最終話 愚痴と賞賛と
とある病院の一室で。
リチャードが眠りについています。
幸い、命に別状はなく、疲労困憊して眠っているだけだろうとのこと。
奏呪を使った代償なのでしょうか?
たしかにあれだけの効果を無償で使えるなどありえないことです。
それくらい、想像してしかるべきでした。
リチャードはそのことを知っていたのでしょうか……。
わたくしはベッドの脇に置いてある椅子にずっと座ったまま、眠るリチャードの顔をそばで見つめ続けていました。
やがて、リチャードが小さい吐息を吐き出しながらゆっくりと目を開き……。
「……エリスさん?」
「……!?」
ぼんやりしたリチャードの第一声が、それでした。
しばし固まるわたくしを見つめていたものの……。
「……なんだ、イリスか」
「なんだとはご挨拶ですわね」
やがて焦点が定まったのか、そばに座るわたくしを前に軽口を叩いたリチャードに、そんな言葉が自然と出てきました。
まだ体を起こせないようですが、声には張りがあります。
ほっとしたわたくしは軽く肩をすくめて、こちらも軽口で応じることにします。
「まったく……いつの間に奏呪を手に入れていたのですか?」
「はは、エリスさんに認めて欲しくてね。少し前、仲間たちと遺跡に潜っていたんだ。そこで偶然見つけてさ」
グリフォンを前にしてへたりこんでいたリチャード。遺跡に対してはトラウマのような記憶が残っているはず。
以前のリチャードなら、それに立ち向かうようなことは出来なかったでしょう。
本当に、変わったのですね。リチャード……。
冒険者になってからの急激な変化に、わたくしが尊敬の気持ちすら覚えてリチャードを見つめていると。
「本当は、エリスさんに一番最初に聴いて欲しかったんだけどな」
感心するわたくしの前で、リチャードはぶつぶつと文句を言っています。今回の結果が気に入らないのでしょう。
……やっぱり、あまり本質は変わっていないのかもしれません……。
先ほどの敬意をあっさり心の中で訂正するわたくしに気づいているのかいないのか、リチャードはがっかりしたような顔のまま続けました。
「西のダンジョンで強敵が現れたと聞いたから、エリスさんもそこにいると思ったんだけど……まさかイリスたちが戦ってるとはね」
「……エリスはきっとどこかで恐ろしいモンスターと戦っていたのですよ」
わたくしのフォローに、リチャードはようやく愚痴をやめて笑顔を浮かべました。
「そうだね。まあ、いつか会って聴いてもらう機会もあるか……そしたら、エリスさんも僕のことを認めてくれるかな? あの時の僕とは違うって」
「……エリスが認めるかどうかは分かりませんが、このイリスが認めてあげましょう」
「イリスじゃなあ……やっぱりエリスさんじゃないと!!」
「なぜですか! このわたくしが認めてあげると言っているのですから、それだけで満足しなさい!!」
わたくしがいつも持ち歩いている仮面。あれをリチャードの目の前でつけたら一体どんな顔をするでしょう?
そんないたずらっぽいことを考えながら、わたくしはこの二人だけの時間を楽しんで過ごすのでした。
当初予定していたぶんは全て書き終わりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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