第135話『とある女性視点のお話』
「うーん……なかなか貯まりませんね」
『西国』の中心部から、南西にある冒険者ギルドでのこと。
今しがた依頼を終えた、濃い紫の髪が絹のように美しい女性冒険者がうなっていた。
「みんなすごいなぁ。僕なんかまだCランクだよ」
「はっ!アルネス!星が貯まってます!試験に行かないとランクは上がらないし星の経験値も捨てることになるんですよなんてもったいないっ!」
「うえっ!な、なるほどっ、そうだったんですねっ」
「まぁまぁ。落ち着けセリナ」
横から見た紫髪の美女が、黄色のポニーテール美女に早口で迫るのを見て、銀髪の剣士がそっと引きはがす。
そこで私は、ついついそのパーティに声をかけてしまった。
「あの、すみません。聞こえてきてしまったので……よろしいですか?」
私はこのギルドで働く受付嬢。
このギルドは気候の変動が厳しい『西国』の辺境にあるので、あまり冒険者が立ち寄らない。
だから、こういう冒険者を見ると声をかけたくなる。
「今、ここに『中央国』のギルド職員が来ておりまして、試験を受けられますよ。よろしかったら、お取り次ぎしましょうか?Bランクに上がりたいんですよね?」
「わぁっ、いいんですか!?そうです、僕だけCランクですっ!ねぇ、みんな。僕受けてもいいかなぁっ?」
私の言葉に、ポニテ美女が嬉しそうに仲間のほうを振り向くと、いつの間にかフードを被った紫髪の美女と大柄の男が、剣士をじっと見つめていた。
汗がどんどん出てくる剣士に、二人が小さく『聞いてません』『そんなの聞いてないぞ?』と言っている。
「あ、あの、そういうのもあるのは、その、知ってたんだけど、それはどこでやるかって不定期だからわからなくて……だから確実なところを……」
言い訳のようなものを剣士がしているが、二人は納得行かないようで視線を外さない。
「ど、どうしたの?」
『怖ぁ……』
ポニテ美女と紫の小さな召喚獣が一歩引いても、その距離感は変わらずだ。
「アルネス、ぜひ受けてください。こんな機会なかなかないそうですから」
「え、あ、はい」
「なぁ、Aランクさんよ。お得意の情報網があればわかったんじゃねーのか?おん?」
「そ、それは、その……そうかもしれませんが、いつまでやっているかとかありますし……」
なにやらあったようだが、その事情は私にはわからない。
だけど、見ていてさすがに剣士がかわいそうになったので、私が助け舟を出す。
「ここにはあまり『中央国』のかたはいらっしゃりませんから。今回はラッキーでしたねっ」
にっこりと営業スマイルを浮かべると、紫髪の美女に笑顔で返された。
はうっ。う、美しい……っ!
大柄の男はともかく、美女二人と剣士の美貌がすごい。
あまりにも眩しくてクラクラしてしまう。
「教えてくださりありがとうございます。おかげで助かります」
「いえいえっ!これも仕事ですからっ!」
世話焼きなのは私の性分もあるかもしれないが。
よくギルド長に『あまり首を突っ込むな』と怒られる。なにかがあってからでは遅い、と。
だけど……
「もしよろしかったら、みなさん試験の見学しますか?試験受ける人は他に居ませんし」
「わぁっ!いいんですかっ!よぉーっし、がんばるぞぉーっ!」
『おーっ!』
ポニテ美女がこぶしを突き上げると、小さな召喚獣もこぶしを突き上げる。かわいい。
それならばと私は目の前の操作盤を使って、試験の準備をする。
通信を繋ぎ『中央国』のギルド員に連絡を、と。
『お疲れ様です、なにかありましたか?』
「お疲れ様です。Bランク上げ試験を受けたい冒険者がいらっしゃいましたので、お手数ですが面接をお願いします」
『あ、わかりました。では、先に筆記試験からお願いします』
「はい。終わり次第、面接室Aにご案内しますので、よろしくお願いします」
『了解です』
ぷつりと通信が切れたころ、横で筆記試験用の問題が書かれた紙の印刷が終わった。
それを持ち、私はポニテ美女に向かって手で案内した。
「どうぞ、こちらでまず筆記試験を受けていただきます。これは一人で行ってもらい、採点が終わり、合格していたら実技試験を受けていただきます。こちらは見学可になっております」
「わかりましたっ!」
歩きながら説明をすると、元気な声で返事が帰ってきて気持ちが良い。
そのまま試験の部屋につき、ドアを開けるとポニテ美女が中に入ってきた。残りの三人と一匹はその場で手を振ったりしている。
「よろしくお願いしますっ!」
席に座ったポニテ美女に試験の紙と羽ペンを渡す。
ポニテ美女は一度『ふむ』と声を漏らしたかと思うと、全く手を止めずにスラスラと書き始めた。
ギルド、冒険者、魔力など、世界の常識の試験で、主に魔力についての問題が書かれている。
これは、魔力を扱う冒険者が正しい知識を持っていないといけないという、ギルドからの警告でもある。
……まぁ、基礎中の基礎なのでここで落ちる者はほぼいない。
「終わりました」
「お疲れ様です」
穏やかな笑顔でそう言うポニテ美女から紙を渡される。
さっきの美女もだけど、このポニテ美女の笑顔も破壊力すごいなぁ……なんて思いながら、試験用の大きい四角い魔道具の中に紙を入れる。
これは百枚まで一気に採点できる、ギルド専用の魔道具だ。
中から出てきた紙が青に光れば合格、赤に光れば不合格という、一気に採点出来て、かつ、一目でわかるという方法だ。
さらに点数を自動的に冒険者カード、そしてギルドに保存してくれる。
お、出てきた。今回の試験の色は……
青。合格だ。
「おめでとうございます。合格です」
「ありがとうございますっ」
採点が終わった紙をポニテ美女に渡し、部屋のドアを開ける。
そこには先ほどの仲間が待っていた。
特に心配している様子はなさそうだった。そりゃそうか、筆記で落ちた人見たことないもの。
ポニテ美女が嬉しそうにニコリと笑い、合格したことを告げる。
そして歩き出した私に続いたポニテ美女に、仲間もついてくる。
「おいアルネス、お前何点だったんだ?」
「うーんとね……あ、満点だぁ」
「ですよね」
「あぁっ!?」
「まぁまぁ」
後ろがにぎやかで楽しい。いいなぁ、こういう仲間って。
私まで思わずクスクスと笑いながら、次の部屋に到着する。
そしてドアを開け、全員を招き入れるとしっかりとドアを閉めた。
「お待ちしておりました。えぇと、試験を受けるのは……?」
「僕です。よろしくお願いしますっ」
ポニテ美女が目の前の三人に丁寧に頭を下げる。
「他の人は?」
「見学許可をもらいました。口出しせずここにいます」
出入り口のドアの近くに立つ仲間の一人、剣士が優しく言うと三人のうち、二人の女性面接官の顔が赤くなる。
わかる。すごくわかる。めちゃくちゃカッコいいよこの人。
「……わかりました。おかけください」
真ん中の男性面接官が目の前のイスへとポニテ美女を誘導すると、ポニテ美女は座り穏やかに笑った。
それで男性面接官もノックアウト。それもよくわかる。
その間に私は、印刷済みだったポニテ美女の冒険者情報が書かれた紙を三人に渡し、そばから離れ仲間の近くに移動し、壁に背をつけた。
「えーと、魔術師ですか。となると、魔力の研究のために冒険者に?」
「はい。世界中を見て回り、魔力の研究に勤しんで役に立ちたいと思っています」
職業で紛らわしいものの一つ。それが魔術師。
魔術師は魔力や魔法陣の研究をし、新たな力の発見をする者のことだ。
「なるほど。冒険者としての功績も問題なさそうですね」
「ありがとうございます」
「では、その成果をこちらで見せてください」
女性面接官に言われ、部屋の奥にある透明な魔力壁で囲まれた部屋――実技部屋に入る。
先ほどしっかりドアを閉めたのも、ここで魔力を出す実技があるからだ。
「えぇと、なにをしたらいいんでしょう?」
「なんでもいいですよ。出来ることを精一杯やってください」
「あっ」
紫髪の美女がなにかを言おうとしたのを私が止めた。これはポニテ美女の試験なので口出しはできない。
でも、困った顔をしているのを見るとついほだされそうになる。
さっきまで美しかったのに、なんでこんなに可愛らしいの?
この人いくつ顔を持っているの?
そんなことを私が思った次の瞬間――
鳴り響く轟音。Cランク用の防壁が壊れ、面接部屋と実技部屋がつながった。
「あっ……」
ポニテ美女がなにかをやったようだがよくわからない。
わかるのは体勢を見るかぎり、おそらく拳を繰り出したのではないか、ということ。
「ご、ごめんなさい……」
ポニテ美女がダラダラと汗をかき始める。
全員が動かない。
いや、仲間たちは苦笑し、小さな召喚獣は『なにがダメなんだ?』という顔をしていた。
「す、す、素晴らしいっ!」
「なんて力なのっ!この力はBランクどころではないわっ!」
「Aランク……いや、Sランクも検討できるわねっ!」
面接官三人が立ち上がって絶賛し、拍手までしだしたので驚いた。
「そ、そうですか……?」
ポニテ美女が照れている。なんとも嬉しそうでついつい笑顔になってしまう。
その時、『知ってたんですか?』『知ってたのかお前?』という声が小さく聞こえ、横を見るとまたしても紫髪の美女と大柄の男に剣士が睨まれていた。
剣士は必死でブンブンと首を横に振っている。
男性面接官が正気を取り戻したのか、コホンッ、と咳をして姿勢を正す。
「ま、まぁ、また星上げと試験を受けてもらわなければならないから、今ここで一気にランクを上げることはできないが……うむ、素晴らしい。Bランクにあげても問題ない」
「わぁっ!ありがとうございますっ!」
ポニテ美女が嬉しそうにペコリと頭を下げている中、私は横で繰り広げられている剣士の『ね?』という言葉と、それでも見続ける二人のほうが気になっていた。
「お疲れさまでした。これからはBランクとしてがんばってくださいっ」
「ありがとうございますっ!」
全ての手続きが終わり、ポニテ美女は無事Bランク冒険者になった。
嬉しそうにカードを見ているポニテ美女と、カードを眉をひそめて見ている紫髪の美女が対照的で面白い。
「よし。じゃあ行くか」
大柄の男の一言で全員が受付から離れていく。
それを見て私は手を振った。
「面白い人たち」
笑っていたら奥のほうで誰かが動いた気がした。
新たな冒険者かな?そう思って受付としての仕事を再開しよう。
その時だった――
「見たな?」
「え?」
私に意識があったのはそこまでだった。
グラリと視界が揺れて黒くなっていく。
そんな中、最後に見たのは焦点が合っていない先ほどの三人の面接官と、一人の男性。
全員同じ服を着ていたから、きっと『中央国』……の……
「見つけたぞ。『西国』だ」
にせ……もの……
セリ……ナ……
あぁ……
リアナ様……




