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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第四章 漢を賭けろ
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過去のお話

「あーあ、地雷を踏んじゃったわね」


「うるせぇ……」


 確かに失言だった。誠からしたら、健吾は負けるはずが無いと思っていたのだろう。だというのに、友里の事を口にした。それは、負けるかもしれないと、自ら言っているのと同じである。


「でも、私はわざと負けたりなんかしないわ。誠を狙っているのは、本当だもの」


「お前が同好会に入会した理由は、誠だったんだな?」


 友里はニヤニヤとこちらを眺めてくる。その表情は正直腹が立つ。


「当然よ。いくら、衣装着放題、写真集読み放題とはいえ、男だけの同好会に入ろうなんて思わないわ。私は、男性恐怖症の気があるんだから」


 そうだった。こいつは、父親に性的な悪戯を受けていたのだ。男だけの同好会に入ろうなんてそんな酔狂な事は普通考えない。


「最初から、誠が女だって知ってたのかよ」


「当然よ。私は女体を知り尽くしているの。男と体格が違う事にすぐ気付いたわ」


 自分から女体を知り尽くしているなどというとは、かなりの自信家である。


「そうかよ。でも、本当に勝負になるのか? お前はさっき自分で言ったとおり、男性恐怖症の気があるんだろ? オレと勝負なんて出来んのか」


「健吾とは付き合い長いから、平気だと思うわ。今は父親とも一緒に暮らしていて、恐怖症の克服もしているしね」


 予想もしない爆弾発言が飛び出した。


「おいおい、大丈夫かよ。また、悪戯されたりするんじゃないのか?」


「父も反省しているし、今はもう子供とは違うもの、反撃くらいするわ。私は悪戯されるより、ずっと逃げている事が嫌だったの。父の悪戯に怯えて、家族から逃げ続ける事がいい事だって思わなかった。だから、今は全寮制の学校を辞めて、こうして公立の学校に通っているの」


 逃げるのを辞めた。男性に対して恐怖心があるというのに、それを克服しようとするその姿が何となく眩しく見えた。別に何かから逃げたつもりは無かったのだが、妙な罪悪感を覚えた。


「凄いな。オレには真似できそうにない」


「真似でこんな事しても意味無いわ。自分が逃げたくないと思うことが大切なのよ。健吾

もそうでしょ? 剣道から逃げたくせに、未だに剣道を引きずってる」


 罪悪感の正体が分かった気がした。


「詳しい理由は知らないけれど、健吾は剣道から逃げたから、今の学校にいるのでしょ? でも、その割には、喧嘩に竹刀使ったり、剣道の勝負を受けたりして、未練があるように見えるわ」


「オレに出来るのは、剣道ぐらいだし、仕方がないだろ。武器は竹刀しか使った事ねーし」


 そう、オレは剣道をしたい訳じゃない。ただ、喧嘩の道具や勝負を有利に進めようとしただけだ。


「健吾は知らなかったと言うけど、誠のお父さんとの勝負、剣道をするよりジャンケンにした方がずっと勝率は高かったと思うわ。貴方は剣道を諦めきれていないんじゃないの?」


 そんな事は無い。全国大会一回戦で、思い知った。悲しくもなかったし、未練も無かった。涙だって出なかった。ただ、自分は負けたという事実だけ。


「そんな事は無い。それに勝負だって、結局別の種目になるだろうしな。まぁ、どんな勝負だって負けるつもりは無いけどな」


 正直、ただ強がっているだけ。剣道以外に取り得の無い自分は、他の勝負では勝てる見込みは無い。友里の事は詳しく知らないが、勉強も、料理も、運動も、ジャンケンですら、勝てるとは思えない。


「健吾に嬉しいお知らせよ。私との勝負はきっとに剣道なるわ。そうしたら、もう一度剣道が出来るわ。良かったわね」


 友里はこちらを蔑むように笑っている。まるで、格下の相手を見下すような、嫌な笑顔。


「うるせぇ! オレは別に剣道したいわけじゃねぇ!」


「そう。まぁ、いいわ。明日の勝負、楽しみね」


 その友里の余裕たっぷりの笑みが腹立たしくて、無視するように道場から抜け出した。



 それから、自室へと帰って来ると、外は日が落ちてあたりは暗くなっていた。今更反省文を書く気になんてなれないし、明日の勝負に向けて何かしようにも、勝負の方法は分からない。それに、一晩程度であの底知れない友里に対抗するのは難しいだろう。

 こういう時はさっさと風呂入って寝るに限る。健吾はそう決め付けて、風呂へと向かっていく。

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