表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/78

 57



 次回から学園編です。



 そうして始まった私達四人の交流は、瞬く間に社交界に広がった。


 イケメンな二人は元々ご令嬢達の注目の的な上、婚約者の私以外の女性を寄せ付けなかった王太子が初めて側にいる事を許した相手が、男性陣の憧れの君でプレザント公爵の孫娘ときたら噂にならない訳がない。噂好きな貴族達の格好の的になるのは当然のこと。

 うん……当然のことなんだけど…………。


 「ねえ、お聞きになりました?」

 「あの方達のことでしたら、勿論!」

 「本当のことなのでしょうか?」

 「本当でも嘘でも構いませんわ!王太子殿下を巡ってお三方が争われている。ほう〜、想像するだけでもドキドキしてしまいますわ」

 「プレザント伯爵令嬢はともかく、キリア様までなんて。四人が揃っておられる時は、もう神々しくて目が潰れてしまわないかと心配になるくらいですわ」

 「ええ!ええ、本当に!まるで絵画のようですわ!」

 「……こっそり絵師を呼んで描かせようかしら」

 「妙案ですっっ!あっ、でも流石に無断で王太子殿下を描くのは難しいかと」

 

 貴女達、淑女が何て事を画策してるのよ!

 んんっ、そうではない、そうではなくて。

 

 公の場でプレザント伯爵令嬢とキリア様と一緒にいるようになって確かに今までとは違う雰囲気になった。特に私に対しての貴族達の噂は180度変わったと言えるだろう。私を見る令嬢達の纏う色が黒から黄色へと変わった事からも、それは間違いない。

 間違いないんだけど……。


 「元々親から言われて仕方なくフォレスター公爵令嬢を悪し様に言ってきましたが、わたくし本当はフォレスター公爵令嬢に憧れておりましたの」

 「まあ!貴女もですの?わたくしもそうですわ!大体あの麗しき王国の至宝、黒薔薇姫に敵うわけがないですのに」


 王国の至宝?

 黒薔薇姫?

 も、もしや、それって……。

 

 「そうそう。ですがプレザント公爵家の圧力にわたくしの家門は逆らえませんもの」

 「あら?貴女も?」

 「黒薔薇姫を密かに慕う令嬢の殆どがそうですわ」

 「まあ、そうでしょうねぇ。白磁の肌に濡れたアメジストの瞳。華奢な肢体なのに出る所は出ているという、女性が求めてやまない完璧なスタイル。何事にも動じず冷静に対処し、その上魔法まで。そんな憧れの御方を悪し様に言わねばならないわたくし達の苦悩の日々。でも、それもやっと終わりましたわ」

 「プレザント伯爵令嬢の意図はわかりませんが、彼女のおかげでわたくし達は黒薔薇姫を害せずとも良くなったのは本当に助かりましたわね」

 「今度は近付くな、でしたわよね?ええ、ええ、近付きませんとも。王太子殿下に凍えるような笑みを向けられずに済みますもの」

 「……今思い出しても身震いがしますわ。黒薔薇姫に近付こうものなら氷漬けになっていたに違いありませんわ」

 「ええ、同感ですわ。ですが、それも愛故ですわっ!黒薔薇姫を心底愛するが故!見た事ありますでしょう?王太子殿下が黒薔薇姫に向ける微笑みを!」

 「勿論ですわ!氷の貴公子の蕩けるような微笑みは黒薔薇姫を見る時だけ!はああ〜、素敵」

 「きゃああ〜」


 な、何なんだろう。一体全体何がどうなって、こうなった?

 

 私が彼女達の死角にいた事で聞こえてしまった話は私達の想定外の内容だった。噂がこれだけだとは思ってないけれど、今お喋りをしていた二人はかなりの高位の貴族令嬢。情報収集もかなりしているだろうから、今の内容の噂が貴族間で流れているのは十中八九間違いないだろう。


 キリア様とプレザント伯爵令嬢と行動を共にする事で周囲の評価を変える予定ではあった。……あったけれど、この方向は本当に予想外である。

 しかも、今までクレメンティーヌを悪し様に言っていたのがプレザント公爵のせいだというのも初耳だ。


 周囲の評価を変える為にクレメンティーヌは寝る間を惜しんで努力していた。それこそ健康を損なう程に。でも本当は違ったんだ。


 ゔゔ〜、許すマジ、プレザント公爵!


 でも……良かったね、クレメンティーヌ。

 貴女は彼女達の憧れの君だって。

 密かに黒薔薇って、素敵な呼び方をして慕ってくれていたんだよ。


 殆ど私と一緒になってしまったクレメンティーヌの欠片が胸の中でキラキラと輝いたのがわかった。

 

 上手く感情表現出来なくてもクレメンティーヌの中に感情が無かったわけではない。幼い頃から辛い思いをしてきたクレメンティーヌ。その辛さをひたすら自身を磨く事で耐えてきた。その努力はちゃんと実っていた。


 これからは。


 二人で沢山の事をしよう。

 色んな所に行こう。

 笑って、怒って、時には泣いて。

 クレメンティーヌ今までがしたかった事、出来なかった事、全部しよう!


 ハプニングが運んできた令嬢達の他愛のない内緒話。

 でも、それはクレメンティーヌと私にとっては大きな喜びとなった。


 恋金の舞台の幕が上がる、学園入学を間近に控えた私は不安でいっぱいだった。

 だけど、単純な私は彼女達の話を聞いてこれからの私達の未来が明るく思えたのだった。

 


 


 


 

 


 

 



 次回の投稿は4/24(土)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ