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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第二章 揉め事
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誠の部屋

 広大な庭園があったにも関わらず、建物の中も相当な広さで随分と長い間廊下を歩き続けている。たまに使用人らしき人とすれ違う度に、脇に逸れて仰々しくお辞儀をしてくる。その光景を見ていると、誠は本当にお坊ちゃんなんだと痛感する。


 廊下に面した入り口は襖が続いていたが、突如木製の扉が現れた。今まで純和風だった建物の中、そこだけ洋風にアレンジされていた。誠はその扉のノブをおもむろに掴むと、そのまま開ける。


「何も無い部屋ですが、先に入っていて下さい。私は手当ての道具を持ってきます」


 誠は何の警戒もする事無く、健吾を置いて部屋を後にする。信用されているのか、見られても困るものが無いのか、恐らくは後者なのだろう。あの誠が何の対策もなく自分を一人にするはずが無い。

 とりあえず、部屋の中に入ってみる。


 うん。予想通り特にこれといって何も無い。実にシンプルな部屋だ。ここだけ洋風なのか、フローリングの床に、ベッド、机、椅子、本棚、テーブルが置かれている。クローゼットは壁と一体化しているようだ。恐らく、勉強部屋として作られたものだと思われる。畳に机なんか置いたら、痛んでしまう。


 先ずは手始めに本棚の中身チェック。会室にある本棚に収まっている本とは違い、どれもこれも分厚い本ばかりだ。背表紙を見る限り、辞書や参考書の類ばかりだ。実はカバーを外すと、別の本という可能性も考慮して、適当に本を数冊眺めてみたが、やはりカバー通りの内容であった。

 次はベッドの下。思春期の男の子なら『お気に入り』を隠しているものである。健吾はベッドの下を覗き見るが、真っ暗でよくわからない。手を入れて探してみるものの、何も引っかからない。やはり、お約束とされる場所には何も無い。

 今度はクローゼットに手を伸ばす。白色のクローゼットは飾り気が一切無い。扉を開いてみても、あるのは学校指定のブレザーに、私服だと思われる渋い色をしたコートとジャケット程度しか見当たらない。

 引き出しの中身を見てもいいが、あいにく男物の下着に興味はないし、見たくも無い。もし、逆に女物の下着があったら、ドン引きしてしまう。ちょっと洒落にならないので、確認しない事にする。


 クローゼットを閉めてから、部屋の中をぐるっと見回すと、机の上に乗っているパソコンに興味が湧く。この中に恐らく、あのデータが入っているはず。だが、あの誠が何の対策もしていないとは思えない。CDに焼いたり、USBメモリ、外付けハードディスク、隠しドライブ等、様々な媒体にデータを保管していたりしているに違いない。それに、パソコンを勝手に起動するという迂闊な行動を取ると後が恐い。悔しいがここは触れぬが吉だろう。


 そんな事を思いながら、パソコンを眺めていると、扉が開いて誠が姿を現す。その手には大き目の救急箱が握られていた。


「お待たせしました。――どうしたのですか? パソコンに興味があるのですか?」


「ん? ああ、まぁな。鬼瓦財閥のパソコンは相当なスペックを誇ってるだろうと思ってな」


「残念ですが、それは私の小遣いで買ったものなので、大した事はありませんよ」


 何となく意外だ。誠の性格なら、パソコン関係に全力を注いでもおかしくないというのに。だが、確かに誠が言うとおりパソコンはメーカー製で自作や、オーダーメイドって訳ではなさそうだ。貼ってあるステッカー通りなら、大した性能じゃない。ただ、中身は別物という可能性があるので、絶対とは言い切れないが……。


「そんな事より、腕を出して下さい。手早く済ませますから」


 誠に促されるままに、左腕を差し出す。

 誠はテーブルの上に救急箱を置くと、そこからスプレーのような物を取り出す。


「少し冷たいですから、我慢して下さい」


 左腕の赤く腫れた部分に、スプレーを吹きかける。冷却スプレーの冷たさに顔を顰める。次に誠は冷湿布を取り出す。


「本当は氷嚢か、氷を包んだ布を使った方がいいのですが、生憎氷を切らしていたので、湿布で我慢して下さい。運動部に所属していたのなら、その後の対応は言わなくても分かりますね」


「ああ。それぐらいは分かるさ」


 打ち身から一日は冷やす、冷やさないを繰り返した方がいいらしい。まあ、そう長い事お邪魔するつもりもないし、問題はない。

 湿布を貼り終えた後、見事な手捌きで包帯を巻きつけ患部を固定する。締め付けすぎず、緩すぎず、ちょうどいい具合であった。


「サンキュー。それにしても、結構手馴れてるな」


「父に教わりました。運動が苦手だった分、救護に関する知識、技術を叩き込まれました」


 なるほど、あの父親なら確かにそんな事をしそうだ。剣道をやっているといっていたし、実戦する機会も多かっただろう。


「今日は無理でも、明日には医者に見せた方がいいですよ。鉄のチェーンを素手で受け止めるなんて、無茶しすぎです」


「まあ、あそこはああするしか打開策が思い浮かばな……って、しまった! 誘導尋問に引っかかるとはっ!」


 健吾の驚きように、誠は呆れた表情をする。


「もしかして、本当にばれていないと思っていたのですか?」


「アレ? もしかしてバレバレだったのか?」


 今度は深いため息を吐かれた。何だか非常に馬鹿にされているような気がする。それはきっと気のせいじゃない。


「面を被っているとはいえ、近づけば顔は分かります。その前に声で君だと特定できました。ばれると思わなかったのですか?」


 声か、声は盲点だった。初対面の不良共は兎も角、それなりに付き合いがある誠には分かってしまう。正直、ばれるとは思っていなかっただけに、ダメージが大きい。


「あの、もしかして、最初の名乗りから気付いていましたか?」


「当然です。いきなり本名を名乗り出そうとした時から気付いて……いいえ、姿を現した時から、君だと気付いていました」


 今更になって、凄く恥ずかしくなってきた。どうして正義の味方とか言ってしまったのだろうか。小学生でももう少し気の利いた名乗りを上げる事ができただろう。何か死にたくなってきた。


「ごめん、今日はもう帰るわぁ……」


 健吾はふらふらしながら、扉に向かっていく。そして、開いていない扉に頭をぶつけて、動きが止まる。動揺を隠し切れない。


「もう少し、ゆっくりしていった方がいいようですね。それに聞きたい事があります」

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