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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
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第100話『大地の試練03』

「お願いします。私に『大地の精霊』について教えてください」


次の日の朝。

勢い良くドアを開け、いつものようにセリナの調子を聞いてきたおばちゃんに、セリナはぶしつけに聞いた。

頭を丁寧に下げたその様子を見て、おばちゃんは嬉しそうに笑いながらため息をつく。


「うんうん、なかなかに早かったほうだね。でもまずは腹ごしらえだっ。話したげるからこれをお食べ」


そう言っておばちゃんは持っているおぼんを机の上に置いた。


今いる部屋は泉の部屋でもお湯がある部屋でもない。割と一般的に見る普通の一人部屋だ。

机とイスがありベッドもある。壁には女神らしきものが描かれた絵画に、優しい光を放つ灯篭。

セリナはここに来てからずっとこの場所で寝泊まりしている。


セリナは言われるまま大人しく席に着いた。最初は軟禁状態なのに、こうして三食食べられるのが不思議に思えたが、今は慣れてきている。


「今日はサソリの出汁茶漬けだよっ。セリナちゃんの舌に合わせて優しいものにしたからね!」

「ありがとうございます」


ここに来た初日に出されたものは、例のおかえり会のものだったであろうこってりとした肉や野菜、そしてサソリだった。


その時初めて食べたサソリは絶品だった。ぷりぷりした身に、歯で簡単に噛めるのに感じる弾力。

エビやカニに似ているが、あちらは磯を感じこちらは土を感じる。良く味わえば苦みも感じるが、それを調味料がうまく生かしている。


そんなサソリと野菜だけを食べているセリナにおばちゃんは言った。


「肉も食べなさい!若いんだからもっと食べて力つけないと!女の子は将来子供も産む体力も必要になるんだからねっ!」


怒るおばちゃんにセリナはにこりと笑って言った。


「その心配は無用です。たぶん()()()()()になってしまっているので」


まだ『中央国』にいたころの話だ。セリナの体に異変が起こった。


女特有のモノが来なくなったのだ。


まだ当時は十三歳。妊娠でもしたのかと大騒ぎだったが、結果はそれとは真逆のもの。

それに対しての両親の罵倒がすごかった。セリナに『聖女』を産んでほしかったのだろう。その夢がついえたのだ。

そしてそれを嘆くのは両親だけではない。同じく期待していた『中央国』の者たちから、遠慮のない罵声を浴びせられた。


だが、セリナやリアナがそうであったように一般庶民から『聖女』が誕生することがある。それに歴代の『聖女』が『聖女』を必ず産むというわけでもなかった。

いつ、どこで、どうやって産まれるか。それは今でも謎のままだ。


しかしその事実を知っていたとしても、一般庶民から公爵の地位を与えられ世界が一変し、まるで自分たちが英雄のように扱われるようになった両親にとっては、耐えがたいものだっただろう。

セリナが『聖女』を産めば、二人はさらに敬愛される。そう思っていただろうから。


……そういえば、婚約者であったアルベルトのセリナへの興味が薄れていったのもこの頃あたりからだった気がする。

それ以前からリアナに夢中になりかけていたから、というのもあっただろうが、それに拍車をかけたのかもしれないと今なら思う。


「……そうかい」


おばちゃんはセリナの言葉で全てを悟ったのだろう。いつも笑顔でうるさいくらいだったのに、真剣な顔でセリナを見つめ……やがてセリナのほうへ歩いてきて……抱きしめた。


「あの……?」


おばちゃんの力がこもったのを確認してしばらく警戒していたセリナだったが、そのままなにも言わずに抱きしめられ……その温もりについ気が緩んでしまった。


それからの食事は一変した。セリナの気をつかうような優しい健康的なものへと変わったのだ。

昔よりは量を食べられるようにはなっている。肉も普通に食べられるし、嫌いなわけでもない。

しかしそうだとしても、こういう胃に優しい食事は本当にありがたい。


「……美味しい」


そんなことが遠い昔のようだ、そう思いつつ食べる茶漬けが美味しい。

出汁がきいているというのはこういうことをいうのだろう。素材の味を生かした野菜に、淡白なサソリの身。それを引き立てる出汁が優しく染み入る。

やはり……足の多い生き物は美味しい。


「さて、セリナちゃんが知りたかったのは『大地の精霊』様のことだね」


おばちゃんはセリナの前に足を広げて立ち、腰に手を当てる。


「父なる大地、母なる大地……場所によって呼ばれ方は違えど、全てを見守り包み込む存在。それが『大地の精霊』様さ。そしてアタシら小人族は『大地の精霊』様の眷属。各地にある『大地の精霊』様の入り口を守護している。ここはその一つさね」


入り口は一つではないのか。ならば精霊を呼び出すための台座のようなものがここにないのも納得できる……あ、ネギおいしっ。


「大地は全てを立ち上がらせてくれる力を持つ。けどね、大地はそこに在るだけ。その場に立つのは意志だよ」

「意志……ですか」

「そう!そしてその意志は強ければ強いほど力となる。強い意思を持たざる者は、大地から見放され立てなくなるのさっ」


泉に入った時に魔力を吸われ立てなくなる。それは意志が足りないからということか?

では、その意志はどうしたら手に入るのだろう?言葉が概念すぎて具体案が思い浮かばない……サソリんまっ。

食べながら考え込むセリナを見て、おばちゃんがニヤリと笑う。


「難しいかい?でも、もうセリナちゃんはその意志を持っているんだよ」

「え?」


顔をあげおばちゃんのほうを見ると、おばちゃんは大げさに手を広げた。


「意志とは……愛だよっ!愛っ!」

「………………」


あい……?


思わず眉をひそめそうになるのをこらえる。

愛情……それは今のセリナが一番嫌いなものなのだ。


「愛は一つとは限らないっ!たくさんの愛で世の中は満ちている!それを大地は支えているのさ!」


まるで劇場が始まったかのようにクルクルと回るおばちゃんを見ながら、セリナは心の中で失笑した。

教育、指導、しつけ、お気に入り、建前、偽善……確かにセリナはたくさんの愛をもらってきた。


「セリナちゃんだって、誰かに恋をしたり誰かを大事に思ったりしたことがあるだろう?それが愛なのさっ!」


おばちゃんの言葉に背筋が凍る思いだ。

恋と称して体を狙ってきた人間は数知れず。愛と称して甘言を吐き騙してきたことも数知れず。

人間から向けられる恋や愛という名の行為は、吐き気がするほどだ。


いらない。そんなものいらない。もしおばちゃんが言うように持っているのなら、今すぐに捨てたい。気持ち悪い。


そう思うセリナだが、なんとか態度には出さずにいられた。机の下で震える手を押さえながらもなんとか話の続きを聞く。

おばちゃんは回り疲れたのか、ふーっ!と大きく息を吐き、やがてセリナをしっかりと見る。


「セリナちゃんはアタシにこうやって頼ってくれたね。これも愛の一つさ。信用がなければ頼ることなどできない。そういうこともあるんだよ」


それは確かに思った。

セリナは、今まで自分の力だけでなんとかしようとしていた。だけどそれではダメだと気づいた。だからおばちゃんに頼ったのだ。

しかしそうすることが愛?そうだとするならば……そんなことを自ら選択しやったのか……っ!


「セリナちゃん?」

「……あっ。す、すみません。考え込んでしまいました」


とうとう顔に出たのだろう。慌ててにこりと笑うと、おばちゃんもニカッと笑う。


「あの泉に愛をぶつけるだけ。それで試練はうまくいく。これ以上簡単なことなぞないべっ!さっ。ご飯食べたら、あとはもうクリアするだけだ!」


おばちゃんには簡単なことなのだろう。

だが……セリナにとっては……


「そうですね」


笑みを浮かべるのを忘れずに、一息つこうと茶漬けを食べる……

さっきまで美味しかったのに……味がしなかった……

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