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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第四章 漢を賭けろ
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賭けをしましょう

「ところで、健吾くん。誠とキスをしたらしいが、本当かね?」


 その言葉に、体がビクッと跳ねる。それは、誠も同じだったようで、体がビクッと反応していた。恐らく酔って帰った誠を剛三が尋問して、根掘り葉掘り聞いたのだろう。あんな父親に凄まれたら、どんな隠し事も口にしてしまいそうだ。そういう意味では誠も可哀想である。


「はい。本当です」


 嘘を吐いても既にばれているのだから、状況を悪化させるだけになってしまうだろう。覚悟を決めて答えたのだが、ビキィという聞こえるはずの無い音を立てて、剛三の表情が変化した。今までの顔が鬼だとしたら、今は悪鬼か羅刹かといった感じだ。


「ほおぅ! それは本当かねっ! なら、当然結婚を前提とした付き合いをするのであるか?」


 ゴクリと、健吾は唾を飲み込む。飲み込むほど唾は出ていなかったが、飲み込まずにはいられない。恐怖を感じているせいである。


「いえ、その……」


 どう答えようか考えているが、いい回答が思い浮かばない。特に、返事をしていないなんて、言った日には鉄拳が飛んできかねない。


「ふむ、言い淀むという事は付き合っていないという事であるな。うぬも男なら、そういうのは不誠実だとは思わないかね? 唇だけを奪っておいて、そのまま捨てるつもりなのかな?」


 以前出会った時から、子供を大切にする親だとは思っていたが、ここまで来ると親馬鹿だ。それに加えて、貞操観念があまりにも高すぎる。これは再婚を良しとせず、娘を息子として育てたのも、納得できてしまう。


「そんなつもりはありません。ですが、オレも不意打ちというか、相手が今まで男だと思っていた誠さんだったので、どうしようか迷っているところもあります」


 これは、本心であった。それで、父親の気が晴れるとは思わないが、本当に迷っているので、下手な事は言えない。

 それより、誠が沈黙を保っている事が妙に気になる。本人の問題だというのに、まるで発言していない。全て父親の言いなりで、ずっと俯いているばかりだ。もっとも、昨日のうちに想いの全てを吐き出したので、これ以上言う事など無いのかもしれないが。


「そうか、君も迷っているのであるか。なら、ワシと賭けをせんか?」


「賭けですか?」


 剛三の意図が掴みきれずに、ついオウムのように意味も無く聞き返してしまう。


「そう、賭けだ。君が勝てば誠との交際を認めるのである」


「は?」


 別に誠と付き合い訳ではないのだが、どうして、自分が勝った場合がそのような報酬なのかと疑問に思ってしまう。


「そして、負けた場合、誠から一〇〇メートル以上近づかないで貰いたい。もちろん、今通っている学校も辞めてもらうのである」


 あまりの暴言に言葉を失っていると、今まで無反応だった誠が顔を上げて初めて発言する。


「父上! それは、あまりに……」


 だが、その言葉は剛三の一睨みによって、途切れてしまう。やはり、誠にとって父親は抗いがたいもののようだ。


「誠と付き合う気があるなら、死んでも勝って見せろ。付き合う気がないのなら、二度と誠の前に顔を出すな。半端な気持ちで誠と一緒にいても、誠が苦しむだけである」


 剛三ははっきりと言い捨てた。

 つまり、付き合うか、二度と会わないか、どちらかしか認めないという事らしい。娘の事を想うなら、分からなくもない行動だが、やはりやりすぎのような気がする。


「わかりました。何で賭けをするんですか?」


 自分も覚悟を決める必要があるようだ。誠との関係も何とかしなくてはいけない訳だ。ある意味ちょうどいい機会なのかもしれない。


「逃げ出すかと思っていたが、どうして、中々気骨があるではないか。誠の想い人でなければ、気に入ったかも知れんのである」


 剛三の表情が若干和らいだように感じた。だが、あの鋭い目つきはそのままにこちらを威圧している。


「勝負の内容、剣道はどうであるかな? ワシも少々の心構えがあるし、うぬも県の代表になる程の腕前、いい勝負になると思うのである」


 何を考えているのか、分からないが、わざわざこちらの土俵で戦ってくれるというのなら迎え撃つまで、手加減をするつもりは無い。


「いいですよ。オレは負けるつもりありませんから」


 誠の事は別としても、転校したくないし、勝負に負けるのも好きじゃない。少しは痛い目を見て誠の気持ちを思い知らせてやろうと思った瞬間、今まで沈黙を保っていた友里が発言した。


「待ってください。その賭け、私は参加できないでしょうか?」


 突然の言葉に、剛三も、もちろん自分も驚きを隠せない。何を考えているのかと、友里の方を見るとその表情はいたって真剣で、止める事も躊躇われるような覚悟が伝わってくる。


「ほう、その理由を言ってみるのである」


 剛三は驚きの表情から、すぐに楽しそうな笑顔に変わっていた。恐らく、友里の行動に興味を持ったのだろう。


「簡単な事ですわ。私も誠さんの恋人に立候補したいと言っているのです」


 剛三はその言葉に目を大きく見開いて驚いた様子だったが、ありえない事じゃないと妙に納得してしまった。


「だが、うぬは女性ではないのか?」


「そうですけど、何か問題でも? 誠さんは世間的に男性ですし、私とお付き合いした方が自然なのではないですか?」


 流石は友里、口はかなり達者だ。それに、それとなく説得力がある。誠も恋人がいてもおかしくない年頃、それが女性相手なら剛三としても安心できるだろう。


「ふむ。一理ある。それに、ワシと健吾くんが勝負より見ものかもしれないな。では、うぬが勝った場合、誠の交際を認めるのである」


「では、私が負けた場合のペナルティは?」


「そうだのぉ。誠のよき友人として、これからも宜しく頼むとするかの」


 オレの時と随分と対応が違う。剛三にとっては、友里は歓迎するべき来訪者という訳か。確かに、男女に関しては厳しようであったが、女性同士に関しては結構甘いような感じだ。というより、女性同士の濃密な行為を知らないだけという可能性が高い気がする。

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