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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第二章『北国(きたこく)』編
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第52話『氷の試練05』

 全員のケガを治して魔力も回復させて……いくつもの氷の部屋を縦横無尽に駆け抜ける。

 そうして、ようやくセリナたちは出口を見つけることができたのだった。


「よっしゃあああ!」


 エルンストの大きな声とともに見えた世界。出口の先は、見覚えのある氷の山。

 そこでようやく一息つけた。


「やっと……出られましたね」

「そうだな。セリナは大丈夫か? ライラは?」

「大丈夫です。ライラもこの通りぐっすり眠っています」


 全員に巻きつけていた魔力の糸を解除しながら、セリナがリオナルドに腕の中で眠るライラを見せた。

 なにを試練で見せられたかはわからないが……今はなにも考えずにゆっくり休めたらいい。そう思って見たセリナの前でライラは『ニゥ』と、寝ながら顔を前足で少しだけ洗った。


「それで? 試練とやらは終わったのか? 合格なのか不合格なのか?」


 大きく伸びをして辺りを見るエルンスト。その疑問に答えられる者はこの中にはいない。

 景色も先程までの『氷の洞窟』とは違い、なにも変わらない。なにも起こらない。

 このまま街へ帰っても良いものなのか、それともなにかあるのか……


「んだよ。『氷の精霊』はテストの採点中か?」


 辺りを見回してもなにもない。それならばもう降りよう。そうセリナが提案しようとしたその時――


「王城が……魔物に襲われているっ!」


 リオナルドの言葉に一斉に城のほうを向く。が、ここから見える距離ではない。

 ふとリオナルドを見ると、例の眼鏡をかけたままだった。だからわかるのかと納得する。


「行くぞ」


 エルンストが自身の言葉を置き去りにするように走り出す。セリナたちもそれに続いて城下町へ向かいだしたその時――

 突如として氷像の軍隊が目の前に現れ、足を止めざるを得なかった。


「邪魔だ」


 エルンストは軍団に突っ込み、魔力を込めたこぶしで壊していく。リオナルドもそれに続いて剣をふるい、みるみるうちに軍隊は数を減らしていった。

 おお……これは楽だ。さすがは騎士団副団長と国軍大佐といったところか。ライラも抱えていることだし、このままお任せするか。

 そう思って走ることに専念するセリナ。


 ……だが……


「ちっ!」


 軍隊は砕けても周りの氷からすぐに復活し、セリナたちを追いかけ攻撃してくる。

 このままだと消耗戦になる。だが、逃げることも困難だ。追いかけてくるスピードと、なにより数が多くて進めない。


「こいつら……っ! なんか手はないのかよ!」


 壊してもすぐに復活するのが厄介だ。セリナがなにかしても、今の二人と同じですぐに復活するだろう。

 この山の氷全部がこいつらになる。いっそ山を吹っ飛ばすか? いや、ここで魔力をあまり使いたくない。本命は王城を襲っている魔物だ。二人もそれがわかっているのだろう。力をセーブして戦っているのがわかる。

 ……正直セリナ一人ならなんとかなる。魔力の糸を駆使して避けていけばいい。だが、全員となるとうまくいくかどうか。


「なぁ! 一気に王城まで行ける魔法とか持ってねぇのかよ!」

「転送魔法ならできますが、私が地形をしっかり把握していないとできないんですっ!」


 エルンストの問いに答えるセリナ。エルンストの期待とは裏腹に拒否の言葉を出した。

『中央国』からの逃亡では使えた転送魔法。それはセリナが『中央国』を隅々まで把握していたからできたことだ。

 把握しきれていないこの『北国』で使うと、位置がずれてしまいもっと遠くに行ってしまう可能性がある。


「なんだそりゃ勉強不足だなぁっ! もっとその小さな頭に詰めこんでから来いよ、()『聖女』様よぉっ!」

「それは失礼しましたっ! この戦いが終わったら完璧に把握して、国中の宝物庫でも漁らせてもらいますわ! あと私はセリナですっ!」


 迫りくる氷像を壊しながら、攻撃を避けながら、エルンストとセリナが声を張り上げる。それをリオナルドが苦笑しながら聞いていた。


 魔物と氷像の襲撃――これは試練なのか、そうではないのか。

 セリナの頭の中ではそれの答えも探していた。

 『お前はなんのために戦う?』

 そう言われている気がして、今はどうでもいいと切り離せない。


 『私』がずっと戦い続けてきた理由は、そう命令されていたから。

 そうしていれば『私』はそこにいても良かったから。そのときだけ孤独じゃなくなったから。

 ……そうしないとずっと『私』は一人だったのだから……

 だって『私』は『聖女』だから。みんなそんな『聖女』で『人形』な『私』を望んでいるのでしょう?


「………………っ!」


 でも――

 もう私は『私』じゃないっ!


 焦ったセリナは山を壊すのが一番手っ取り早そうだ、と魔力を込めはじめ――


『ボクがいることを忘れないでよね』


 セリナの腕の中から勢いよく飛び出したそれは、氷像が全員見える位置まで空中に浮き――


『グオオオオオオオオオオオッ!』


 ビリビリと地面が揺れる大きな魔力を帯びた咆哮。

 その声を受けた氷像が、一瞬で砕け散っていった。


「これは……!」


 ライラの咆哮には『風の精霊』の力がまとっているからか、氷像の復活が明らかに遅い。

 エンシェントスケールキャットの力と、乗り移っている『風の精霊』の力の複合技だからできる芸当だ。


「ライラ! 大丈夫なのか!?」


 リオナルドが心配そうに、だが復活したことを喜びながら声をかける。それに対してライラはしっぽをブンブンと振り、そして……セリナを見る。


『ボクはセリナを守るためにここにいるんだ。だからもっと頼ってよ』

「ライラ……」


 そう言ってライラは先に進んでいく。氷像をどんどん壊していき、そうして進むべき道が出来上がる。

 エルンストとリオナルドは次の氷像ができる前にとすぐに続き……セリナは一足遅れて続く。

 ちゃんとあとを追いかけながらも全員の後ろで顔を伏せる。

 ――誰にも見られたくない。

 そう思いながら走り……人知れず目元をぬぐった。

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