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年末のお忙しい中、読んで下さってありがとうございます。
来年も宜しくお願い(?)致します!
ヴィー=光輝は兎に角クレメンティーヌ=くれはに弱いです。
「先程振りだね、クレイ。ご機嫌如何かな?」
周囲にきらきらした何かを飛ばしながら流れるように私の手を取りソファーまでエスコートするヴィーは、何回見ても素晴らしいイケメンだ。
だけど私が光輝ではないかと思った時から然程時間は経ってないのに驚く程、元々のヴィーに近づいている気がする。
あの時ヴィーではないと思う切欠となった甘ささえ、今のヴィーにはあるのだから。
「殿下、ご機嫌麗しゅう」
貴族のやり取りって本当に面倒くさい。
だってつい一時間程前に一緒に食事したのにご機嫌如何なんて。
クレメンティーヌも同意してるし。
……私の記憶のせいか最近クレメンティーヌの思考が変わってきてる気がする。
「殿下なんて。この宮ではヴィーで大丈夫だと言っただろう?」
いやいやいや、他の人の前で王太子を愛称呼びする程心臓に毛は生えてないから。
……笑顔に圧を掛けても無駄だから止めて。
「ほほほ、殿下。お戯れが過ぎましてよ?」
「……流石に駄目か。まあ、いい。で、クレイが私に会いたいと聞いたのだが」
はい、そう言いました。
言ったけれど周囲の期待の籠もった視線が痛いんだよ〜。
期待とは全く違う事務的な話をこの雰囲気で切り出す勇気は私には無い。
私はヴィーに目線で人払いを要求する。
「皆暫く二人にしてもらえるかな?」
「まあ!勿論でございます。ですが……」
「マルリード侍女長……期待してるかしてないのかどちらかにしてくれ。だが今はまだ期待には応えられないよ。無体な事はしないと誓う」
「ほほほ、左様でございますか。では失礼致します」
マルリード侍女長の返事とともに流れる様に護衛騎士や他の侍女達も部屋から退出する。
「さて、私のお姫様は何をご所望かな?」
……本当にこれ光輝なんだろうか?
あいつがこんな甘い台詞を臆面もなく言えるなんて前世からしたら有り得ないんだけど。
「クレイ?」
きらきら粒子が目に見えそうな甘い微笑みを浮かべたイケメン王太子が小首を傾げて私を見ている、眼福!
ああ、今はそれどころじゃなかった。
「っっ、申し訳ごさいません。前置きは省きますわ。殿下の提案をお受けしようと思います」
「殿下じゃなくてヴィー、二人きりの時はそう呼ぶ事。そう、決心してくれて嬉しいよ。まあ、断られたとしても結果的にはこうなったけれどね」
にこにこしながら、さらっと怖い発言をするな!
「ですが一つお願いがございます」
「う〜ん、それは内容によるかな。それと口調、硬すぎるな」
私の要望は叶えてくれるんじゃなかったのか!
そして、ちょいちょい訳のわからん指摘を挟まないでよ!
あっ、顔が崩れそう。
「んんっ、大した事ではありません。わたくしがお借りする部屋に魔道具を設置させて頂きたいだけです」
「魔道具?一体何の魔道具を置くのかな?」
「対魔法と防音などですわ」
「ああ、成程。まあ、いくらクレイでも王太子宮は気疲れするか。だが、わかっているとは思うけれど王宮そのものに強大な結界が張られている上、ここ王太子宮にも別個に多種多様な魔法がかけられている。それに反発しない魔道具となると作るのにかなりの時間が必要となる。それでもいいかな?」
この恋金の世界では貴族間の争いはまず情報戦で、それを得る為に間諜を放つのは普通の事。
それに対応するのに結界を張ったり魔道具を置くのもまた当たり前だ。
だけど魔法結界を張って魔道具を置くのはなかなか難しい。
理由は結界と魔道具の相性があるから。
反発してしまえばどちらか、またはどちらも壊れてしまうのだ。
だけど……。
「それに関しては問題ございません。既に魔道具はありますから」
「えっ?ああ!クレイが作ったのか」
そう、クレメンティーヌは努力の末に各分野でずば抜けた能力を身に着けたのだ。
魔道具作りもその一つ。
クレメンティーヌが独自に開発した魔道具はどんな結界にも反発しない。
だけど、この事はヴィーとクレメンティーヌだけの秘密。
それ程この事実は今ある魔道具の常識を覆し、この世界の情勢すら変えてしまいかねないから。
そしてクレメンティーヌの価値を変え、危険度を上げてしまうもの。
「う〜ん、でもなあ」
何悩んでるかは知らないけれどプライベートを確保出来ないなら滞在は無し。
四六時中クレメンティーヌの振りをし続けるのは無理。
精神的に未熟な私がストレスが溜まると前みたいにならないとも限らないから。
「許可頂けないのであれば、この話は無かったことに……」
「わかった、わかったよ、許可しよう。だけど設置する前に私に見せること、後時々確認させてもらう、いいね?」
「ええ、構いませんわ。ヴィー、ありがとうございます!」
よしっ!プライベート確保!
「……そんなに嬉しい?私としては淋しいのだけど」
「淋しいって、ヴィー?まさか、わたくしのこと魔法で監視してたのですか?」
「いやいやいや!監視はしてない、それは誓う!ただ時々クレイの存在を感知してただけだ」
それでも十分おかしいよ!
「クレイ、君がどんな状態になって私がどれほど心配したかわかってるよね?これくらいは許してほしいのだけど。でないと私は一瞬たりともクレイから離れられなかった、それでも良かった?」
確かに倒れて物凄く心配を掛けた自覚はある。
あの時ヴィー(光輝)が私を呼んでくれなかったなら、此処に私はいなかったかもしれない。
だから感謝してるし、ある程度の過保護さは甘んじて受けるべきなのだろう。
「……わかりました。でももう元気になりました。これからは止めて下さい」
「それについては善処しよう」
善処って何よ、即止めてよ!
思わずジト目でヴィーを睨むけど、そんなの知らんとばかりににっこりと微笑みを返される。
お前はストーカーか!!
まあ、魔道具を置いたら自室の中のプライベートは確保されるから良かった……良かったのかな?
こんな風にヴィーの手のひらで転がされながら、私の王宮生活が始まったのだった。
次回の投稿は2021年1月3日の予定です。