13_何コイツ? 昔のオトコ?
「……アンタいい加減にしてよ!!」
激しい声を放つ、光海さん。この声は僕に向かってではなく……。
* * *
「美味しいっしょ? この店の水出し炭火コーヒーは」
なんだか、ニッコニコでアイスコーヒーをストローで飲みながら、そう言う光海さん。うん、確かにおいしいな。僕も飲んでみてそう思った。
「光海さんって。スコーン好きですよね? たしか、僕が週一で奢るトリーズコーヒーでのブラッドオレンジジュースを飲むときも。いつも自分で買って齧っていましたし」
とにかく、喫茶店に来るとスコーンを注文して飲み物のあてにする事が多い光海さんに、僕はそう聞いてみた。
「そーねー。胚芽クッキーとかも好きなんだけど。何かやっぱり、ドリンクに合わせるにはスコーンが好きなのよね」
「まあ、美味しいのはわかりますけど。僕はチーズケーキ風味にアレンジされたスコーンなら大好物ですよ」
「あらま。あんた、チーズ系好きなんだ?」
「はい。昔からチーズは好きで。母さんが言うには、アンパンチマンをテレビで見ながら、ベビーチーズを食べている時が一番ご機嫌な子供だったらしいです」
うん、楽しい。光海さんといるときはいつだって楽しい。
でも、ドキドキとかはしないんだよな、これが。
ドキドキという点では、やっぱり彼女の水樹といるときの方が遥かにドキドキする。アレは、僕自身が完全に心身で判断しているんだろうな。
『水樹は恋人、光海さんは先輩』という感じにね。
そんな事を思って、楽しい時間を過ごしていると……。
「あれ……? お前光海か⁈」
ん? ささくれだった男の声が、光海さんの名前を叫んだ⁈
「……! あんた、耕司⁈ まだここら辺でうろついていたの⁈」
その声がした方に振りむいて。絶句するような声で。刺すような言葉を放つ光海さん。
「光海!! 頼む!! 金貸してくれ!! 期日までに500万!! 払わないと俺、奴隷として海外に売られちまうんだ!!」
がっさがさの荒れた声で、そんなヤバい事を叫ぶ男。黒コートを着ているそいつの顔を見てみれば、やつれて骨ばっている。
「あんた……! ……アンタいい加減にしてよ!!」
光海さんはそういうと、お冷の水をその男にびしゃっとかけた!!
「……っ!! てめっ! 殺すぞ! このクソ女っ!!」
はい。コイツやべー。いきなり出て来て、光海さんにスゴイ金額の金を貸せと言って。それに対して光海さんが腹を立てて水を掛けたら。
光海さんの右手首を握って、捻り上げようとしている!
「おい。調子こくんじゃねーぞ? オッサンよぉ?」
僕は、威嚇行動として。テーブルの上を拳で殴って、大きな音を出した。
さてと。やりますかね。
「え? 正時? だめ、やめて!! コイツには、ロクでもない仲間がいるから! 500万くらいは私払ってもいいから!! アンタはこんな奴らに関わっちゃだめ!」
そんな風に叫ぶ光海さんだけど。
「店員さん。一応言ってみますけど。この失礼な客、追い出してもらえません?」
僕は。騒ぎによって店内の目が集まって。店員さんもこちらに来たので、そう頼んでみる。
「あ、い、いえ。いま、警察に通報しました! もう少し待ってください、店員にも怪我人は出したくないので……」
どうやら、チーフか店長っぽい人が。
そう言っている。
「チーフさん」
「副店長です、私は」
「僕の連れが、腕を捻りあげられているんですよ? 僕は、あのオッサンをボコボコにしてやりたい」
「申し訳ありません、お客様! 5分もあれば、警官が来るので! なにとぞ、穏便にお願い致します!」
そんな風に。僕が怒りを抑えもせずに云うと。副店長だという店員が、僕に頭を下げて。
「店内で暴力沙汰は、非常に拙いのです! 後ほどお詫びは致しますから、どうか穏便にお願いします!!」
「……」
僕は不満だったけど。
暴力行為を行いたいわけじゃないし、警官も来るというので。
「おい、オッサン。光海さんの手を放して、さっさとどっか行けよ? それとも警官に捕まりてぇのか?」
僕は、ホントに頭に来ていて。
『兄貴に仕込まれた喧嘩技』でも使ってやろうとか思ってたけど。
「あ、来ました、パトカーが来ました!!」
という副店長さんの声に、取り敢えず拳を収めた。
* * *
「光海さん、大丈夫?」
警官があの男を連れて行ったあとで。
顔を真っ青にしている、光海さんの様子を見て。
僕が声をかけると、光海さんは弱弱しく笑った。
「バカみたいでしょ? あれ、私が中学生だったころの彼氏なんだ……。別れてから、もう二年になるけど。あいつが狙ってたのは、私の利殖の才能。それだけだったってわかっちゃったから……」
僕に。僕の胸に抱き着いてきて、なんか泣き始める光海さん。
「正時は、蔵山さんの彼氏だけどさ。ゴメン、胸貸して。今は泣かないと、辛すぎるんだ……」
光海さんは、あの男と付き合っていた事が。辛い思い出でもあったかのように、僕の胸に顔グリグリやってしばらく泣き続けていた。




