29.とある騎士の鬱屈
「気に入らねー」
「ウェストン、口を慎め。相手は領主様の客人だ」
口をへの字に曲げると、やたら顔の良い相棒に注意される。
視線の先に、ネオという冒険者がいるのに気付いていた。
高身長に、しっかりついた筋肉。
馬油でまとめられた短い黒髪が、さらさらなのを知っている。
相棒が持つ、切れ長の目に収まる青い瞳に、トアイードの淑女はこぞって魅了されていた。
「オマエは自分の身が心配じゃネェの?」
「どこに心配する要素がある?」
「だって見目の良いヤツばっかじゃん。『青き閃光』だって?」
特級クラスの冒険者は、容姿端麗じゃないとなれないのだろうか。
リヒュテというタンカーだけは、壁のようなガタイで毛色が違うものの、顔は整っていた。あれはあれで、絶対モテる。
相棒――イール――に、寝室に呼ばれたらどうする? と訊ねると、凍てつくような視線で睨まれた。
「あり得ない」
「男が趣味のヤツだっているだろ。王都でも、そんな裁判があったって」
「領主様を、そんな下劣な者と一緒にするな」
「よく知らないクセに」
お前もだろう、とすねを蹴られる。
確かに、よく知らない。
父親の公爵が派手過ぎて、最初は侍従だと信じて疑わなかった。
子爵領、領主ユージン・ケラブノス、改め、ユージン・エウフライノー。
茶髪にそばかす糸目の容姿は、親近感があった。
(どっちかといえば、オレよりじゃネ?)
ウェストンは、くすんだオレンジ色の髪に、目付きが悪いと評判の三白眼を持つ。
極め付けのギザ歯は、夜を共にする女性からすこぶる評判が悪かった。
「やっぱないもんに惹かれるのかネェ?」
「いい加減にしないと首が飛ぶぞ」
世間話ぐらい何だよ、と言いかけるが、領主を揶揄するのは実際よろしくない。
とはいえ。
「冒険者は嫌いだ」
冒険者ギルドという組織も嘘くさい。
領主をはじめ、領民たちは騎士が守るという意識が強いケラブノス公爵領において、冒険者は無用の長物だった。
特に子爵領は、魔物が多い土地柄なのもあって、農民も屈強だった。
魔物対策は騎士団が担っているが、人が足りないときは助力を請うぐらいだ。
市周壁に囲まれたトアイードの町は、たまに商人や技術者だけを守り、農民を大事にしていないと勘違いされるが、むしろ逆だ。
農民が暮らす平野部は魔物が少なく、広大な森に近い町のほうが危険度が高かった。
町の堅牢な石壁は、平野部を守る防波堤でもあるのだ。
たしなめるようにイールが口を開く。
「『青き閃光』の訪問理由は、冒険者ギルドのない土地は珍しく、どうやって魔物対策をしているのか学びに来たという話だろう?」
「本当かヨ。アイツらは、いつも面倒ごとを持ち込むじゃネェか」
トアイードの森には、一角獣がいる。
伝説級の魔物と呼ばれる所以は、出現率の低さにあった。
出会っても、触れるなと伝えられている。下手をすれば町が滅ぶと。
子爵領の紋章にもなっているものの、実際に見たという証言は、ウェストンたちが生まれるずっとずっと昔の記録に記されているだけだった。
正直、眉唾ものである。
けれど、どこで聞き付けたのか、一角獣を狙う密猟者――冒険者――が後を絶たない。
曰く、一角獣の角に不老の力があるとか。
一、二年に一度は、問題を起こしてくれるため、他の土地より冒険者に対するヘイトが高かった。
(領主様はどういうつもりなんだ)
父親がいなくなった途端、特級クラスの冒険者を呼んだ。
単に綺麗な顔が好きなのか。
それなら、まだいい。
ただ騎士が蔑ろにされるのは嫌だった。
(オレたちにも誇りがある)
自分たちの手で、領民を守ってきた自負がある。
双子の家令は、そのあたりをよくわかってくれていた。
(王都でぬくぬく暮らしていればいいのに)
今までどおり。
計上された収益は、ユージンのものだ。
双子の働きのおかげで、子爵領は問題なく回っている。
ユージンが顔を出す必要はない。
(何を考えてんだかナァ)
夜会で領主より存在感のあるサーフェスが、ユージンと並んでいるのを見たウェストンは、これまで以上に口をへの字に曲げた。




