」
「そうだね。何かしらの意図を感じざるを得ない状況だから。でもクレイ、頼むから作戦以外の事はしないで」
「わかっておりますわ」
ちゃんと返事をしたのに、疑わし気に此方を見るのは失礼ではないだろうか。前代未聞の事態なのに突飛な行動をする程、阿呆でもなければ豪胆でもない。
折角、新しい人生を得たのに、それをこんな所で無駄にする訳ないでしょ!
それに、この身体は私一人のものではないんだから!
そんな意味を込めて、きっと睨むと光輝は降参とばかりに両手を挙げて苦笑する。
「わかっているならいいよ。でも油断はしないで。なんだか嫌な予感がするんだ」
最後の言葉を言う時には心配そうな顔になった光輝。
光輝が昨日からずっと神経質になっていたのを私は思い出した。
「殿下。昨日から変ですわ。大丈夫ですか?」
「取り越し苦労ならいいのだけど、こういう時の勘は当たってしまいそうで怖いんだ」
するりと握られた手はとても冷たい。
この世界で目覚めてから、光輝の手に触れた事は数え切れない程ある。でも、どんな状況でもここまで冷たかった事は無い。
私は繋いだ手をぎゅっと握り返した。
大丈夫、大丈夫だよ。
そんな想いを込めて。
微かにぴくりと反応し、恐る恐るといった風に此方を見る光輝に笑う。
「殿下はわたくしを護って下さいますわよね?」
私の言葉の意図を計りかねながらも力強く頷く光輝に、顔が緩むのが自分でもわかった。
「でしたら、わたくしは殿下を護りますわ」
一人で抱え込まないで。
私が側にいるよ。
一緒に頑張ろう?
私の言葉の意味を正しく読み取った光輝の顔が驚き、そして笑顔になる。
「そうだね、私には最愛で最強の婚約者殿がいるのだった」
「ふふふ、わかっていただけましたか?」
「……ありがとう、くれは」
耳元で囁かれた最後の言葉が嬉しくて、体中に力が漲るのを感じる。
恋って凄い。
大好きな人の為になら何でも出来そう。
守られるだけじゃ物足りない。
女の子だって大好きな人を守りたいんだよ。
だからね。
繋いだ手は離さないで。
そしたら、きっと私は最強になれるから。
……その後に起こる事件が私達を引き離す事になるなんて、この時の私は知る由もなかった。
次回の投稿は6/5(土)です。




