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神と人が相席するカフェは、神と人が戦う世界にある。  作者: 蒼い諒


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Ep02 トールと濃さが続くアイスコーヒー ②

五十嵐は、ミョルニルを持ち上げようとするトールの前を

フラつきながら歩き、椅子にヒョイと腰かけた


「ワシは何もしとらん…お前、この店は暴力禁止なの知らんのか?」

五十嵐は呆れるように笑いながら

「マスター…ワシもアイスコーヒーを」

「ありがとうございます、少々お待ちください」


「ぬおおおお!」

トールは引き続き持ち上げようとしていた

しかし、力を入れるほど、全身を束縛する力が強まる

「言うたじゃろう、そのトンカチをしまえ」

「ミョルニルだ! 覚えろ!」


ドン!

「お待たせいたしました」

カウンターに重厚な響きが鳴ると

トールの前には、かすかな霧を纏った

特大サイズのアイスコーヒーが置かれていた


「おお!これは!」

感嘆の声をあげると トールの金縛りはフッと解けた

そして先ほどまでの怒りはどこへやら

少年のような笑顔で勢いよくジョッキを掴み口元へ

ほほ、あご、のど、それらが波打つように動き

トールは一気に飲み干した


「…これは、ああ、ああ…」

息を大きく吐き出しながらジョッキを見つめ

言葉とも叫びとも言えぬ声を発する


「どうぞ…」

マスターはトールをニコニコと見つめつつ

通常サイズのアイスコーヒーを五十嵐の前に置いた

「ふむ…」

五十嵐は一口飲むと、口元を緩め肩の力を抜く

言葉は少なかったが、その様子が納得の一杯である事を表していた


「ふう…」

トールは のどの渇きが癒え

改めてアイスコーヒーの美味さに感心するが

ジョッキに残った大量の氷を見て、あやまちに気づいた


「しまった、この氷はコーヒーだ…

一気に飲まず半分だけ残し、溶かしながら飲むべきだったのでは?」


「フフ…冷静な判断が出来ないから、戦いでも老人と互角なのだ」

五十嵐は上品に飲みながら、横目でトールを煽る


「貴様! 氷を!バリバリ噛むのも、オツなものだ!」

トールは残った氷を噛み砕くと

「だいたい…老人は固い氷が噛めないだろう? ハハ!」

お返しにと、見下ろしながら煽り返す


「老人? そういや、神々は若返りのリンゴを奪われて

一度、みんなジジイになったとか…すごい慌てたそうだの、ヒヨッコだな」


「貴様!!」

「なんじゃ、ピヨピヨが!」


「こちら! サービスです!」

マスターは二人の間に割って入ると

トールのジョッキに冷えたアイスコーヒーを継ぎ足した


「お、おう…」

トールは、静かに座りなおすと、継ぎ足される液体を

続けてマスターの横顔を見つめる

(オーディンの言うとおり、こいつ何者なのだ…

あんな一声で、強烈に胸を締め付けられる思いがした)


「それ見ろ…」

五十嵐もすっかりトーンダウンしたが

トールと同じく、マスターに完全に気圧されていた


ただ、五十嵐の場合はマスターが何者なのかは重要ではなかった

すでに何度か来店している彼は、何かしらの必然性を感じ

彼の行動に乗ることにしていた


そして、二人は静かに氷を溶かしながら

アイスコーヒーを楽しんでいたが


「…ワシは、このアイスコーヒーじゃ」

五十嵐が唐突に言う


「…何を言ってるんだ? 貴様」

トールが失笑する


「このコーヒー、時間が経っても薄まることがない

ワシと同じ、老いて見た目が変わっても、中身は変わらぬ」


五十嵐はグラスを少し傾けると、氷の間を液体がうねる

「いや、ちょっと違うか、ワシの場合は 渋く 美味くなる…だな」

言い終わると不敵な笑みをトールに向ける


「フン、そんなもの飲み干してやるわ…それに、見た目が変わる?

神々は違う、時が過ぎても見た目は変わらず、中身は濃く美味くなる」


「なんじゃ、面白くない、そんなアイスコーヒー、飲みたくないわ」


「…そうだ、マスターは、どう思う?」

不意に、トールはマスターが どのような人物か探りを入れたくなった


「そうですね、うーん…

人によって美味しいアイスコーヒーって違いますよね」


「でた! 人それぞれって奴じゃな!」

五十嵐が、のけ反る


「いえいえ、大事なのは

それぞれの好むアイスコーヒーを飲む者を理解し 愛する 事です」


その言葉にトールと五十嵐がお互いを見つめ会った

そして

少しずつ

ニヤニヤと笑いだす


「…もしや貴様」

「…ああ、同じ事を考えたな」


「アイスだけに…」

「愛す…る…くそっ、やはり、同じか」


カウンターを叩き、マスターを指さし

トールと五十嵐は顔が崩れるほど笑った


「ええっと…おもしろかったですか?」

マスターは二人を交互に見ながら軽く引きつった


「ワッハハハ!…くだらん、実にくだらん、さあ、続きをするぞ!」

トールはジョッキに残ったアイスコーヒーを一気に飲み立ち上がる


「そうじゃな!望むところよ!!」

五十嵐は叩きつけるようにカウンターにお金を置いた


二人はお互いを睨みあい

ぎゅうぎゅうに詰まりながらドアを開け出ていった


「違った…かな」

軽くうなだれるマスターがテーブルに置かれたお金を見ると

それは、きっちり二人分であった


「これも、ひとつのかたち…だと良いのですが」

マスターはジョッキとグラスを

カチン、と合わせた


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