↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳加油  作者: カキヒト・シラズ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/13

第12話

「いかかでしたか」

 目を開けると視界がぼんやりしている。

 黒縁の眼鏡をかけたスーツ姿の男が見える。名札に「営業部 田中」と読める。

「まだ頭がぼんやりしてるよ」

 私はそう言いながら『電脳加油』を頭からはずし、ゆっくり立ち上がる。

 ジアヨウ有限公司の日本法人ブースは大人気だった。

 ここは東京ビッグサイトの東展示棟だ。

 私はVIP招待券を手に入れ、「スピリチャルIT産業2026」に来たことを思い出す。

「監査さんもいらしてたんですか」

 振り向くと澤村が笑っている。

 すべてが元通りに戻ったのかもしれない。そう思うとこの上ない充足感が私の全身を満たしていく。





 気がつくと車の中だった。

 佐伯修司は伸びをしてみる。

 ルームミラーを見ると……戻っている。元の自分――佐伯修司の顔だ。

 内ポケットを確認すると警察手帳が出てきた。

 開いてみると自分の顔写真があり、自分の名前と職制が書いてある。

「佐伯さん、どうしましょう」

 助手席の若林が声をかける。

「張り込み続けましょうか。今日はもうこれ以上、動きはなさそうですけど」

「いや、まだもう少しだけ粘ろう」

 佐伯がそう言いかけるとスマホが鳴る。

 スマホを取ると、山岡警視からだった。

「佐伯君、すぐこっちへ戻って来てほしいんだ」

「どうしたんですか」

「実は拘置所にいる加納俊也のことなんだが、彼がおかしなことを言いだしたんだ」

「と言いますと」

「彼は自分がシリアルキラーの二谷友則だと言い出したんだ。

 しかも事件の詳細を驚くほど正確に知っている。まるで本人の意識がのりうつった感じなんだ。

 君は二谷の事件を追ってたよねえ。詳しいことが知りたい。だから戻って来てくれ」

「了解しました」

 佐伯はスマホを切る。

「山岡警視からだ。署に戻るぞ」

 佐伯はそう言って車を発信する。

 なにが起きたんだろう。佐伯の脳裏には様々な考えが渦巻く。

 自分の意識は加納俊也の肉体に宿った。しかもその加納はこの世界の加納ではなく、パラレルワールドの別の世界線の加納だった。

 こちらの世界線では加納は殺人犯でシェアハウスに住む貧しい男。ところが自分が憑依した加納はタワマンに住むプチ富裕層だろうか。

 二谷友則もこっちの世界線ではシリアルキラーだが、向こうの世界線では結婚詐欺らしい。

 だから今、こっちの世界線で加納の体に二谷の意識が宿ったということなのか。

 頭が混乱しそうだ。佐伯は胸の中でそうつぶやいた。





 私の意識が私の肉体に無事戻ってから二か月後、別れた妻の友子から電話が来た。

 よりを戻したいとのことだった。

 私たちは日時を決めて喫茶店『バルザック』で待ち合わせした。

 友子は息子の次郎も連れて来た。次郎は今年、五歳だった。

 最初の五分間はやはり口論だった。どちらが悪いか。どちらが正しいか。

 私と友子はよりを戻すばかりか、二人の会話はほとんど平行線をたどるばかりだった。

「君は二谷君と不倫してたんだろう」

 私が言う。

「あの男、結婚詐欺で逮捕されたじゃないの」

 と友子。

「しかしねえ」

 私が言いかけるとウエイターがやって来て、「ご注文はまだですか」と言う。

 私はコーヒー、友子は紅茶、次郎はオレンジジュースを注文した。

 ウエイターは「星宇宙」という名札をつけていた。

「あの人、どっかで見たことあるわ」

 ウエイターが去った後、友子が言う。

「気のせいじゃないのか」

 私が言う。

「あの人、悪い人だよ。ウーチーチーだ」

 次郎が突然、口をはさむ。

「ウーチーチーはムー人だからわるものなんだ。いいものはルナ人だよ」

 友子が次郎が最近、夢中になっているゲームについて私に説明した。

 ウーチーチーは耳がとんがっている宇宙人で倒すとゲーム得点が倍増するとのこと。

 しばらくすると先ほどのウエイターが盆に載せて私たちの飲み物を運んでくる。

 次郎は終始、ウエイターをこわがっていたが「お子様のサービスです」と言って、飴玉を次郎に与え、「再見(ツァイツェン)」と言って次郎に手を振りながら立ち去った。

 次郎は少しだけ機嫌がよくなったようだ。

 私と友子はその後も長く話をした。

 店を出るころにはすっかり、二人とも復縁することを確認し合った。

 ただし、友子と次郎は今日は私のタワマンに泊らず、今住んでる住居に戻るという。

 私は駅まで二人を見送った。


 夕焼けがまぶしかった。

 タワマンまで歩いて帰る途中、金色の円盤のようなものが上空を駆けて行くのを目撃する。

 UFOだ。

 はたしてあのUFOが吉兆なのか凶兆なのか。どちらともわからないが、自分で決めていいなら吉兆を選ぶし、吉兆であることを祈りたい。

 私はそう思いながら、いつまでもUFOを眺めていた。


(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。