002 計画的婚約破棄
「もう三時ですか。今日はここまでのようですね」
「ありがと。今日はとっても楽しかった。また一週間後だね」
「ええ、また一週間後にお会いしましょう。楽しみに待っています」
そう約束を誓い、彼は屋敷をあとにした。
『やだ、行かないで』
頭では考えてもその一言がやっぱり言えない。口に出すと今の関係が壊れそうで、崩れさりそうで……今の立場を捨てなくてはならない禁断の恋だから。
彼は怪盗、いつか海に出るための資金を集める怪盗紳士 黒猫。本名はマゼランと私にだけ教えてくれた。名前を知ってるだけで舞い上がってしまう。私ってチョロいのかな。……ってもうこんな時間。彼のことを考えてたらあっという間に時間は過ぎてしまう。
チュン、チュン。鳥のさえずりは朝が来たことを知らせる。ああ、全然寝れなかった。
コン、コン。ドアの音が聞こえる。私ははーいと返事をした。
「おはようございます、お嬢様。失礼致します。昨日のことで相談が……」
執事、ルシファー(略してルシ)だった。そして、勘のいいルシは私の目がぱっちりと開いていることに違和感を感じるだろう。すぐ気づき、こう言う。
「またあの男と会っていたのですね」と。
二
「それで、昨日のことですが……」
「え、それだけ?聞かないの、昨日何をしていたか?」
「聞いても無駄というとこはわかりきっていますからね。もう諦めてますよ」
「今日のルシは話しわかるね」
小馬鹿にした様子で私は笑う。いつもなら私の主張に反駁をし、終わるまで待つ展開が続くけど、今日はそれがないようだ。でも、私は同時に不安な気持ちになった。
「聞かせて」
「はい、国の方針を決める大事な会議、軍国会議がありました。その内容についてです」
「あったことは知っているの。わざわざ、朝から来るってことは、内容が私に関係あるってことよね」
「見抜いていらっしゃいましたか、その通りです。軍国会議において予算、税、皇子の婚約者の3つが議題に上がりました。そこで、婚約者にお嬢様が選ばれました」
遂に、この日が……。半年前、姉が婚約に行ったことでうすうす勘づいていた。もうすぐ、なのだと。
けれど、ニヶ月前から考えが変わった。どうすれば回避できるのか、闇雲に反対しても意味はない、ここでまず味方にするべき人物。
「ルシ、どっちの立場なの?」
「旦那様が決めたです。本来なら異論はないはず、ですが、後に起こる面倒事を考えると私はお嬢様側に付きます」
「よくわかってんじゃん、ルシ」
「まだまだ新入りですが、長いことお嬢様と関わってましたから。あの表情、嘘ではないと誰が見ても理解出来ます」
「ふふ、ありがと」
何度も何度も繰り返した喧嘩、価値はあったようだ。普段もこうであれば楽なのに。
「よし、じゃあ婚約破棄計画について、話し合いを始めましょうか」
「はい、まずですが、今の現状を確認するとしましょう。現在、旦那様のお決めによって、お嬢様と皇子様を婚約をしています。お嬢様はそれを破棄したいということで宜しいですか」
「うん、宜しいです」
ふざけた様子でいる私に呆れたのか、ルシは何も反応もせず続けた。
「では、私はまず、旦那様を説得するのが良いかと」
「私もまずはそれを考えたけど、何日も旅行するとか言っていたし、会うのを避けてると思う」
「婚約破棄の相談をさせない意思が旦那様に見えますね」
「だから、皇子にまずは会ってみようと思うの」
「いいですが、会ってどうするおつもりですか」
「どういう性格か判断して決める。でないと話しにならないと思うから」
「わかりました。それなら、向こう側と話しをつけましょう」
こうして、二日後に皇子と私の面談が始まった。