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 ひえええ〜!

 投稿出来てませんでした!

 



 やって来ました。

 恋金イベント、遠征。

 乙ゲー必須のハラハラドキドキ盛り沢山のイベントなはずなんだけど。


 

 「……ねえ、光輝。遠征って、遠征って……」

 「想像と大分違ったみたいだな?でも諦めな。俺は王太子でお前はその婚約者なんだから。お忍びの時のようにはいかない」

 

 わかってる、わかってるつもりだった。

 でも!


 今、私は到底遠征に行くとは思えない豪奢な馬車の中で悪路の揺れすら感じずにいた。この馬車は外から見たら普通の馬車だが、数々の魔法がかけられていて中はまるで王宮のティールームのようだ。今、私と光輝の間に鎮座する小さいが優美な机の上にあるティーカップの中身は波立つ事も無い。勿論、色々な魔法がかけられているから、こんな会話も出来るのだけど。

 ……魔法の無駄遣い甚だしいのでは?


 「言いたい事はわかるが仕方ないだろう?この国の世継ぎは俺だけだし、お前もこの国の女性で片手で足りる程高位なんだから。警護が厳重になるのはどうしようもないさ」


 わかってる、わかってるけれど!

 ほら、イベントって道中にも小さなハプニングとかがあったりして、それが二人の仲を盛り上げていく。その小さなハプニングのハラハラドキドキに胸キュンさせて悶ていた私には許すまじ現状なのである。それが無いなんてあんまりだ。


 「何かとんでもなく斜め上の思考で怒ってるみたいだけど、俺はお前と居れるなら何でも良い。しかもお前が傷付く要素が減るこの状況に、感謝こそすれ、拒否するつもりは一切無い。だから諦めろ」

 「っっ、わ、わかったわよ」


 普段誰にも見せない柔らかな微笑みで頭を撫でる光輝に反論など出来ず、頬に溜まった熱を見られないようそっぽを向きながら答えるのが精一杯だ。


 お願いだから急にデレるのは止めて!

 恋愛偏差値ゼロの私には、どう対応すればいいのかわからないんだってば。

 

 そんな私の胸中を知ってか知らずか、光輝は私の隣りへと移動してきた。


 「な、何?」

 近い、近いってば。

 「ほら、口開けて」

 目の前にずいと出されたものの甘い美味しそうな香りに身体は条件反射し、言われた通りに開いた口に何かを放り込まれた。


 !!

 何コレ!

 めっちゃ美味しいんだけど!


 もぐもぐ小リスよろしく、口を動かす私を見た光輝は片手で口を覆い視線を逸した。

 何?何かおかしなことした?

 疑問符が飛び交う私をちらりと見た光輝は小さく呟いた。


 「すっげー可愛いんだけど?俺、保つかな?ヤバい」

 「っっっ、ば、馬鹿っ!」


 か、可愛いとか突然言わないで欲しい!

 それでなくとも想いが通じ合って恋人同士になったことで脳内お花畑な上、浮足立ってしまってるのに勘弁して欲しい!

 クレメンティーヌとして今まで築き上げたものが、ここ何週間で崩壊しつつあるのに頭を痛めていた私は、キッと光輝を睨む。


 「か、可愛いとか、そういうの言うの禁止だから」

 「は?可愛いものを可愛いって言って何が悪いんだ?くれはだって言うだろ?それに言われたくなかっから、お前が可愛くなくなればいいだろ?お前が可愛いのが原因なんだから。ま、無理だけどな」

 「は、はあ〜?私は可愛くなんてない!光輝が勝手に可愛いって思ってるだけじゃん」

 「……お前、ホント馬鹿。ちゃんと自覚しろよ」

 「誰が馬鹿ですって?自覚?自覚って何?何を自覚しろって言うのよ!」

 「お前がとんでもなく可愛いってことだよ!」

 「ふえっ、へ?」

 「あっ、いや、その……。兎に角、その顔誰にも見せんな!いいな!」

 「は、はい」


 その顔って、どんな顔してたのかわからないけれど光輝が見てる私は公爵令嬢という武装をしていない素の私。そんな私を可愛いって思ってくれるんだ、と思うと嬉しくて嬉しくて胸がきゅうってなる。でもそれは痛いのとは違う。この胸の痛みを感じる度に私は光輝に触れたくなる。光輝との距離がもどかしくて、切なくて、でもどうすればそれが無くなるかわからない。そんな想いでいっぱいの私は思わず隣の光輝の袖を掴んだ。

 ぴくり、と動いた光輝を恥ずかしい気持ちを抑え込み見上げると、そこには目尻をうっすらと赤らめ熱に魘されたような瞳をした大好きな人がいた。


 「光輝?」

 「………………」

 

 心の奥まで覗くようにじっと見つめてくる瞳は金色で、前世の光輝の瞳の色とは全然違うのに私には光輝にしか思えない。

 

 綺麗。

 いつだって光輝は綺麗。

 誰もが振り返る容姿や体躯を言ってるのではなく、存在そのものが輝いている。

 幼い頃、出会った瞬間から。


 この人は私のもの。

 誰にも渡したくない。

 ……ううん、渡さない。


 心の思うまま、光輝に抱きつく。

 

 嗅ぎ慣れたきつ過ぎないムスクの香りに微かな汗の匂いが混じっている。

 それすら好ましいと思うのは恋心のせいなのかな。

 微かな隙間さえ許せなくて、私は抱きついた腕に力を込めた。


 その瞬間、息が止まるかと思う位抱き返された私。

 骨が軋む程抱きしめられて、苦しいのに嬉しくて。

 その喜びに浸っている私の耳に掠れた熱っぽい声が吹き込まれる。


 「……煽んな、止まんなくなる」


 言葉が終わるとともに奪われた唇。

 今までの口付けが子供騙しと思える程荒々しく、吐息すら奪ってしまう行為に頭の芯がくらくらする。

 

 もっと、もっと私を欲しがって?

 もっと、もっと近くに。


 私達は次の停留地点に着くまでお互いを求め合った。


 



 次回の投稿は5/17(月)です。


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