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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第三章『幕間』
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第87話『わだかまり』

「そこの木陰で休憩しましょうか」


セリナの一言で街道から少し離れ、ひらけたところに腰を据える。


そこにはちょうど池と呼べるくらいの大きさの水たまりががあって、とても空気が気持ち良い。

『北国』から離れたからか、寒さが和らぎムシムシとした暑さへと変化している。

天気はあいにくの曇り空だ。だが、風に揺れる木々の音は心地良い。

水があるからか風が先ほどよりも強く感じて、少し汗ばんでいたエルンストにとってはありがたかった。


今日はこの先にある街に泊まる予定だ。次の日にはまた山登りが待っている。体力はなるべく回復しておいたほうが良い。

ついでにギルドに寄ってできそうな依頼もこなし、懐を温かくしても良い。

もうすでに四つほど村や町を超えたが、その方法で稼いできた。実に順調な旅だ。


一つの問題を残したままだが……


「ライラ。木の実食べますか?」

『いる!ありがとうセリナ!』


セリナとライラが相変わらず楽しそうに会話をしている。

それを少し離れたところで休んでいるリオナルドがちらりちらりと見ていた。


……なにしてんだ、こいつら。


セリナとリオナルドが見える位置に腰を下ろして、二人を交互に見るエルンスト。

表面上は今までと変わらない。ちゃんと取り繕えるところはさすがだと言わざるを得ない。だが、二人を良く知る者なら違和感しか感じないだろう。


セリナをリオナルドが襲っているように見えた日の夜。エルンストはリオナルドに事情を聞いた。

洗脳魔法にかかってしまわないようにと過剰に防衛するセリナ。それに対してリオナルドが不快感を示している、と。


頭の中で何度も整理したことだ。その上でエルンストは何度も思う。


……ウブなネンネかよ、こいつら。


セリナは聞いた限りだとロクな人間関係を構築していない。人間に対して警戒するのも仕方がないと思う。


問題はリオナルドだ。女の扱いには長けているだろうに。今までそうやってかわしてきたはずだ。

ただ、リオナルドを擁護するとしたら、こいつは女性恐怖症なところがある。

仕方がない。勝手に恋人、婚約者、嫁と名乗る者が多数いた。それでなくても街の偵察中など、女に挨拶しながら微笑みかけるだけで惚れられる。まだガキの頃、男だらけの場所が良いと逃げたこともあったという。だが、そこでもリオナルドは執念深い女だけではなく、男にも狙われたとかなんとかいう風のうわさも聞いた。


そう考えると、リオナルドも人間が嫌いなのかもしれねぇな。


そんなリオナルドが感じた自身の知らない感情に驚き焦った結果、失敗してしまった。それがセリナの壁を分厚くする結果になったわけだ。

一応誤解は解けた。エルンストが無理やり解かせた。簡単だ。思いをそのまま伝えれば良い。


「洗脳魔法のことはわかるけど、今まで通りに接してほしかったんだ」

「そうでしたか。誤解してしまってすみません」


こうしてお互いに謝って終わり。

……の、はずだったんだが。


ライラと楽しそうに話すセリナと、剣の手入れを丁寧に行うリオナルドの距離は今まで一番遠い。

誤解は解けた。だが、それはそれ。トラウマを刺激されたセリナがリオナルドに距離を取るのは必然。

そして、そんなセリナに気を使ってリオナルドが離れるのも必然ってわけだ。


まだまだ若いな、とは思う。だが、こんな状態で『西国』の城下町まで向かうのは良くない。なにがあるかわからないのに、わだかまりがあるとイザという時に最悪全滅する。


とはいっても……こればかりはエルンストが言うわけにはいかない。

こういう『気持ち』は自分自身で気づかなければいけないものだ。セリナも、リオナルドも。


エルンストからしたらなんとももどかしい状況。

だから思う。

なにやってんだこいつら。


「あの……」

「あん?」


木の幹に体を預け腕を組んでいたエルンストに、セリナが声をかけてきた。


「さっきからなにか言いたいことがあるのですか?ずっとこちらを見てきますけど……」


あるわ。たくさん言ってやりてぇよ。


「いや、旅は楽しいなって物思いにふけってただけだ」

「そうですか」


セリナも、リオナルドも深いことを聞いてこない。興味がない、そういう性格だから。それもあるだろうが、自身の心の奥に触れられたくない。だから他人にも触れない。そういう気持ちもあるだろう。

今に限って言えば、もっと話し合えよとは思うが……


その時だった――


「――!?」


三人同時に立ち上がって街道に出る。

そこには三人の親子と……服装からいって野党だろう。五人の男たちが親子を囲んでいた。

父親は母親を守るように立ち、母親は息子を守るように抱きしめている。


「なんだ?てめえら」

「なんだはこっちのセリフなんだよなぁ。急に出てきやがって。まぁいい。お前らの荷物もよこせや」


野党の一人が短剣をこちらへ向けてくる。が、どう見ても雑魚だ。親子を先に助けようかとエルンストが見ると、すでにセリナが親子のそばにいて簡易魔法陣を地面に書いて、防御魔法を展開していた。

そして、エルンストの横にいるリオナルドはいつでも剣をふるえる体勢と間合いを取っている。

やることねぇな……エルンストがそう思った瞬間。


「おらあああっ!死ねやっ!」

「ぐえっ!」

「がっ!」


野党どものかかってくる声とやられた声と倒れる音がほぼ同時に聞こえ、エルンストの目に映る昏倒させられている野党と、剣をしまうリオナルドの図。

そして……


「リオナルド様、お怪我は?」

「大丈夫だ。セリナは?」

「大丈夫です。この方々も無事です」


リオナルドがセリナと親子に近づく。反射的に半歩下がるセリナ。それに気づいて寂しそうな顔を一瞬するリオナルド。

そんな二人の手を、いきなり父親が握った。


「ありがとう……!ありがとう!」


父親が握ったその手をぶんぶんと大きく振る。

二人は困った顔をしてお互いの顔を見合わせたあと……同時に苦笑した。


「もう大丈夫ですよ。そうだ。次の街までご一緒しましょうか」

「あ、それはいいな。そうしよう。エルンストもライラもそれでいいですか?」


リオナルドがエルンストのほうを向く。エルンストは腕を組んで笑った。


「もちろんだ」

『ボクもいいよ!』


ライラが嬉しそうにくるりと回る。それを見て、セリナと子供が嬉しそうに笑った。


こうして、野党やら盗賊やらに襲われてる者を助けることが日常茶飯事になってきた。それは良い。

だが、セリナとリオナルドはさっきまで気まずい距離にいたはずだ。


なんだかなぁ……


セリナが魔力の糸で野党を縛り上げ、ライラがセリナにもらった、今では悪人収容専用となった時空の倉へ、器用にしっぽを使って野党を掴んでポイポイと入れていく。


あとで引き渡して報酬を得るつもりだろう。ちゃっかりしている。


余談だが、時空の倉は魔法なのでライラには使えない。だが、それをセリナが可能にした。

こうして簡単に言っているが、不可能だ。魔法に精通している人間ほど言うだろう。

しかしセリナは、自作のライラの腕輪を使うことで実現させてみせたのだ。


とことんライラに甘い。

作った理由だって、時空の倉を使っているのを見たライラの『いいなぁ』の一言からだ。


甘いのはリオナルドもエルンストもだが、特にセリナは甘やかす傾向にある。

逆に言えば、それだけ気を許しているということだろう。


それくらい、リオナルドにも気を許せば良いものを……


そう思いながらエルンストが見ると、セリナはいつもの微笑みを浮かべてリオナルドのほうを向いていた。


「リオナルド様のお手柄でいいですよ。そのかわり、なにかおごってくださいね」

「えぇー……」


自分のBランクの報酬よりもリオナルドのAランクの報酬のほうが多いと踏んだ発言に、リオナルドは嫌そうにするもそれも一瞬だけ。


「……そうだな。街に着いたら美味しいものを食べようか」

『やったー!さすがリオナルドだね!』

「ですね。ありがとうございます」


気まずかった雰囲気はどこへやら。

このあと二人は、気づいたらまた距離が遠くなっているのだろうが……どうやらエルンストが心配する必要はなさそうだ。


……ったく。早く気づいてくれよ。


そう思いながら、エルンストはわいわいと楽しそうに会話をしているところへ近づいていった。

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