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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第二章『北国(きたこく)』編
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第47話『氷の精霊』

凍てつく氷の風が止む。息ができていなかったと気づいたのは、そんな時だった。

一行が急いで咳をしながらも息を整えている最中、頭を下げたままのセリナの頭上から声が聞こえた。


『……その姿はなんだ?確か、人間の老人が一番自分に似合うと言って何百年も変えずにいたと記憶しているが……ずいぶん小さくなったな』

『違うわい。こやつは風の眷属じゃ。中に少しだけ入っておるだけじゃよ』

『相変わらず器用な真似をする』

『もっと褒めても良いぞ?』


なんとか頭を上げて状況を確認しようとするセリナとは真逆に交わされる、実にのんきな会話。それは『氷の精霊』と、風と草をまとわせたライラ――『風の精霊』のものだった。

『風の精霊』がライラを連れていけと言ったのは、どこでも自由に顕現できるからか。と納得しつつ、セリナは魔力を制御する……だが、それでも魔力は減っていった。

前回のように防御に魔力を振っているわけではない。なのに動けない。

混乱しながら辺りを見回すと、リオナルドとエルンストが見えた。二人は体を起こすくらいには回復しているようだ。それができていないのはセリナだけだ。


なぜ?と思考を巡らせながらさらに辺りを見回し……

そして台座と『氷の精霊』を見て瞬時に理解した。


精霊は、セリナの魔力を使って発現している。

その証拠に、自身の魔力が台座に吸われているのを感じる。


そしてこの『氷の精霊』は『風の精霊』とは違い、容赦なく魔力を吸い上げる。いや、あまり話をする気がなさそうだった『風の精霊』が手加減していたか。

とにかく、この『氷の精霊』がセリナの魔力を際限なしに使っているということだ。『風の精霊』に言われ力を抑えることはしているらしいが、それでも、だ。

まるでセリナがただの魔力タンクであるかのように。


――油断した。

前回の『風の精霊』の時のようになることはすでに想定済み。ならばとセリナだけ、腰のカバンにや時空の倉に蒼精の雫(そうせいのしずく)という液体が入った魔法瓶を複数用意していたのだ。

それは飲めば魔力を回復する液体。セリナが作れば、普通の人間ならばひと舐めするだけで全回復する。それを使おうと思っていたのだ。

前回ほどの力ならば、自分なら一瞬で取り出して飲める。そう思って……

だが精霊を甘く見すぎていた。これならたとえ全てを飲み干しても全回復することはないだろう――


『それで、なんの用だ?』

『ワシらを起こせる人間が現れたようじゃ。ほら、そこのカエルのようにへばりついておるヤツじゃ』

『あぁ……』


目だけを動かしセリナを見下ろす『氷の精霊』。しかしすぐにライラ、いや、『風の精霊』のほうへ目を向けた。


『この程度か。だからなんだ』

『ワシもそう思ったんじゃがなぁ。あの『精霊王』が気にしておる』


『氷の精霊』がピクリと反応する。『風の精霊』は前足を頭の後ろに置き、空中にいながらそこにベッドがあるように寝転がり、ふわりふわりとまるでそよ風のように動く。


『……ほう』

『ワシは力を貸す気も『名前』を教える気にもなっとらん。じゃが、お主は放っておけない存在じゃろう?』


ニヤリと笑う『風の精霊』を見て、再びセリナを見る『氷の精霊』。

そして――セリナにかかる負担が少しだけ減った。

息がしやすくなった。セリナがそう思ったのは、他の二人ができていた咳ができたことだ。

ぜえぜえと肩で息をしつつも、セリナはようやく息を整え始める。


『我を呼び出した人間の女。お前の望みはなんだ?』


セリナの頭は真っ白になっており、なんと答えて良いかわかっていない。

だがそんな中でも腰のカバンからなんとか蒼精の雫を取り出し、それを一気に飲み干す。飲み終わった瞬間、寒さと部屋中を舞う氷の欠片で魔法瓶は壊れたが、体を起こしグイっと手で口を拭うくらいには回復した。


私の望み……?そんなの決まっている。


「自由……っ!」


見下ろしたままの『氷の精霊』の姿をセリナは、しっかりと見ることがようやくできた。

先ほどまでは持っていなかった氷でできた剣を地面に刺し、その柄に両手を添えている。

激しく揺れる膝まであるマントと、氷の鎧をまとい全く動かない『氷の精霊』は、その頑固さを表しているようだった。

睨みつけるようにセリナを見る『氷の精霊』に負けじとセリナも睨む。精霊に対して取り繕う必要などない。神も精霊も誰も信じてなどいない。それがセリナだ。

セリナはカバンからまた魔法瓶を取り出すと、中身を飲み干し……今度は割られる前に床に叩きつけて自ら割った。


『……なるほど』

『どう出る?『氷の精霊』よ』


にやにやと笑う『風の精霊』の言葉に『氷の精霊』はまっすぐと正面を向く。そして高らかに宣言するように言葉を紡ぐ。


『我は試すもの。かつての『聖女』の力を受け継ぎし者よ。我は他の者の意見は信じておらぬ』


凍てつく風と氷がさらに強くなる。頬を、服を傷つけてもセリナは『氷の精霊』をしっかりと見ていた。


『試させてもらうぞ。脆弱なお前のその信念がどれほどのものなのかをな』

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