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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第一章 ようこそ! 女体研究同好会へ
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女体研究同好会とは?

 それにしても困った事になったと、健吾は考える。

 恐らく、会室はいまや注目の的だ。きっと、どんな奴が会員なのか皆気になっているに違いない。そんな会室に入っていったら、噂になることは確実。何とかできないだろうか。

 健吾は廊下を歩きながら何とか解決策を練る。だが、結局これといっていい案が思い浮かばないうちに、空き教室の前までやってきてしまった。


 空き教室の前は人の山で埋め尽くされていると予想していたのだが、その予想に反して人気が少ない。というより、不自然なまでに人気が無い。先日の事もあり何かの罠かと思い、不用意に近づくのを躊躇ってしまう。

 だからといって、いつまでもここで突っ立ているのも、いい策じゃない。一度通り過ぎて周囲の様子を探った方が得策だと考える。


 健吾は無関係を装って、空き教室の前を通り過ぎ……ようとした。


「あれ? 健吾じゃないですか。会室はここですよ」


 聞き覚えのある男にしては高い声が、健吾の耳に届く。その声のほうを振り向くと、笑顔の会長がこちらを眺めていた。もう、無関係を装っても無駄だ。だったら、会長の機嫌を損ねない方法をとった方が賢いというものだ。


「あれ、そうでしたか? 悪いっすねぇ、ちょっと物忘れが激しかったみたいっす」


 出来るだけ自然に振舞う。無関係を装っていた事など、なかった事にしなくてはならない。


「本当に君は駄目ですね。私はてっきり、他人に関係者である事を悟られたくなくて、無関係を装っていたのだと思いましたよ。君の出来の悪い頭では、空き教室の場所すら覚えられないのですね。そんな頭で小賢しいことなんて、考えられる訳無いですよね」


 人畜無害そうな笑顔をしながら、とんでもない毒を吐く。しかも、無関係を装っていた事もバレバレだった。いつかギャフンと言わせてやりたいが、そんな事を言わせる前に縁を切りたくて仕方が無い。


「いやー、先輩、今日も絶好調っすね」


 少し皮肉を込めて、せめてもの反撃を試みる。


「君の頭ほどじゃないですよ。そんなことより早く会室に入って下さい。ただでさえ遅れているんですから」


 皮肉までも誠の前では春のそよ風程の効果も無い。これ以上口で争ってもまるで勝ち目は無い。大人しく従ったほうが我が身の為だとようやく悟る。

 会室に足を踏み入れた瞬間、健吾の足が止まる。想像を超える会室の惨状に健吾は言葉を失ってしまう。


 空き教室だけあって、普段使っている教室と同じはずなのに同じだとは思えない。所狭しと可動式のクローゼットが置かれてある。しかも、そこには色とりどりの衣装がかけられている。パッと見るだけでも、体操服、メイド服、ナース服、スクール水着、等々。妙に偏りがあるが、全て女性物ばかりである。


 そして、教室の壁を埋めるように、本棚が設置され本棚にはみっちりと本が詰まっている。しかも、本の一冊一冊は非常に薄い。数にしたら何冊あるのか想像もつかない。


「ほら、何をしているんですか? 早く席に着いたらどうです」


 クローゼットの隙間を縫うように、教室で使っている机と椅子が五つ用意されている。会員は五人しか要らないという事なのだろうか。それとも、それ以上は考えていないのだろうか。非常に判断に困る。


「ああ、そうさせてもらうぜ」


 教室の変わりように圧倒されて、気の利いた突っ込みの一つも出来ない。恐らく周囲に誰もいなかった理由は、教室の惨状を見て関わり合いになりたくないと思ってのことだろう。自分も今のような特別な理由がなければ、関わりたくない。

 席についてある事を思い出す。


「そういえば、高嶺は来てねぇのか?」


「友里さんですか? 着てますよ?」


(オレは呼び捨てで、奴はさん付けかよ。まぁ、いいけど。それにしても、来てますの誤字だろ、早く修正しとけよ。恥ずかしい)


 本当は声を出して突っ込みたかったが、そうすると後が恐いのでここは黙っておく。


「あら、やっと来たのね健吾くん」


 友里の丁寧な良く通る声が聞こえてきたので、そちらの方を見やるとそこにはウェイトレスさんがいた。オレンジ色の服に白いエプロン、頭にはヘッドドレス。どこかの有名ファミリーレストランの店員さんだった。


「って、何してんだあんたは!」


 つい、素で突っ込んでしまった。いくらなんでも似合いすぎだ。一体何を考えているんだか。


「これだけ服があるのに、着ないのは勿体無いでしょ? それに、会長から着ていいって言われたからね」


 微笑んで、小首を十五度ほど傾けられると、悔しいほど可愛い。美人の癖に可愛いなんて、反則過ぎる。全く、けしからん。


「何を言ってるんですか。だからさっき言ったじゃないですか、着ているって」


 アレは誤字じゃなくてその通りの意味だったんですね。得心しました。会長には敵いません。参りました。


「それにしても、一体何処からこんな沢山の服や本を集めてきたんだよ。これは洒落にならんだろ」


 ようやくまともな突込みが出来た気がするが、何となく不本意な突っ込み方になってしまった。もっと、こう体を使って「なんでやねーん」的な、乗りのいいリアクションを取りたかったのが本心だ。


「これは全て私の私物です。だから、会員は自由に着たり読んだりしても、かまいませんよ」


 普通ならその太っ腹さ加減に賞賛を送るところだが、男が女物のコスプレ衣装をこれだけ集めると流石に、変態だと思ってしまう。もしかして、あの妙に細い本もそういった類の物なのだろうか。


「会長さんは凄いですわね。よくこんなに集めましたわ」


「ちょっとした趣味がこうじてまして」


 誠は笑顔で対応しているが、そこは笑う場面じゃない。密かに皮肉が入っている事に気付けよ。自分の時は超反応を見せてくれるというのに。

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