↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物の聖女  作者: ゆきもち
第一章『東国(ひがしこく)』編
7/152

第07話『監視』

 リオナルドに私はにこり、と笑顔を向けた。するとリオナルドの表情がわずかに反応する。

 気づかれないようにしているつもりだろうが、リオナルドの緊張感はじゅうぶんに伝わってきた。


「今の私はただの『セリナ』です。国や家もなにもない。追放された身ですから」

「なるほど」

「しかし、さすがのご慧眼(けいがん)ですわね。この『東国』の騎士のみなさまは人を見る目に長けているのかしら?」

「安心していい。ここまでわかるのは私だけだ。それほどまでにセリナは完璧すぎる。その『すぎる』に違和感を持てるやつなど、この世に何人いるかわからない」


 ――そう。それは僥倖(ぎょうこう)


 まずリオナルドが『騎士』という言葉に反論しなかったこと。リオナルドは騎士だと頭の中にインプットする。


 それと……


 こんな……こんなにもよ、人の過去を言い当てるような奴がこの国にたくさんいるのなら、『東国』を今すぐにでも滅ぼしてもいいとさえ思ってしまったわ。

 そんなことを考えると、今度はリオナルドの指先がピクリ、と反応する。リオナルドの観察眼の鋭さに驚きながら、自分の未熟さを再認識。


 落ち着いて、冷静に冷静に。


 まさか『教育』が(あだ)になるとは思わなかった。

 それにみんな、お茶会の際は私にはなにをしても問題ないと思って罵詈雑言を叩きつけてくるだけだったから、微笑んでただ聞き流していればよかった。

 それだけで、心の内までバレることなど一度もなかったのに。


 まぁ、さすがに私に危害を加えてきそうなものは避けたけど。おかげでますますみんなのお口が過ぎていったが、それも聞き流した。かわすことはできても化かすことはできないみたいだ。


 ……しかし、この二十五年間そうやってやり過ごしてきてみんな騙されていたから、実は私ってなんでもできるのでは? なんて完全に慢心していたわ。謙虚に謙虚に、と。


 一度気持ちを落ち着かせるために紅茶を一口。

 もうリオナルドには自分のことを隠す必要などないだろう。素の自分で接しよう。これも初めてのことかもしれない。普段の自分で行動ができるのはとても楽だ。


「安心してくださいリオナルド様。私はなにもいたしません。ここにいる『セリナ』はただ自由に生きてみたいと思っただけのちっぽけな女です」

「……自分の評価は知っているだろう?」

「はい」

「……よく『セリナ』と名乗ったね。偽名だったら私ももう少し考えたかもしれないのに」


 セリナという名前は珍しいものではない。他の『偽物の聖女』の特徴である長い髪は切った。紫の髪色などどこでも見るし、青の瞳の色もよくあるものだ。だから別に良いと思った。


 それに今まで偽名を使ったことがない。


 馴染みのない別名を使うことになると、どうしても不自然さが出てしまう。それで正体がバレたくなかったというのもある。


「私はただの『セリナ』です。ありのままの自分で、ありのままの世界を自由に楽しみたい。そこに偽名など不要です」

「……もう一度聞こうか。なにをしにこの国へ来た?」

「自由を求めて。その第一歩としてこの国を選びました」

「それは光栄だね。しかし、信じられるとでも?」

「簡単に信じてもらおうとは思っておりません。ですが私は本当のことしか話していません」


 しばしの沈黙。お互いに目をそらさない。リオナルドはじっと私を見つめる。表情こそは穏やかに笑っていても瞳は真剣だ。


 ややあって――

 沈黙を破ったのはリオナルドの小さなため息だった。


「……私個人としては信じたい。自分の見る目を信じているんだ。だが、君が本当に『偽物の聖女』ならばこのまま見逃すわけにはいかない」

「それはとても残念です」


 見逃してくれないのならリオナルドをどうにかして丸め込むか、それとも逃亡するか……?

 だがリオナルドは手ごわい。簡単に丸め込めるとは思えないし、かといって、せっかくの自由が逃亡生活なんて台無しなことになりたくない。

 それならばまたなにか偽装でもしようか? そう思っているとリオナルドが口を開いた。


「しばらく監視させてもらい、それで判断しようと思う。なので君にしばらく同行させてもらう。いいかな、セリナ?」


 へぇ……

 これがこの男のやり方なのだろうか? ずいぶんと落ち着いて提案してくるじゃないか。


 それに私が『偽物』と呼ばれていても、その称号はなくなったと言っても。自分より地位の高い『聖女』だとわかって一応確認を取るのね。


 でも私に選択肢なんてないでしょう?


 昔と変わらない。しょせんは『偽物』だと言われているような感覚に陥る。

 それでも今は好都合。リオナルドのような周りに人望がありそうで、なおかつ『偽物の聖女』に同行できる実力、地位を持っている者がそばにいれば、自然と私の潔白が証明されるわけだ。


 私はパァ、と笑顔を輝かせ手を胸の前で合わせる。


「もちろんです。右も左もわからない身ですので、リオナルド様が一緒ならこんなに心強いことはありませんわ」

「決まりだね。じゃあさっそくだけどこれからどうしようか? どこに行くつもりだったんだい?」

「なにも考えておりませんでした。この街に着いたばかりなので、とりあえず観光してそのあとは……そうですね、小銭を稼ぎながら国中を観光しようかと」

「ふむ。それならば冒険者になるといい……私の見立てでは相当な魔法使いになれると見た。君ならやっていけるだろう」

「ふふ、ありがとうございます」

「それに、冒険者としてのランクが上がればいけない場所にも行けるようになる。世界中を自由に見て回れるだろうさ」

「まぁ、それは素敵ですわね。ではさっそく登録しにいきます」

「……うーん……」

「……? どうなさいました?」

「……君は……本当に魔物が怖くないんだな。いや、その、自分で言っておいてなんだが、セリナは『聖女』のイメージとはずいぶんと程遠い……」


 全く動じない私にとまどうリオナルドを見て、私は目を丸くしたあとくすくすと笑ってしまった。


「だって私は『偽物の聖女』ですもの」

「………………」


 珍しく穏やかな笑みから困惑した表情を浮かべるリオナルド。蔑称だとわかっているからだ。自分を卑下しているように見えるだろうか? でもこれは本心だから仕方ない。


 ――この男のような、人の中身を見てくるような者に下手に小芝居を打っても無駄だ。私が未熟なのもある。だからといって全てを明かす必要もない。そうやって接していけばいずれ信用を得られるだろう。


 実際に、私の人となりが気になって仕方がないでしょう?

 とまどい、驚き、安心し、隙をみせてくれたらつけこむから、そのときに私を解放してくれたらいいわ。


「それに、今の私にはリオナルド様がいらっしゃいますもの。心配はいりませんわ」


 ――あぁ、リオナルド、あなたに会えて本当に良かった。

 おかげでこの世界で自由を得られるのかもしれないと思うと、この出会いには感謝しかないわ。


「……そう、だな……よし、わかった。それじゃあ行こうか」

「どこにですか?」

「冒険者ギルドへ……と言いたいところだけど、まずは戦いやすい服に着替えないとだね。この街には良いものがたくさんあるから、好きなものを選ぶといい」


 そう言って紅茶を飲み干すリオナルドを見たあと、私も席を立ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いきなりばれるんだ! と思ったら開き直って冷静な続き。 話の移り変わりによる引きとか、意外性のある流れ。 リオナルドは仲間になるのかな?セリナはテンションは高いのに話運びが冷静ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。