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電脳加油  作者: カキヒト・シラズ


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3/3

第3話

「ぼくも宇宙人見ましたよ」

 二谷友則君が言った。

「あいつ、神出鬼没ですから」

 タワマンの2階が吹き抜けの空中廊下で共有施設のフィットネスジムに接続していた。

 フィットネスジムは20畳ほどの空間で、エアロバイク、ランニングマシン、油圧式筋トレマシンが数台置いてある。

 窓ガラスに面してない壁は鏡面になっている。これは体操やダンスをしたとき、自分の様子を確認できるためだろうか。

 二谷君と私はともに隣同士のエアロバイクを漕いでいた。

 ジムにはもう一人、油圧式筋トレマシンをやっている若者がいるだけだった。


 二谷君は15階で親と同居している。年齢は20代後半くらいか。

 タワマンで暮らし始めたころは会社員だったが、数年前リストラの憂き目にあい、目下、ニートとのこと。

 フィットネスジムはほぼ毎日利用しているらしく、私ともここで知り合いになった。

 二谷君も『電脳加油』を持っていた。アリババのネット通販で購入したとのこと。

 私同様、自室で幽体離脱したとき、UFOが現れ、宇宙人の顔を見た。

 それ以降、現実の世界でもしばしば宇宙人が現れるようになったという。

「長者はどこで宇宙人と会いましたか」

 二谷君は私のことを長者と呼ぶ。私がタワマンの上層階に住んでいるから金持ちだと思っているのか。実際のところ、離婚の慰謝料で自己破産しそうなくらい金欠になったこともあるが、そういう話は彼にはしていない。

 金がなくとも金があるふりをしてマウントを取る。私はそういうスノッブだ。

「行きつけの喫茶店で会ったよ」

 私が答える。

「彼、ウエイターをしてた」

「へえー、そうなんですか」

「二谷君はどこで見たんだい」

「そうですねえ。マンション内でよく見かけますよ」

 さっき、フィットネスジムに入って来たとき、ランニングマシンをやっている人がいたんです。

 どこかで見た顔だと思いましたが、挨拶せず、筋トレやってました。

 彼が宇宙人だと気づいたとき、振り向くともうフィットネスジム内に彼の姿はありませんでした」

「……」

「あいつはぼくたち地球人の心を操縦してるんじゃないかって思うことがあります。

 あいつの顔を見たときはどうしてもあいつのことを思い出せない。しばらく時間がたってからようやく思い出すんです」

 宇宙人の方が地球人より文明が発達している。だから彼らはわれわれをばかにして、からかっているのだろうか。そんな考えがふと私の脳裏をよぎる。

 私はエアロバイクを降り、今度はランニングマシンでジョギングした。

 フィットネスジムでは小一時間ぐらい過ごした。

 小谷君はとうに引き上げていた。

 フィットネスジムを出るとき、それほど激しい運動した覚えはなかったが、かなり汗をかいていた。


 吹き抜けの空中廊下は頭上を見上げると四方をタワマンの建物で囲まれている。

 金色に輝く円盤状の飛行物体がふと頭上を通過する。

 底面には漢字の「王」のような文字、もしくは模様が黒字で描かれている。

 UFOだ。私は直感した。

 UFOはタワマン上空を旋回した後、西の空に消えた。

 私は唖然として空中廊下を渡り、エレベーターに乗る。

「何階ですか」

 エレベーターに乗り合わせた男が言う。

「すいませんねえ」

 私が言う。

「じゃあ、40階、お願いします」

 男は捜査パネルの前に立ち、「40」のボタンを押す。

 どこかで見た男だった。だがどこで見たのかどうしても思い出せない。

 ドアが閉まる。エレベーターが上昇する。

「さきほど、UFO見ませんでしたか」

 男がおもむろに言う。

「えっ? どうして知ってるんですか。あなたも見たんですか」

 私は不意をつかれた思いだった。

「まあ、そんなところですかねえ」

 男は無表情に言う。

 途中、13階でエレベーターが止まる。

 ドアが開くとソバージュの若い女性。彼女がエレベーターに乗りかけるとき、操作パネルの側に立っている男に気づく。

「あんた、なんでこんなところにいるのよ」

 彼女は吐き捨てるように言い、エレベーターに乗らずに逃げ出す。

 エレベーターのドアが閉まり、再び上昇する。

「お知り合いの方ですか」

 私はおそるおそる男に尋ねてみる。

 しかし男は厳しい表情のまま無言だった。

「まだ、お気づきにならないんですか」

 エレベーターが30階を過ぎるころ、男はおもむろに口を開く。

 エレベーターは38階で停まり、男が降りる。

 振り向きざまに男は私に不気味にほほ笑むと、

再見(ツァイツェン)

 その言葉に私は雷の撃たれたような衝撃を覚える。

 男は逃げるように小走りに走り去る。

「ちょっと待ってくれ」

 私は思わず叫ぶ。だがすでに男の姿はない。

 あの男はどこかで会ったことがあるはずだ。一体、あの男は何者か。

 私の脳裏は無数の想念が渦巻いた。だがどの一つの想念にも集中することはできなかった。

 男が宇宙人であることをはっきり思い出したのは、私が40階に到着したエレベーターを降りた直後だった。


(つづく)


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