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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第四章 漢を賭けろ
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決戦

 道場の中央に描かれた十一メートル程度の長方形の端に、健吾は立っていた。道場内はしんと静まり返り、張り詰めた緊張感に包まれていた。

 その向かいには、防具を着込んで竹刀を提刀さげとうに持った友里が立っている。友里と対峙する形で立っているのは、これから試合が始まるからだ。


 試合場の中央には主審として、紅白の旗を持った剛三が立っている。そして、その隅には副審を務める誠も紅白の旗を持って立っている。本来はもう一人の副審と審判長が必要だが、事情が事情なので、その辺りは省略されている。


「勝敗の確認をする。剣道の試合は普通、三本勝負の二本先取。だが、そんな生温い事はワシが認めぬのである。一本勝負。一本取られた場合、真剣ならその場で即死である。次があるなどと思うな、この一戦に全てを賭けろ。後、制限時間も無し。審判が二人しかいない都合上、ワシと誠のどちらかが、有効打突を認めない場合、一本としない。その場合、仕切りなおしはするが、一本取るまで試合は終わらぬ。当然、引き分けなども認めない。以上である」


 かなり変則的な試合形式だが、不完全燃焼では終わらない形式は、悪くないと思える。誰が見ても一本だと分かる形でなければ、納得できそうにない。そう考えれば、実にいい試合方式だ。


 友里と健吾はお互い、対峙したまま礼をして帯刀たいとうする。三歩で開始線まで歩み寄ると、竹刀を構えて腰を落とす。そして、蹲踞そんきょの体制に入り、開始の声を待つ。


 主審から見て、左側に友里、右側に健吾がいる。つまり、審判が右手に持っている紅い旗が揚がれば、友里が有効打突を受けた事になる。そして、左手に持っている白い旗が揚がれば、健吾が有効打突を受けたという事になる。


「始めっ!」


 剛三の凛とした声が道場中に響き渡ると同時に、立ち上がると友里に向かって打ち込もうとする。だが、友里の動きの方が速い。ここで打ち込んでもこちらが一本取られる。相手の竹刀を受け流さない事には、次は無い。

 パシィッという乾いた音が響いて、辛うじて友里の竹刀を竹刀で受け流し、事なきを得る。速さはあるもの、威力の無い打ち込みだから、何とかなった。だが、流れるような友里の動きには無駄は無く、すぐに打ち込んでくる。それでも、対処できない速度じゃない。防御に集中すれば、一本取られることは無い。


 しかし、友里の隙の無い攻めは、こちらに反撃の機会を与えない。

 友里の打ち込みを受け流しながら、ふとある事に気付く。これほど素早い打ち込みが出来るのなら、こっちの対処限界を超えるのは時間の問題のはずなのに、今でも何とか一本取られていない。

 つまり、友里はこちらが対処できるギリギリのスピードで試合を展開しているのだ。辛うじて向こうのスピードに対処出来ている、などと自惚れる事は出来ない。この攻撃は囮で、本命の攻撃が何処かに紛れ込ませてくるかもしれない。

 確実に一本取るための作戦という事も考えられる。

 色々と考えておいて、何なのだが。正直、限界である。試合のペースは友里に作られ、完全な防戦状態。攻撃に転じる事も出来ず、気を抜けば一本取られる恐れもある。


「こてぇっ!」


 などと考えていると、友里の竹刀が右手の籠手をかすめる。しまったと思う余裕もなく、剛三は左手に持っている白い旗を揚げる。

 白い旗が揚げられたという事は、剛三は先程の一撃を有効打突と判定したらしい。誠はどうかと視線を向けると、紅白の旗を交差させていた。誠からは先程の一撃は有効打突とは認められないらしい。


「ちっ! 負けてしまえばいいものを……」


 剛三は眉を顰めながら、舌打ちをする。どうやら、オレを負けさせる為に、そのような判断を下したらしかった。


「おっさん! あんた、わざと有効打突にしやがったな! そういうのは止めろよな!」


「うっさい、餓鬼! うぬなんぞに大事な娘をやれんのである!」


 餓鬼はどっちだと思いながら、剛三と向かい合っていた。だが、誠と友里に睨まれたのが効いたのか、剛三は元の位置へと戻っていった。


「あの一撃を避けるとは思っていませんでしたわ」


「その割りに、妙に余裕じゃねーか!」


 やはり、友里は侮れない。竹刀だから良かったものの、真剣なら利き腕に傷を負っていたに違いない。その場合、オレに勝ち目は無いだろう。剣道というルールに救われたと言うべきだろう。そういう意味では、剛三の有効打突判定も、あながち間違いという訳でもない。

 仕切りなおして、開始線の前で竹刀を構える。


「始め!」


 次は先手を取ろうと打ち込むと、意外な事に友里は守りに入った。純粋な打ち合いなら、友里の速さに部があるはずなのだが、何を考えているのだろうか。

 どんな手を考えているのか知らないが、攻められるなら攻めて行かないと、勝ちをものに出来ない。

 竹刀の先端を打ちつけ合いながら隙を見つけ、確実な一本をものにしたい。だが、流石に中々隙を作ってくれない。竹刀の先端を交差させた状態から、試合は中々展開を見せない。

 時間制限が無いとは言え、このまま試合が長引きすぎるのも、集中力を欠く結果になりかねない。間合いを変えながら、何とか隙を作り出さなくてはいけない。

 こちらが少し間合いを開けると、相手の竹刀がかすかに下がるのを見逃さなかった。

 今しかない、思い切り踏み込んで友里の面を狙いに行く。絶妙な距離、相手の竹刀の位置からこの面は間違いなく決まる!


「めぇんっ!」


 そう思っていた時期が、オレにもありました。

 友里は首を傾け、竹刀が面に当たるのを避けるとそのまま胴を狙ってきた。


「どぉっ!」


 抜け胴。相手の面が決まるのを避けながら胴を狙う技である。こちらの全力の面は姿勢を変更する事も許されず、友里の放った胴は綺麗に決まってしまう。

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