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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
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第90話『交易利得』

セリナは改めて買った地図を見る。

関門を時計でいう十二時とするならば、その十二時と六時の部分にある壁。その左側がセリナがいる場所だ。


中央だけは丸く切り取るかのように街があり、そこが中央部。城下町があり王城がある場所のようだ。つまり、そこを目指せば良い。

それに、そこには男側からも入れるようになっているようだ。そこで二人に出会える可能性は大いにある。

そう思い、目を地図から景色へと向ける。


小さな町や村がまた点々とあるのかと思ったが、中央部の外側は丸々街になっているようだ。


まず見えたのは観光客用の露店。そこには地図やお土産用のものが売っていた。わかりやすく『西国』産と書かれた食べ物や小物が売られている。

食べ物に惹かれはしたが、それ以上にまず状況把握をしなければ。

そう思い、セリナは近くにある服の専門店に入る。


「いらっしゃいませー」


にこやかに、女がセリナに向けて声をかける。今までの国の中では一番穏やかだ。

セリナは自身の防御魔法で寒さや暑さを感じることはない。だが、この『東国』の服では厚着すぎて浮く。それに外から来た人間が来そうな、関門に近いこの店なら情報収集が出来そうだ、そう思ったのだ。

セリナは、店員であろう女に近づき少し困った顔を見せる。


「すみません。私、この国に初めて来たばかりで……なにか素敵な服を一緒に選んでいただけませんか?」

「え?わっ、私で良ければ!」


店員の女は顔を赤くして飛び上がらんばかりに言ってくる。


……本当に洗脳魔法をばら撒いていないだろうか?そんな不安がよぎったが、そういえば『中央国』でならともかく、セリナの容姿でこうならない人間のほうが稀だった、と感覚がマヒしていたことに気づいた。


女は光の速さで複数の服を持ってくる。

リオナルドもそうだが、着せ替えをしたがる者の気持ちが全く分からない。される側にしかなったことしかないからだろうか?


「試着室がありますので、とりあえず着てみてください!きっと気に入るものがあると思います!」


女が楽しそうに言うので、セリナはにこりと微笑み試着室に向かう。女の目はセリナの虜だと言わんばかりに見つめてくる。ライラも、セリナの着替えが見れるということで楽しそうだ。

さっそく試着室に入り、女が持ってきた服に着替えてみる。


「ずいぶん軽装なんですね。すごく軽い生地……肌触りも気持ち良いです」

「そうでしょう!この『西国』で取れた素材を使った服なんです。服も気候に合わせて涼しく、華やかにできているんです」


ブラとスカートに分かれたツーピース。上半身はブラだけなので涼しいのはわかるが、スカートは足元まで隠れるくらいの長さなのに涼しく感じる。

服はこれだけではなく、半透明の長いベールを肩からかけるようだ。服にはビーズが使われ遠くから見ても美しく光るだろう。


セリナは試着室のカーテンを開けて、店員とライラにその姿を見せる。


「どうでしょ――」

「わあああ!素敵ですお客様あああ!」

『わぁっ!セリナかわいい!』


セリナの髪色と同じ紫色がメインに使われた服なのでどうかと思ったが良いらしい。これなら闇に紛れてもわからな……いや、ビーズでバレるか。


「お客様!こちらもどうぞ!ぜひ!」


店員が渡してきたのはネックレスや腕輪などのアクセサリー。ますます紛れられないと思ったが、魔力増強の付与がついているところは気に入った。


『かわいい!かわいい!セリナかわいいよー!』


……これは、他の服を試す必要もなさそうだな。

ライラの喜んだ姿に弱いセリナは、心の中でため息をついた。そして笑顔で店員に言う。


「これにします。一式をください」

「ありがとうございます!よくお似合いですよ、お客様!」


一式と言ったからか、さらに顔の下半分を隠すベールがついたフード、髪飾り、ヒールの高い靴もついてきた。


顔を隠せるのはありがたい。そう思いながら今までセリナが着ていた服を、魔法と魔道具で楽しそうに綺麗にしている店員に話しかける。


「あの、そういえばこの『西国』って女性しかいないみたいなんですけど、どうしてですか?」


その言葉で店員の手が止まり、楽しそうな雰囲気が一瞬でなくなった。


「……当たり前ですよ。男なんて必要ありません」

「え?」

「そうでしょう!?ガサツ、汚い、なにもしない、ただのカッコつけの男なんていると思いますか!?あーやだやだ!この国があって最高ですよ!」


この女に一体なにがあったのか……それを聞く気にはならないが、店員から男に対する憎しみはしっかりと感じ取られる。

セリナは口に手を当てて、店員にさらに話しかける。


「だから女性しかいないのですか?」

「壁の向こうには男どもがうじゃうじゃいますけどねっ。決まっているんです。こちらに男が来ることが禁止っ!向こうに女が行くことは禁止!だから、こっちには女しかいません。安心していいですよっ!」

「そうなんですか?」

「そうです!好きな服を着て、好きなことを言っても誰も変な目で見てきません!自由な自分でいられますよ!」


同性だけの街――閉鎖社会というのはメリットもあるが、デメリットも当然存在する。

セリナは専門ではないので詳しくはわからないが、それでも考えられるものはいくつかある。


まずは人口維持の問題だ。同性では子孫を残せない。必ず衰退する。


あとは文化的偏り。先ほど見た実に可愛らしい道や店に代表されるように、それぞれの価値観に極端に偏る。そのため多様性が失われ、新しい発想や発展が停滞する。


それから対立の激化。この店員のように、男の街と女の街どちらが良いか、どちらが上かという形でお互いを意識してしまうことで、資源の奪い合いが発生する可能性もある。


そして不満。性的欲求などの本能的な欲求が満たされず、犯罪や逸脱した行動をする人間が増えるリスクがある。


とまぁ、難しく考えてみたが……

要するに人間に男女が存在するのは、ちゃんとした理由があるということだ。


しかし、異性を嫌う人間はそれぞれの同性だけの街に。嫌っていないものは男女混合の中央部に。

その中央部が調整役となることで、それぞれの得意分野を伸ばし、発展したのがこの『西国』というわけか。実にうまいやりかただ。

それでも、三つの街で起こりうるリスクは少なくない。特に中央部の調整がうまくいかなかった場合、あっという間にこの国は内部分裂する。

交易条件をしっかり理解し、うまく転がす柔軟な頭と相当な技術が必要だ。


それほどの者がこの国のトップにいる、というわけか……


これは、場合によっては交渉の手段を講じなければいけないかもしれない。

それはものすごくめんどくさい。どうか『北国』の時みたいになりませんように。


「そんなことよりも!この街の名物を食べていってください!女性が好きなものがたくさんありますから、きっとお客様も気にいるものがあると思います!」

「ふふ、ありがとうございます」


綺麗になったセリナの服をたたみ、それを丁寧に袋に入れる店員。会計を済まして店を出て、服を時空の倉に入れた。


『セリナ、本当にかわいいよっ!』

「嬉しいです。ありがとうございます」


そういえば、服を買ったりするときはリオナルドにいつも奢ってもらっていたな、この服をリオナルドが見たらどう思うのかな、そんなことをふいに思ったときにやってくるライラの言葉の安心感。

大丈夫だ、セリナは一人ではない。なにも寂しくはない。


「さて、色々見て回りましょうか。美味しいものも食べたいですしね」


そう言って、セリナはライラと一緒に良い店を探し出す――

その時だった。急にセリナの周りに強い風が発生する。


「……っ!?」


奇襲か!?と戦闘態勢を取り、ライラの無事を確認する。

そして、風が巻き上げる草や花が収まるのを待ち……


『人間の作る美味いもんか。それは久しく食べておらんのう。どれ、一つなにか食べてみよう。さぁ、おごれ』


聞き覚えのある声に、セリナは思わず苦々しい顔をした。


『ほ。ずいぶんと表情が顔に出るようになったようじゃの。それは成長か?退化か?ん?』


にやにやと意地が悪そうな笑みをセリナに向けてくる。実にしっぽを嬉しそうに振るものだ。セリナの顔がますます歪む。


「……どうでもいいです。要件をさっさと言ってライラを返してください。『風の精霊』」

『断る。この国は実に面白い。しばらく居ることにするわい。さ、早くおごれ』


セリナの周りを楽しそうに回る、少しの風をまとわせたライラ――『風の精霊』は、ニヤリと笑うのを見て、セリナははっきりと自分の中で苛立ちを感じていた。

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