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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
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第98話『大地の試練01』

ここに精霊がいることはわかっていた。

今まで感じたことのない力。だが、似たような力を知っている。その力の持ち主は精霊だ。


そしてここが小人族の里というのも見当がついていた。

この里の者には似たような特徴があるのだ。それは低身長、髪に差し色、固い身体に人間よりグレーよりの色味の肌、突進力。

戦闘力に差はあれどこれだけわかりやすい特徴があり、その特徴を持つテリアが小人族だと名乗っている。

そして『この場所に帰るつもりだった』らしいテリアと、その『帰りを待っていた』という発言。

これだけのヒントがあれば、その結論にたどり着くのは容易だ。

ただ……わからないことはある。


「貴女は……一体何者なのですか?」


セリナがおばちゃんをまっすぐ見つめて言うと、おばちゃんは照れくさそうに手をひらひらと振る。


「いやだよぉ、アタシなんてそんなたいした者じゃないよ。ただのそこらにいるおばちゃんだべさ」


ただのおばちゃんが『大地の精霊』に会える場所を知っていてたまるか。

……そんなツッコミはとりあえず置いておく。


「それで、私はなにをしたら『大地の精霊』に会えるのでしょうか?」

「……うん、いいね。話が早くて助かるってもんだ」


笑みを絶やさずにセリナが言うと、おばちゃんはにやりと笑った。

先ほど辺りを見回した時に思ったのだ。あるはずのものがない、と。

それは、他の精霊に会った時にあった台座のようなもの。セリナはそれに魔力を込めて精霊を顕現させていた。それがこの部屋にはないのだ。

そしておばちゃんは言った。ここは『大地の精霊』へとつながる入り口だと。

つまり、まだ会える資格はないと言っているのだろう。


「簡単なことさね。あの泉に入って祈ってくれればいい。それで『大地の精霊』様が会いたいと思ったら出てきてくれるはずだべ」


言われてセリナはもう一度泉を見る。

男女の像が左右にあり、二人が持つ瓶から出る水がたまる場所。石で出来たその場所は緑に囲まれていて非常に美しい。

そして、その場所は確かに一番力が溢れているように思える。

泉に入る、ということは沐浴のようなことをしろということだろうか?


「じゃ、おばちゃんが作った服に着替えてもらうべ。会うための大事な格好だ」


そう言って、エプロンのポケットからズルリと衣装を取り出す。薄い黄色を基調とした、肌の露出が少し多めのワンピースのような服だ。

エプロンにそんなものが入るような容量も膨らみもなかったはずだが、世の中には時空の倉などの便利な魔法がある。そんなエプロンがあってもおかしくない。


たぶん。


「ありがとうございます」


セリナは服をおばちゃんからもらうと、早速服を脱ぎ始める。それを見ておばちゃんが一瞬戸惑った。


「あれま。若い子は裸になるのをもっと躊躇するもんだけどねぇ」

「ふふ。お見苦しいものを見せてしまい、申し訳ありません」


人に裸を見せることに今更なんのためらいがあるというのだ。むしろ、見せることで敵にスキがうまれる便利な道具だ。今までだって積極的に使ってきた。

服を脱ぎ丁寧に畳んで置くと、おばちゃんがそれを手に取った。


「これはおばちゃんがちゃーんと綺麗にしておくからねっ」


ふんっと鼻息荒くして言うおばちゃんに苦笑しつつもセリナは着替え終える。

サイズはピッタリ。苦しさどころか軽さを感じられ、とても動きやすい服だ。

靴も脱ぎ、ペタペタと歩いて泉に向かう。

深さはセリナのひざくらいだろうか?その円形になった石造りの場所には小さな階段があり、水に身を落としやすくなっている。

セリナはゆっくりと足を出した。階段を一歩降りると足が水に沈む。


そして――


「……え……?」


セリナはその場にすとんと座った。

セリナの意志ではない。勝手に腰が抜けたのだ。

そして……どんどん体が脱力していくのを感じる。足が、腕が、体が動かせない。重い。落ちていく感覚。

なんだこれは……?


「片足か。うん、まずまず」


後ろから聞こえるおばちゃんの声。そしておばちゃんはセリナに近づくと、水に浸かっている足を出した。

その瞬間にセリナに疲れのようなものが襲ってきた。

とたんに全身に汗が流れ、息が荒くなる。男女の像がぐにゃりと曲がったように見えた。


これは……魔力の枯渇だ……!


「すごいねぇセリナちゃん。普通は一滴の水でお陀仏さね」


あっけらかんと言うおばちゃんがセリナの足を、どこから取りだしたのかわからないバケツに入った水で洗う。すると体が軽くなった気がした。だが魔力はなくなったままのようだ。


これはなんだ……なにが起こっている?

水に片足、しかもくるぶしくらいまで浸かっただけだ。なのにどうしてこんなに魔力がなくなる?

この泉は一体……?


「精霊が試練を与えるものということは知っているかい?」


おばちゃんがセリナを見て言う。

確かに今まで出会った精霊は何かとセリナの力量を試してきた。


「これは『大地の精霊』様の試練。泉に浸かること。それだけだから簡単な試練だべ」


カラカラと笑うおばちゃんにセリナは血の気が引いた。


これが簡単?そんなわけがない。精神面を試してきた『氷の精霊』とは質が違うだけだ。


セリナは視線をおばちゃんから泉に映した。

先ほどまで美しいと思っていたその光景が、溢れ出ている力が一転して恐怖の対象に変わった。


これでも一応元『聖女』だ。今まで出会ってきた中で自分よりも魔力が多いと思ったのは、妹のリアナだけ。それくらいセリナの魔力は膨大だ。

その魔力を一瞬で吸い取るこの泉に浸かる?冗談じゃない。


――怖い……っ!


体が震えているのは魔力がなくなったからではない。でもこれは恐怖?わからない。


……あぁ、なにか温かいものが欲しい。そう思うのに、具体的なものが思い浮かばない。


魔力を回復させれば良い?ベッドに潜り込めば良い?焚火に当たれば良い?温かい飲み物を飲めば良い?なにか食べれば良い?とりあえず寝れば良い?部屋の奥のほうへ行き寒さをしのげば良い?

孤独を、一人を、そうやって過ごしてきた昔の経験を、温める方法を、なにか、なにか……!

いや、違う。違う。わからない。わからない……っ!


「……今日はここまでにしておこうかね」


おばちゃんが混乱したままのセリナを、ひょいと肩に担ぎ上げる。そしてずんずんと歩いていき、部屋を出てすぐ隣へ向かう。

そこにはドアがあったようで、おばちゃんが勢い良く開く。すると、なにやら暖かい空気がドアの先から流れ込んできた。

セリナがそれに気づいた時にはもうおばちゃんはその部屋に入っていた。

そして……いきなり投げられた!


「わっぷ!」


大きな水しぶきをあげてセリナは水の中に放り込まれた。

先ほどの泉よりも深くて……温かい。水から顔を出しなんとかその場に座る。その水はセリナの胸くらいの深さだということが分かった。


先ほどの泉と同じく石で作られた円形の場所、男女の像。


違うのは円形の大きさがこちらのほうが大きいのと、水の量がこちらの方が多い、そして水が暖かく湯気が出ているということだ。


「そのお湯は泉と同じ水さ。けどこっちは向こうと違って、どんなものでも回復する力がある。全快するまでゆっくり浸かるといいよ」


ニカッと笑いながら言うおばちゃんに、ついていけていないセリナ。

でも確かにこの水の温かさは心地良く、魔力が少しずつだが回復している。


「おーい!こいつも追加だべ!」


おばちゃんの後ろから聞こえる男の声。

そして、またしても何かが投げ込まれ大きな水しぶきがあがった。


「ちょ!おじちゃん!もう少し優しく入れてくださいよぉっ!」

「はははっ!すまんすまんっ!でも暴れたお前が悪いんだからそれくらい我慢しろっ」

「もぅ……っ!」


そこまで話して眼鏡をかけ直した人物――テリアは横で同じく浸かるセリナをようやく見た。


「あ――」

「はいはいっ!この神聖な場所で暴れたらまた説教だよっ!わかった!?」


テリアがなにかを言う前に、おばちゃんが大きな声で言う。それを聞いて、小さくなったテリアは小さくうなずいた。それに満足したのか、おばちゃんは大きくうなずいた。


「二人とも治るまではそこにいることっ。セリナちゃんは試練をクリアするまではここから出られないからねっ。テリアは早く治しておかえりなさい会に参加するんだよっ。わかった!?」


おばちゃんの言葉にセリナとテリアは同時に小さくうなずく。

それを見てニカッと笑うとおばちゃんはきびすを返してそのまま大きくドアを閉めて出ていった。


「………………」


セリナとテリアは、しばらくの間お互いをただ見つめることしかできなかった。

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