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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第一章『東国(ひがしこく)』編
8/31

第08話『冒険者の服』

「……うわぁ……本当にたくさん……」


一言でいえば、圧巻。


すごい数の品物が店の中を覆いつくすように展示されている。

武器から服まである雑貨店といったところか。外に並ぶ露店とは違い、店自体がちゃんと構えられていて店内はとても広い。二階もあるようだが、そこは戦士用の武器や防具が売っているらしい。ならば私には関係ない。が、ちょっと見に行きたい気分でもある。

そう思いながら、目当ての魔法系の服や道具売り場へ向かうと、後ろからくす、と笑う声が聞こえた。


「なにか?」

「いや、やはり君は魔法系なのだなぁ、と改めて思っただけだよ」


そうか、このためについてきているのか……

魔法売り場にまっすぐ向かったことで確信したのだろう。服選びも気をつけなければならないのね。覚えておこう。

心の中にしっかりと刻み、私はリオナルドに向き直りにっこりと微笑みかける。


「女の買い物は殿方には退屈だというお話を聞いたことがあります。外でお待ちになっていても大丈夫ですよ?手早く終わらせますので」

「いやいや、女性の買い物につきあうのも楽しいものさ。ぜひ見てみたいな。さぁ、たくさん試着してくれてかまわないよ」


向こうも私に負けじとニコニコと微笑む。

認めたくない。認めたくないけど。私とリオナルド、同じタイプなようでやり口が似ている。

しかし経験値は圧倒的に向こうが上。となるとわかる。この男一歩も引く気はない、と。なにを見極めようとしているのかわからないが、このやり取りは不毛。

『そうですか』と答えて私は商品選びを再開した。

正直『冒険者の服』と言われて思い出すのは、図鑑や絵本で見た冒険者の服しか思い浮かばない。さらに、私が今まで着てきた服は『聖女』用のドレスか、訓練や戦場に出た時の『聖女』用の修行服だけ。そんなものはまったく参考にならない。


では戦場にいた魔法使いはどのような服を着ていたか。


思い出してみると……たいてい長いローブを身にまとっていたような気がする。寒暖の差で体力が落ちないようにするためだろうか?と思っていた。それと、帽子もかぶっていた。色は……黒や青といった闇にまぎれられそうなものだったはず……

この世界には魔法使いになるための学校がある。その服もそれと大差はなかった。つまり、学校で来ていた服を卒業後も愛用していた?

戦場ではいかに冷静でいられるかが重要だ。着慣れた服はそう考えるとなかなかに合理的だ。

しかし、私はそんな服はここに存在しない……ならば……魔法使いの服をわざわざ着る必要はないのではなかろうか?自分の得意技を服で敵に明かす必要もない。


だとしたら……シンプルに……


ん?この赤黒い服には魔法の威力を強化するものが付与されているのか。こっちの黒い服もついてるけど……うーん、いや、赤黒い服で。赤は好きではないがこっちのほうが血が目立たなそう。


お、この黄色とピンクのブカブカしたズボンもいいかもしれない。魔法の威力強化がついている。私にはやや大きめに見えるが、すそをまくれば問題ない。


となれば……靴は素早さがあがりそうな……青の……いや、こっちの虹色……違うな、この蛍光の緑色の長い靴、これだ。靴の先がすごく尖っているのが気になるけど、このデザインは他にもあるし、こういうのが流行というものなのかもしれない。うんうん。いいぞ。


あと帽子は……この虹色……あぁ、全ての服を虹色で揃えればさらに魔法の威力強化が増す効果があるのか。いやでもこれよりも、この包帯のほうが防御力が高い。これを頭や両手足に巻きつければ防御の強化にもなる。


あと必要なのは……あ、なんだろうこれ?説明が書かれている……ええと、この茶色のベルトについている小さい鞄の中に細長い魔法瓶入れられるのか。ここに魔法を入れておけば、魔力を使わずに魔法瓶を投げるだけで魔法が使えるのか。すごい便利。これも欲しいな。


アクセサリーにも強化がついているものがあるのか……この龍?のようなものが巻きついてる大きな玉?のようなネックレス?が良いのかしら?同じタイプの指輪もある。これを同時につけると魔法の威力強化と防御が増す、と。これならセットで揃えてもよさそうね。指につけられるだけつけて強化をしよう。


……さて……こんなところか……


「お。決まったのかい?ぜひ試着して見せてほしいな」


試着……さっきもリオナルドが言ってたけどなんのこと……って、あぁ、あれか。

『試着室』とその上に『ご自由に着てみてください』と書かれた場所を見つけ、一人納得するとその場所に向かい、中に入りカーテンを閉める。

……うーん、下着もなにか付与されたもののほうが良いのだろうか?でもさすがにそれをリオナルドに見せるのは嫌だし……もっと言えば、リオナルドとともに下着を買いに行くのが嫌だ。

まぁ、このままでいいか……

私は持ってきた服を着て、閉めていたカーテンを開ける。そして、すぐそばにいたリオナルドを見て……


「……あー、うん……なるほど……」


それは、リオナルドの鉄壁の笑顔が初めてはっきりと壊れた瞬間だった――


「………………」

「………………?」


少しの沈黙。

先に口を開いたのは、なにやら考え込んでいたリオナルドだった。


「えぇと、そうだな……セリナ……今度は私がセリナを選んでみても良いだろうか?」

「はい?なぜですか?」

「いや……もっと君が快適に動けそうな服を、待っている間に見つけてたんだ。ぜひ着てもらいたいなと思ってね」

「……私はもうただの着せ替え人形ではありません」


イラッとしたのが表情に出てしまったらしい。リオナルドが慌てて首を横に振る。


「いや!そんなつもりじゃないんだ!ただ、実は冒険者の防備選びには自信があってね……そうだ!ぜひ、私におごらせてほしい」

「………………」

「君が望むようにするさ。ちゃんと要望も聞く。その上タダで服が手に入るんだ。お得だろう?」

「………………」


はぁ、と小さくため息をつく私。


「……リオナルド様のセンスに期待します」

「ありがとう……!じゃあ少し待っていて。すぐに持ってくるから!」


そう言って嬉しそうに行くリオナルド。

正直に言うと、女の服を全身コーディネートしたいだなんて気持ち悪くも感じる。

リアナが産まれる前の『聖女』時代に、まるで人形のように毎日着せ替えを要求してきた、成金の貴族のようで嫌な気分になった。


私の気持ちも、私の思いも、私の言葉も、なにもかも届かない忌々しい記憶。


……でも、冒険者の服選びは私よりも詳しいリオナルドのほうが適任かもしれない。そう思い、その気持ちを押し殺した。それに『おごり』という言葉に今の私は弱い。

節約できるならするに越したことはない。実際、この街に来るまでに相当消費した。野党から奪ったお金は残りわずかだ。

なので今も少しでも安く、なおかつ、そこそこ強化がついているものを探したつもりだ。おごりなら遠慮なくしっかりとした強化がされているものを選べる。

しかし……この服のなにが気に入らないというのだろう?魔法強化も防御もしっかりついていて、なおかつ魔法使いだとバレなさそうな服なのに……

そんなことを考えながら待たされること数分、リオナルドが持ってきたものは――

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