12_デートじゃないよショッピング
〔あ、正時? やっと起きたんね〕
電話の向こうの光海さんの声が聞こえる
「おはようございます、光海さん」
〔うん、おはよ。突然だけどさ、私鉄都宮駅まで出てこれる?〕
ぬ~む。都宮駅ってのは、ここらの地域で一番栄えていて、特急列車も停車する大きな駅である。駅前は僕らの住む地方都市の中でも、一番と言っていいほどの栄え方をしている、商業施設が密集している場所だ。
「……定期券が利く方向とは反対ですけど……。都宮で何するんですか?」
〔ん。ショッピングしようと思って。ハイネックノースリーブと、ワイドパンツ欲しいのよね〕
「僕は、それに付き合えばいいんですか?」
〔そそそ。そゆことなんだけどさ。蔵山さんは、今日どうしてるの?〕
「水樹は部活動です。弓道部の」
〔それ、何時まで?〕
「そこまでは聞いていないですけど」
〔じゃあ、取り敢えず。早めに済ましちゃいたいから、10時に都宮駅の南改札で待ち合わせ。ユー・アンダスタン?〕
「はいはい、理解しましたけど。そうですね……。うん、まあすぐに出ますよ」
〔たすかるわ~、正時。女の子ってさ、一人の買い物を楽しめるときもあるけど、妙にわびしい気持ちになる事もあるのよ〕
「……ややこしいですよね、女の子心理って。まあいいや、ちょっと待っていてください。確か、9:23分の電車があったはずなんで。それに乗っていきます」
〔うん、まってるよ~♪〕
とまあ、そこまで話したら。こっちからかけた通話が、向こうの操作で切れた。
* * *
「ふぁ~。寝みい」
家から徒歩5分くらいの、僕の住んでいる市内居住地区の最寄り駅。
金原町駅までの道のりを歩きながら、欠伸を噛み殺す僕。
昨日の夜は、配信サイトで。僕らが幼児だったころの懐かし児童向けアニメの主題歌のハードメタルアレンジノンストップミックスの編集をした動画を見つけてしまって。聴いていたら見事に日付変更を越える時間になっちゃってたんだよなぁ。
「児童アニメってな……。だいたい、悪役が光ってるよなぁ。ガイキンマンとかさ」
昔熱中していた、児童アニメを思いだして。悪役に制裁を加える正義の味方に『もっとやれー!!』とか思ってた僕はまだまだ子供だったんだなぁと。
高校一年生の理解力持った状態でそれを思い出すと。
「正義って、アレだしね。悪がいないと出番がなくて、ただのホームレスになっちゃうんじゃないか?」
とか言う所まで考えたり、口の中で外に漏れないような声で呟いてみた。
* * *
「正時~!! こっちこっち!!」
都宮駅で電車を降りて、南改札から駅前広場に出ると。
スカイブルーの染料で仕上げたみたいな、鮮やかな色の半袖ワイシャツとシルバーネクタイを合わせ。
ブラックジーンズのパンツを穿いた軽装の光海さんが駆け寄ってきた。
「あ、おはようございます。光海さん」
「うん、おはよ。正時。突然呼び出してゴメンねー」
「別にいいですよ。水樹が動けないときは、どうせ僕は。家で動画見てるか課題を片つけているか。その程度の事しかしてませんから。まあ、夕方からは『ウィル・ベルジュ』でのアルバイトがあるんですけど」
「あはは! 如何にも怠惰な男子高校生のパターンねー。まあそれが普通よね、普通。でも、体力余ってうずうずしたりしないの?」
「アルバイトしてますから、そこそこには体力使うし。そこまでは体力を持て余してはいないです」
「ふーん……。基礎体力はありそうだけどね、あんた。お肌の艶とか。動きの機敏さとか。精気みたいな物って、そういう所に出て来るもんだし」
「また分析してるんですか? 光海さん」
「うん。考えるの好きなのよ、いろいろと」
「うーん……。なんていうか、『知性病』みたいなもんですかね?」
「病気っていうかさ。脳活動する時に出る脳内麻薬で気持ちよくなることはあるわね。言ってしまうと『論理性ジャンキー』の気はあるかもしれないわ、私は」
「うむ~……」
「まあいいや。ブツブツ言い続けるより、おいしいコーヒー飲みに行きましょうよ。今日は正時に付き合ってもらうのは、私の都合でだから。かかるお金は全部任せといて!!」
そう言って、右腕でストロングポーズを決める光海さんであった。




