人それぞれの理由
「人の理由に文句をつけるつもりはねーけど、来る学校間違ってんじゃねーのか? あんたなら女子校が楽園じゃないか」
健吾が女子校と言った瞬間、その表情は一変、険しい顔つきになる。
「それ! それは偏見よ。女子校の女の子を見たことある? 普段、近くに男がいないから恥じらいを知らないのよ! あんなのは女の子の皮を被った何かよ! 私の求める女の子はもっと、こう、花も恥らう乙女なのよ」
熱弁する友里には悪いが、全く分からん。友里の個人的嗜好だろうが、そんな事はどうでもいい。
「ですが、いいのですか? 自分で言うのも何ですけど、この同好会に女性は滅多に入会しないと思いますよ」
健吾も誠の意見に賛成だった。どう考えても、女体研究なんて怪しげな同好会に、女性が好んで入会するとは思えない。
「入会する女生徒がいないのなら、入会させればいいのよ。他の部活に参加している女の子を誘惑して、入会させればコスプレさせ放題じゃない。これ以上の好条件は無いわ!」
女性とは思えない男らしい願望だ。確かに友里の容姿があれば、実現できそうなプランだ。しかも、会員を増やす事に積極的なら健吾にとっても好都合であった。
「でも、あんた中学生の頃は運動部だったんだろ? そっちの方はいいのかよ」
友里は意外そうな顔で健吾を見る。だが、運動をしていたかどうかなど、足を見れば一発で分かる。筋肉で膨らんだ脹脛は、運動部でかなり体を鍛えないと現れないものだ。女性はスカートを履くので男性より分かりやすい。
「ああ、いいのいいの。私、運動するより写真集みてる方が好きだし、前やってた部活に未練なんてありませんわ。私にはもう、続ける理由がありませんもの」
あっけらかんと答える友里に、ある種の潔さを感じて感心してしまう。
「もしよろしければ、どの程度運動が出来たのか、教えて貰えませんか?」
誠も興味を持ったのか、友里に質問をする。健吾も気になっていたので、ちょうどいいと思って耳を傾ける。
「そうですね。確か一〇〇メートル走るのに十二秒かからなかったはずですわ」
中学生でそのタイムは滅茶苦茶速いのでは無いだろうか。心なしか誠も驚いているように見える。陸上で鍛えれば、全国大会に出場できるのではないだろうか。
「す、凄いですね。私は運動がからっきしなので、少し羨ましいです」
確かに誠は女性っぽい外見から、あまり運動が出来そうではない。
「なら、手取り足取り教えてあげましょうか?」
誠にかなり近づいて、囁くように呟く。流石の誠も危険を察知したのか、一歩あとずさっている。確かに誠みたいに女っぽければ、女好きの友里に狙われても不思議ではない。だが、男としてはむしろご褒美だとおもうのだが、誠は女性が苦手なのだろうか。
「い、いえ、遠慮します」
押される誠という珍しい構図が見れて、健吾は少し胸がスッとした。そう思っていると、誠が恨めしげな視線を向けてきたので、急いで視線を逸らす。
「そ、それで、本当に入会してもらっていいのですね?」
「ええ。女に二言はありませんわ」
普通は「男に二言は無い」なんだけど、分かって使っているようなので野暮な突っ込みは控えておく。
これで集めるべき会員は残り三人で決定した。しかも、友里は自主的に会員を連れてくるつもりらしいので、あっさりと会員が増えるかもしれない。これからの会員集めも俄然やりやすくなる。絶対に誠から逃げ出してやる。
そんな考えをしている事を知らず、誠は健吾と友里を見回して、口を開いた。
「では、改めまして、ようこそ! 女体研究同好会へ」
こうして、オレの会員集めが本格的にスタートした。




