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タガタメファンタジー~魔心導師は愚者と踊る~  作者: 南乗七史
番外・踏み出すべき一歩
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第2節・変態の過去とちょっとした変貌

 カラオケが終わり、店から出た。


「清水さん、よくこんな所知ってたね。普通にチェーン店とかじゃないカラオケとか初めて。ご飯も美味しかったし」

 と、さやかっちが言うので、私はピースサインを作って自慢する。

「ご飯は店長さん手作り。本当ならもっと高いんだけど、知り合い割引でチェーン店と同じくらいのお値段。美味しかったでしょ」

 知り合いというのは勿論夜職の客だ。


 夜職の客は面白い人が多い。酔わせて色々な話を聞けば本当に色々な話を聞ける。仕事だから仕方なく聞いているというキャストも多いけれど、私は私の好奇心を満たしてくれる経験豊富なおじさまや波乱万丈な裏社会の人が大好きだ。


「そんじゃあ解散としますかぁ」

 しゅんちんが提案して、解散のムード。

「じゃぁ僕はお先に失礼するよ」

 さとるんが早速自転車に跨って行こうとするので、止めた。

「さとるん、多分方向一緒。送ってって」

「え」


「清水さん、そいつはやめときな。ほんと顔だけだよ」

 さやちんが私を庇うように抱き寄せるけど、私はその手をぽんぽんと宥め、優しく解く。

「知ってる。変わってる人に興味があるの。さとるんの奇行について、聞きたい事とかあるかさ」

「えー、千佳ちゃんも実際変な子だよねー、さっそく変なあだ名付けて回ってるし」

 そう言ったのはよっしー。


「おいおい、僕の言動に奇行なんて表現はミスマッチじゃないかい? どのへんが奇行なのかな」

「そのへん」

 さとるんが突っ込み欲しそうな発言をしていたので、多分合ってるノリで返す。皆が笑う。


「まぁじゃあこご指名頂いた僕が送っていくとするよ。康太、俊介、慎平、すまないね、美味しい所はいただくよ」

「変な気起こすなよー?」「ノリがホストのそれなんだよな」「気を付けろよ真中。しみっさんもお前に負けないぐらい癖強いから」

 男性陣が各々のコメントをくれる。さとるんは「任せてもらおう」と演技臭い大仰な口調で答えて、歩き出した。私はそれに続く。


「それで、どういうつもりなのかな。彼方と接触するために外堀から埋める計画なら無駄だよ。僕は彼方のために尽くすと決めている」

 ある程度歩いたら早速さとるんが切り込んできた。嘘くさくない、普通の口調。田亀彼方(たがめかなた)達と接している時のさとるん。こうしていればモテてモテて仕方がないだろうに、あえてそれを隠す不思議な男。


 さとるんの疑いは当然だろう。現在私は、田亀彼方――魔心導師の協力者として働けるか否かの許可申請が国に提出され、その裁定待ちとなっている。外堀から埋めて田亀彼方が断りにくい空気を作ろうとしているんじゃないかという懸念と、田亀彼方が私に――いや、協力者が増える事に抵抗感があるらしい事。これらを踏まえれば、私の行動を怪しむのは、田亀彼方の友人として正しい気遣いだ。

 だけど違う。

「それはそれかな。私はさとるんにも興味があるんだよ。あ、勘違いはしないでくれよ、君に恋しているとかそういうんじゃない。だから安心して良い。私が気になるのはさとるんが好感度調整をしている理由さ」

「それは……」

 さとるんが口ごもる。これも当然だろう。誰しもが触れられたら痛い過去を持っている。常人なら気を使って引けるところだろうけど、私にそんな気遣いは無い。出来ない。


「…………」

 さとるんから続きは紡がれなかった。当たり前だろう、()()()()、おいそれとは出来ない。だから私から切り込む事にした。


「さとるんとかなたんの中学で起きた事件。――女子生徒が一人死んでるあの事件。もしかしてあれも思念体?」

 さとるんの顔が一気に青ざめた。トラウマらしい。人が目の前で死ねばそれはトラウマにもなるだろうけど、多分そういう事じゃない。


「私が知ってるのは、女子生徒同士で喧嘩が勃発して、一人が死んだって事と、そのすぐ後にさとるんが転校したって事。その後に高校でかなたんと同じ学校に来てまで協力をするほどの何かを感じてるって事は、さとるん関係の思念体が事件を起こして、それを解決したのがかなたんだったんじゃないかな。それでさ、恩義を感じて、今に至る。違う? 好感度調整も思念体の事件を再発させない工夫かな」

 かなたんは少しの間沈黙した。しかし、少し浅い息を吐いてから、観念したように虚しく笑う。


「まるで見て来たかのように、全部正解だよ。そこまで解っていて、今更僕に何の興味があるんだい?」

 さとるんの言う通り、解っている事は多い。でもこれらは過去の情報を繋ぎ合わせた今の姿()()であって本質じゃない。私は私が知りたい、興味が溢れてたまらない質問をする。


「ねぇ、さとるん、そんなに恩義を感じてて、そんなに尽くす決意があって、能力があって、それでさ、それでどうして――どうして、愛野小蝶が受けているような修行は受けないの?」


 ああ、知りたい、早く知りたい、黙らないで答えて欲しい。問い詰めるための手段はいくつか用意している。待っていれば知れる。大丈夫、慌てなくて良い。この焦らされる時間も気持ち良い。クイズ番組で正解か不正解かを待つあの時間みたいな緊張感。ああ、たまらない。


 さとるんは答えないどころか、立ち止まった。


 自転車を引く手が微かに震え、しかしそれを押さえつけるようにグッグと力を入れ、呼吸を整える。こういう仕草には覚えがある。さとるんは今、多分怒ったのだ。黙っているのもそうだ。アンガーマネジメント。怒りそうになる自分を落ち着かせている。そんな必要無いのに。思うままキレ散らかして、感情の汚いとこまで全てを見せてくれたほうが、私は気持ち良いのに。


 もういいや、好奇心が抑えられない。煽っちゃおう。


「――ああ、田亀彼方が女好きだから女だけ特別待遇してる感じ?」

「君にっ!!」


 一瞬、さとるんの感情が弾けかけた。しかし、思いとどまる。でも、多分追撃は要らない。あとは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 さとるんは何度か不安定な深呼吸を繰り返し、まばたきをして、そして言った。


「愛野さんは、自衛のために絶対必要だったから、仕方なく彼方も了承しているだけだよ。僕も稽古をつけて欲しいと頭を下げたけど、断られたんだ」

 悔しそうに言う。その口調は自責で溢れている。「君にっ!!」に続く私への他責も気になっていたのに。鉄板どころでは「君に何が解る」かな? ああ、言ってくれて良かったのにそれくらい。私なら受け止められる。いや、受け止めたい。複雑な人間関係を経た複雑な感情なんて、滅多に見られない。私の興味は尽きない。


 私は当たり前の事のように言う。

「どうしてそんな突き放すみたいな感じなんだろうね? 協力したいって言ってる人が居て、協力が必要な仕事なのに。人の好意を踏みにじってるみたいでさ、ひどいよね」


 共感とすり寄りのための会話テクニック。良い大人でも酔っていれば有効だし、並大抵の男子ならこれで心を傾けてくれるけど、流石はさとるん。見抜かれたらしく、くだらないとばかりに笑われた。


「そんな手で篭絡出来ると思ったのかい? 色々と君には負けるけど、対人関係スキルにおいては、少なくともそんな易い手で絡めとられる弱者のつもりは無いよ」

 舐めるな、と、本心は言いたいんだと思う。闘志の宿った目が、私の欲望を屈服させる。


 人の感情は生ものだ。正解が無く、理屈が無い。だからこそ、人の感情が強く反応する瞬間は、いつ何を知っても永遠に新鮮でいてくれる。


 ああ、見たい。このまま真中悟がブチ切れて理性を失ったらどうなるのか見たい。彼は煽り続けたらどうなるのだろう。取り乱して逃げてくれるのだろうか。殴ってくれるのだろうか。犯してくれるのだろうか。それとも、私の知らない経験した事が無いキレ方をしてくれるのだろうか。


 さとるんの人格への興味も尽きない。いつもならさらに煽り散らかして感情を爆発させようとしていたと思う。でも残念ながらそれはお預け。今はそんな事よりも知りたい事がある。


()()()()()()()()


 と、私は言う。さとるんは目を大きく開いて、多分怒るよりも驚いていた。彼はこれでは怒らない。そういう性格だと私は予測している。他者に向けられた暴言には弱く、自分は何を言われても平気。そういう人間なんだと思う。


 私は続ける。


「君は、自分のやりたい事をやりたいと言えない。一度二度断られただけで悟ったフリして納得して諦めた気になって、そうやって自分を押し殺すしか出来ない弱者。それが君じゃないかな。違うかな。ねぇさとるん。本当にベスト尽くした? それだけの恩義と覚悟と精神力があって、愛野小蝶なら修行させてもらえるのに自分だけ修行させて貰えない理由に、納得なんて出来る? 私なら無理。私なら無理だよ。やりたいと言えない弱者だ。雑魚だ。本当は進みたい進路があるのに何も言えず親の言いなりになって、大人になってから自分は毒親の元で育ったとか言い訳かましてる連中と同じ、君は雑魚だよ。君のプライドはそれを許してるのかな。本当に? 許してないはずだ。納得なんて出来てないはずだ」


 解き解す。説き絆す。私の知りたい回答のために、私は私の()()()()をやる。


 人間関係において、本来は正解がある。と私は思う。でも、倫理とか、常識とは、気遣いとか遠慮。そういうのが邪魔して、正解が解っているのに行動出来ない瞬間なんていうのはいくらでもある。


 そういえばこういう考えがある。遠慮には種類がある。


 配慮、遠慮、無慮だ。


 例えばサンタが「プレゼントフォー・ユー」と言って素敵な贈り物をくれたが、それを断るとして。


 ひとつ。「他にそれを求める人が居るんじゃないか」「このプレゼントは無理しているんじゃないか」と『(おもんばか)る行いを誰かに配る』のが配慮。

 ふたつ。「受け取ったら恩返しが面倒だ」「受け取っても返せる自信無いよ」みたいに『慮る行いを自分から遠ざける』のが遠慮。

 みっつ。「有難迷惑」「お前の欲求押し付けただけじゃね?」「レベル足りない、無いほうがマシ」と『慮る行いをただ無碍(むげ)にする』のが無慮だ。


 さぁ、真中悟はどの『慮る』だ?


 さとるんは答えた。

「彼方は、僕の将来の責任を負いたくないんだと思う。多分、僕が少し勉強が出来たり器用だったりするから、将来どんな仕事にもつけるって思ってくれているみたいで、そんな感じの事は言われた事があるよ。協力したいっていう感情は僕の我侭。でもヒシヒシと感じる。『俺に責任を背負わせんな』みたいな、彼方の生きざま。それを感じちゃうと、どうもね、『彼方にとって重荷にならないよう、適度に協力する』っていうのが、最大のwinwinなんじゃないかってね、思ったんだよ」


 これは配慮だ。さとるんは田亀彼方のために一歩身を引いている。


「でも」


 私は言う。


「田亀彼方の言ってる事に従えば、田亀彼方のためになるって、本当にそう思ってる?」

「っ!?」

 真中悟が声にならない声を出す。思い当たるようでよかった。


 ()()()()()()()()()()


 ひねくれ者で、人間不信だから、とりあえずあらゆる「慮る」を遠ざける。


 なら、配慮ばかりでは、彼のための行いは出来ないと思う。


 私は言う。一番気になっていた事。これを言ったら彼がどうなるか。彼らがどうなるか。


「――やりたいと思ったなら、やってみるべきだ。まずは熱量に任せて、本気で」


 さあ、これからどうなる。


 私の好奇心は絶えない。

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