第84話『首脳会議』
『中央国』にある首脳会議室。赤いカーテンときらびやかな装飾品がこの部屋を重厚なものにしている。だが、そこに重要人物は一人もいない。かといって、静まり返っているわけでもなかった。
そこには五つの台座があり、その上に水晶が乗っていた。その場所を『中央国』の兵隊たちが部屋を囲むように守っている。
その五つの水晶が今全て稼働している。映された者たちは、それぞれイスに座ってお互いを監視するかのように見ていた。
『本当に便利になったな、この水晶での会議は。わざわざ集まらんでも済む』
『毎回それ言ってるわね。聞き飽きたわ『北国』の王』
『すまんすまん、ついな。許してくれ』
『いや、そう言ってもらえるとウチの騎士団が喜ぶ。また伝えておこう』
『……そうよね『東国』の王は自分の国民大好きだものね』
『どこもそうだろう?』
『ふん、どうだか』
『西国』の女王は、腕を組んでイスに座る。美しい足が組むことによって垣間見える。
『北国』の王は、イスに座りながらものめりこむような姿勢で会議に臨んでいる。
『東国』の王は、イスにゆったりと座っている。
『南国』の王は、無言のまま、頬をポリポリ掻きながらなにかを考えているようだった。
そして……『中央国』の王は、座りながらも苛立ちに足をゆすっていた。
『そんな話はどうでもいい!私は今怒っているのだ!』
東西南北に置かれた水晶に映された王たちが、真ん中に置かれた水晶に映しだされている王に注目する。
『貴様だ!『北国』の王!勝手に『聖女』の祈りを行ったそうだな!しかも、代役を立てて!』
『……あぁ、確かにしましたよ。ですが、代役ではありませんよ。我らが国の恩人。我らの『聖女』です』
『『聖女』は我が国のリアナだけだ!』
ヒステリックに立ち上がって話しだすから、何事かと思えばその程度か。四つの国の王は同時に呆れる。
『中央国』が一番でなくてはならないが『中央国』の王族の考え。その代表が『聖女』と魔法陣だ。
それがあるから四つの国は存続できている。だから敬え、と。
『ではその『聖女』様をお貸しください……と言っても、いつも聞いてくれないのはそちらです』
『リアナは忙しいのだ!そんなに簡単に渡せるわけがあるまい!』
『そこらへんの話はそちらでやってください。それよりも『中央国』の王。魔法陣はどうなっているのです?』
『西国』の女王の言葉に『中央国』の王が途端に黙る。だが、関係ないと『西国』の女王は話を続ける。
『国どころではない、世界の気候が今不安定になっているのは魔法陣が安定していないからでは?そちらの大事な『聖女』はなにをやっているのです?』
『ちゃんとやっておる!』
『そう言われてましても、魔法陣が不安定になってもう一年以上になります。この話は何回もしていますが一向に変わりません。今の『聖女』は歴代で一番の力を持つ者なのではないのですか?』
『なんだ貴様!疑っているのか!』
『……もしかして、死んだ『聖女』のほうがすごかったのでは?』
『そ!そんなわけないだろう!』
『西国』の女王がふう、とため息をつく。話が通じないとわかったのだろう。
だが、そのため息が気に入らなかったのか『中央国』の王が『西国』の女王を睨みつける。
『うぬぼれるなよ小娘……貴様らが今そうやっていられるのは『中央国』が交易を手伝っているからだということを忘れるな』
『西国』の女王がピクリと反応して口を閉ざす。『中央国』の王を睨む瞳には、その冷静な態度とは裏腹に怒りがこもっていた。
『……まぁまぁ。落ちついてください』
『うるさい!『東国』の経済が安定しているのは経営のノウハウを知らなかった『東国』に、我が国の貴族を派遣しているからだということを忘れるな!』
『中央国』の王の怒りが止めようとした『東国』の王へと向き、それに対して『東国』の王は苦笑するしかなかった。
こうなれば『中央国』の王は止まらない。今度は『北国』の王へとその怒り狂った瞳を向ける。
『貴様もだ。流通が絶えていないのは『中央国』が物資を送っているからであろう?』
『……そうですね』
『貴様もだよ『南国』。必要な素材を送っているのはどの国だ?』
『はい。『中央国』です』
『そうだろ!そうだろっ!ゆめゆめ忘れるな!貴様らの国は我が『中央国』があるから存在しているからだということをな!』
『中央国』の王が言ってやったと満足そうにイスにもたれかかり、他の国の王はそれぞれ視線を他にそらす。
もうこうなれば会議は終わりだ。毎回こうなって終わる。聞きたいことは聞けず、あいまいな部分はそのまま。この会議に意味はあるのだろうか。
『時間なのでそろそろ失礼する』
なにかを言われる前に『北国』の王が映っていた水晶が輝きをなくす。それに続くかのように他の三つの国の水晶も消えていき……
『ちっ』
最後に『中央国』の水晶が光を失った。
「相当焦っているようだな」
「はい。私から見てもそのように感じました」
ふぅ、と一息ついて『東国』の王がそう言うと、隣のイスに座っている王妃が同意した。
そこは『東国』の王城にある王室。かつてセリナが騎士団の面々を紹介された部屋だ。
「お前はどう思った?」
「そうですね。早めに対処すべき問題かと思います」
後ろに両手を回し、王の前でにこりと騎士団長のアレクシスが王の質問に答える。
「例の『中央国』の貴族の様子は?」
「グレーから真っ黒ですので、真っ黒だけ今は対処中です。特に人身売買に関する者たちからは徹底的に吐かせています」
「うむ。しかし、行き場を無くした者たちを売るだなどと、なんとひどい仕打ちだ……」
王が少しうつむいて髪をかき上げる。その表情が今言った言葉が本心だと告げている。
その横で、王妃も似たような悲痛な顔をしていた。
「その者たちのケアは大切に。予算の見直しをしてもいいわ」
「わかりました。王妃様」
ではさっそく、とアレクシスは騎士の礼をしてその場から立ち去っていく。
「待て」
そんなアレクシスを止めたのは王だった。
「……なにか企んでいるな?」
アレクシスはにこりと笑い、扉から王のほうへと振り向く。
「大切なものを守るために頭を悩ませているだけですよ」
「む……」
「洗脳魔法にどっぷり漬かった貴族から奴隷に魔法が移り、それが国にばら撒かれる可能性があります。まずはそれの阻止から始めます」
そうしてぺこりと愛らしく頭を下げ、今度こそアレクシスは部屋から出ていく。
残ったのは王と王妃、護衛している騎士たちだ。
「物事は簡単に進まん……」
「あら、だから楽しいのでしょう?」
にこりと笑う王妃に王は苦笑した。
「まったく……君には敵わんよ」
「気づいていないな。我が国の精霊が復活したことに」
「そのようですね。まだ流通問題が解決していないと言っていました」
『北国』軍、大将アグネルの言葉に『北国』の王は笑う。嘲笑だ。
その横で王妃は扇子で口を隠しながら、様子をうかがっているようだった。
「エルンストから報告は?」
「精霊の解放のため『西国』に行くそうです」
「なるほど。ますますアレの味方をしておいたほうが良さそうだな。うまくいけば『西国』と手を組める」
「そうなれば、交易も安定するかと思います」
くくく、と王が笑う。そしてセリナに感謝した。
セリナの行動が『北国』に恩恵をもたらす。ならば、全力で援護をするべきだ。そう方針も決めている。あとは待つだけだ。
「楽しみだな。アレが『本物』になるのが」
「リアナはどこでなにをしておる!?セリナはいつになったら見つかる!?」
王の部屋にあったツボが大きな音を立てて割れる。それに驚き一歩下がる侍女たち。
広い部屋の中、先ほどまでのように座ることができず、辺りのものに苛立ちをぶつける『中央国』の王を止められる者はこの中にはいない。ただケガをしないよう見守るだけだ。
「貴様!答えろ!リアナとセリナはどうしているのだ!」
王の護衛である兵隊の一人が目で指され、慌てて知っていることを答える。
「リアナさまはどこかにおでかけしていると聞いています。セリナは……いまだに見つかっていません」
「ふざけるなっ!死んで詫びろっ!」
「ひっ!」
王のその一言で、答えた兵士が他の兵隊に拘束される。そして、抵抗するもそのまま部屋を引きずられていく。
「お待ちください!やめてくれ!死にたくない!やめろおおおっ!」
そのまま部屋からいなくなる兵士。それを見てようやく苛立ちが収まったのか、王は大きくため息をついて、ゆっくりと歩きやがてイスに座った。
「リアナはなにを考えているのだ。ハイロンドの奴らにもう少し抑えておけと言え。親なんだからなんとかしろ、と。アルベルトにはなにも言わなくていい。あいつはできんし、なにも知らん。これ以上なにもさせるな」
「はっ」
兵隊の一人が王の言葉に返事をして部屋を出ていく。それを見届けたあと、王はもう一度大きなため息をついた。
「セリナめ……『北国』で『聖女』の祈りをやったのはあいつに違いない。しかし、もう『北国』にはいなかった。どこに消えた。忌々しい『偽物の聖女』め」
ひじ掛けに置かれた王のこぶしに力が入る。それ同時に王の顔もまた激しい怒りに包まれる。
「おい、こうなったら全ての国に兵を派遣しろ。口が固かったら冒険者でも傭兵でもなんでもいい。なにがなんでもセリナを見つけて連れてくるのだ」
「はっ」
また部屋を出ていく兵隊。侍女がすみで震えているのを確認すると、王は舌打ちをした。
「おい貴様ら。早く部屋を綺麗にしろ」
「はっ、はいっ!」
侍女たちが慌てて掃除を始める。部屋の荒れ具合からいって一日かけての作業になるだろうが、そんなのは王には関係ない。
「アルベルトが追放したのは計算外だったが、『東国』の精霊の神殿に置いた瘴気の種にあいつが食いついたのは狙い通りだった。だのに、リアナめ。勝手に貴族を使って捕まえようとしおって……っ!」
ぎりっ、と歯ぎしりをする。足をゆするのをやめられない。
このままではまた暴れてしまう、と侍女が身を固くしたその時――
ドアがノックされた。
「誰だ。入れ」
王がそう言うと一人の男が入ってくる。
その男は、そこにいる者なら誰もが知る人物だった。
「帰ってきたのか!」
王が顔を輝かせる。それは、その男に対する信頼の証でもある。
男は王へ向かってにこりと笑いかけた。そして、頭を王にしっかりと下げる。
「ただ今帰ってきました。父上」




