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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
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第92話『暗躍』

「ここの秘密を知ったもんは全部処分だ……だが……」


女が自ら剣を床に投げ、降参だと言わんばかりに両手をあげる。その顔は引きつっていて、今にも涙が流れそうなくらい怯えている。

セリナはベッドに座ったまま女の様子をいつもの笑みのまま見ていた。


「私みたいなごろつきでも魔力をある程度見れる。今でもあんたは一般人と変わらない魔力量だ……なのに……こんな……」


女がちらりと床に倒れている女たちを見る。一撃で仕留めたことを言いたいのか、躊躇がないことを言いたいのかはわからない。だが、どんどん顔が青くなっていく様を見るのは楽しい。


「殺さないでくれよ……なんでも話すからさぁ」

「では、この施設について教えてください」


セリナが声を発すると女はびくりと体を大きく震わせる。特に作った声なわけではないが、セリナの一挙一動が恐怖に変わっているのだろう。

あぁ、久しぶりに見たなぁこの反応。


「こ、この施設はさらってきたヤツを売るための場所だ。ここから地下を通って男の街に入れるようになっている。その間にオークション会場があって、そこで品評会をするんだ」


会場……ということはそれなりの大きさの部屋だろう。作るには莫大な費用がかかりそうだし、それを個人で秘密裏に行えるだろうか?よほどのおばかさんがいないと仮定するのならば。


この制度は、国公認というわけだ。


表向きは『中央国』以外の国は奴隷制度の禁止を掲げている。しかしこの方法が、一番簡単にこの国の仕組みを円滑に回せる方法だというのはわかる。


わかる……が……


「この施設、運営方法は?」

「い、今は、街に何か所かある店で毒を盛って誘拐をして、それを売る。私みたいなごろつきが雇われているんだ」

「雇われて?」

「……あぁ。ベールでいつも顔を隠していてわからないが前金はたっぷりもらえたし、一人運ぶだけでもたくさんもらえる。金につられてここで雇われ続けているやつだらけさ」


街で毒トラップをしかけている人間も似たような形で雇われているのだろう。さすがに誘拐計画のために店を構えたとは考えにくい。それならもっと立地が良い場所を選ぶ。

セリナの時はわざと裏路地に入ってさらわれたが、毒の周りは人それぞれ。往来で倒れたらさらうのも一苦労だし、人が倒れる街として噂になってしまう可能性だってある。


毒を盛ったあの女が調整をしているわけではない。追加で持ってきた団子に入っていた毒は、最初のものと同じ量だった。


その雑さに違和感を感じる。もしかして国黙認のほうが合っているのか?


……なんて。ここまで考えてみたのだが、どうしたものか。


別にこの施設になにかをしようと思ったわけではない。毒を盛られたので、そのまま興味本位で連れられてきただけ。あくまで仮説だが国が関わっているのであればなおのこと、ことを起こさないほうが良さそうだ。


しかし……


少しの沈黙。

それを破ったのはセリナの言葉だった。


「この施設、見学させてもらえませんか?案内してください」

「あ、あぁっ。なにが見たい?」

「先ほどの売られる者たちを」

「わかった。ついてきてくれ」


女がようやく動き出しドアを開ける。それを見てセリナはようやくベッドから腰を上げた。

先に歩く女に続いて、セリナは辺りを観察しながら歩く。


プレハブ小屋と称していたがまさにその通りのような風貌をしている。古いからかところどころ壊れていて、すきま風が施設内にややじめじめとした空気をもたらしている。

硬い石で出来た壁や床には、古い血や引きずった跡が残っている。どんよりとした雰囲気が漂い続けていて、あまり気分は良くならない。

先ほどセリナが連れられた部屋も相当ガタが来ていそうだったが、この廊下よりはいくぶんもマシに思える。


やがて……遠くから聞こえる複数の人間の声が聞こえてきた。先ほど聞いた声と同じだ。


「た、助けて……!」

「出してよぉ……」

「ここはどこ?おかあさぁん」

「もうおしまいじゃ。もうおしまいじゃ」


廊下にあったドアをくぐった先、その部屋の左右にあるうちの牢屋の一つ。左側にぎゅうぎゅうに入った人間たちを見る。全て女で年齢も服装も全てがバラバラだ。


もう一つ、向かい合わせになった右側の牢屋の中には男が入っていた。こちらも全てバラバラで、女のほうよりも気力を失っているように見える。


真ん中は廊下よりもやや広めの道のようなものがあり、その先にはドアがある。先ほどはここを担がれて連れられたのだろう。


「女はこれから売りに出す。男は買ったものだ。取引が成立したやつから連れ出される」


セリナにうながされる前に女が説明をする。良かれと思っての行動だろう。だが、これがいけなかった。

胸の内にあるモヤがどんどん大きくなっていくのをセリナは感じていた。

元々奴隷のような扱いを受けていたセリナだ。様子を見れば不愉快にはなるだろうとは思っていた。しかし、相手はいなくなってしまえば良いと思っている人間だ。

それでも見たかったのだ。そうしたら、このモヤの正体がわかる気がして。


そして……


はぁ、と大きくため息をつく。部屋の様子を目だけで確認しながら、セリナが今考えることは一つだけだ。


……さぁ、どうやってこの施設を壊してやろうか。


奴隷を開放してから潰す?でもそれだと行き場を無くした奴隷をどう扱ってよいかわからない。セリナはこの国の土地勘がないのだから。

それならいっそ奴隷ごと全部潰してやろうか。

そう思い魔力を込めようとした瞬間――


「な、なんだよ。どうしたんだ?なにか聞きたいことがあるのか?」


護身用だろう。セリナの目の前で怯える女の腰に収まっている短剣が目に入った。入ってしまった。


……あぁ、見るんじゃなかった。


もう一度大きなため息を一つ。

一人だったらなんの抵抗もなかったのに、なんとも面倒くさい『友達』に出会ってしまったものだ。


『――っ――』


幼く可愛らしい声が頭の中で聞こえた気がした。


はいはい。わかっていますよ、貴女の言いたいことは。


「……こういった施設は他にもあるのですか?」

「え?あ、あぁ。そう聞いているが、私が知っているのはこの一つだけだ。でも、全て地下のオークション会場に繋がっていると聞いている」


なるほど。この施設を壊してしまうより、そのオークション自体をなんとかしたほうが良さそうだ。

いや、むしろもっとこのことを調査して正確に把握しておいたほうが、国を脅すネタに使えそうだ。

この国の王に面会許可をもらえる手段、精霊の場所を吐かせるためのカードは多いことに越したことはない。


「それでは――」


セリナが次の指示を出そうとしたその瞬間――

今しがた入ってきたドア側にから現れる気配と魔力に、セリナの体は反応していた。


「……かっ……?」


まるで横からこづかれたように頭を大きく左右に揺らし、そのまま倒れる女を大きく飛んで逆のドア側にまで離れた先で、セリナは確認した。

女のこめかみには短剣とも呼べないほどの小さな剣。まるでおもちゃのようだが、倒れた女は大きく目を見開き、血を流して息絶えている。


――いつの間に入ってきた?いや、いつからいた?


考えている間にセリナの手には魔力の糸が出現している。それを魔力が膨れ上がった、セリナの目線の先にある天井へと解き放つ。

魔力の糸は薄暗い天井にいるであろう『なにか』を捕まえようと巻きつきを開始し……そのまま空ぶった。


……下かっ!


天井に向けた魔力の糸の先を硬化させ、そこから下におろす。今度は捕まえる気はない。このまま少し痛い目に遭ってもらう。

魔力の糸は床の一部を削る。が、それだけ。気配ははっきりと感じられるのに捕まえられない。この速さはリオナルド以上だ。


「……っ!」


こっちに向かってきた気配を避けるべく、セリナは魔力の糸を操作しながらドアあたりから廊下の真ん中、女側の牢屋のほうへ避ける。

猪のようにまっすぐ向かってきた気配は、そのままセリナを少し通り過ぎドアまで行き、すぐに軌道を変えてセリナへ向かってくる。


次の瞬間――


「ぐぅっ!」


唸り声をあげる『なにか』。

セリナは魔力の糸を使って引っぱった、案内役だった女の体を『なにか』との間に素早くすべり込ませ、盾のようにしてふさいだ。それに勢い良くぶつかったのだ。

その間にセリナはもう一本出した魔力の糸を天井に刺し、自身を上に飛び上がらせる。


「狭いところで暴れないでくださいっ!」


盾によってひるんだ『なにか』の上。魔力を込めた手で天井を勢いよく押して思い切り『なにか』を踏む。

まるで石を踏みしめているような感覚で、こちらの足が少し痛む。だが衝撃は抑えられていないだろう。そんな手ごたえがあった。


「……がっ!」


声をあげる『なにか』は、セリナの足の下で苦しそうな声をあげる。そのスキを狙って魔力の糸で捕まえようとする。

だが、その時なにやら嫌な予感がした。


「ちっ……!」


すぐに飛び上がり避ける。見るとセリナが乗っているにも関わらず、何事もなかったかのように体を起き上がらせ、おもちゃの剣でセリナがいた場所を斬っていた。

地面に着地したセリナは盾を、やれやれと一息ついた風に横に避ける『なにか』をしっかり確認した。


それは人間の女だった。

歳は十代だろうか?とても背が小さく眼鏡をかけている。


「あたたぁ……なにするんですかぁ」


その場にそぐわない間延びした声。見た目に反して低めだ。


「それはこちらのセリフですよ」


言いながらセリナは相手をよく見る。

オレンジにところどころ黄色が混ざった、内側にウェーブされた肩くらいの髪に薄い緑色の瞳。この国でよく見る茶色のブラとゆとりのあるズボンを身に着けている。


「一体どちらさまですか?」


セリナは戦闘態勢のまま、にこりと微笑んで問いかける。すると女は眼鏡を手で直して、服の埃を取り払い、まるで準備運動をするかのように、こちらに背中を向けるように腕を動かす。

先ほどセリナが踏んだ背中、そこにヒールの跡はやはり見当たらなかった。


「この施設を守っているんですぅ。だから、余計なことをしそうだったので邪魔してみました。あっていますかぁ?」

「余計なこととは……一体なんのお話でしょう?私はここに誘拐されたか弱い冒険者ですよ」

「か弱い人はそんなことできませんよぉ」


女はおもちゃの剣でセリナの魔力の糸を指す。


「すごいですねぇ、魔力の糸ってそんなことができるんですかぁ。まぁ、私は専門外なのでどうでも良いですが」


にこにことセリナ以上に場違いな笑顔を浮かべる女。

牢屋の中の人間の助けを求める声が、怯えたうめき声に変わっている。目の前の女の敵意がセリナに向いていても、だ。

頭の中で警鐘が鳴る。油断するな、冷静に。


「ここのことは黙っていてもらえませんかぁ?そしたら私からはなにもしません」


女が手を合わせてお願いするようなポーズをとる。

『私から』は、ね。つまり、それ以外の人間……セリナを買ったものがなにをしようとも関係ない。大人しく売られろとそう言っているのだ。


「ずいぶんと急なお話ですね。そんなこと言われてうなずく人はいないと思います」

「そうですよねぇ。だから困るんですよねぇ。本当に人間はめんどくさい」

「人間は……?」


言葉に違和感を感じセリナがオウム返しをする。すると女は大きくため息をついた。


「またその反応ですかぁ。本当にめんどうくさい。冥途の土産に覚えてくださいねぇ」


女は姿勢を低くする。片方の手は床に、もう片方の手の指の間には、どこから取りだしたのかわからないおもちゃの剣。


「私たち小人族の存在を」


その言葉を合図に、女は地を蹴ってセリナに向かってきた――

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