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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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見舞い




貰った休みの最終日、この日もオレリアはベッドの上にいた。

体がだるかったので、食べ物は程々にしか食べられず、水だけ少し飲んであとは毛布を被りっぱなしだった。




(もう一回、寝よう……)


昼過ぎになってもベッドに横たわっていたオレリアは、ごろんと寝返りをうった。


ロナウトには仕事を辞めようと考えていることを伝えたが、せめて次の調理係が見つかるまで働くことは出来ないだろうかと考えているオレリアは、明日からどうにか働けるように少しでも休んでおこうと思って目を閉じた。


痣が少しだけ痛み始めたが、オレリアは心を静めることに徹した。

意識を手放せば痛みも感じなくなるから、早く寝てしまいたい。


そしてあわよくばいい夢でも見たい。

笑ってくれるルイスや、手を引いてくれる優しいルイスや、ロナウトさんの美味しい食事、それから友達のアレスと色々なことを話したこと、それから煌びやかなパーティとダンス、ドレスにアクセサリー、お菓子なんかが夢出てきてくれたら最高だ。


そんなことを考えながら、オレリアはスースーと寝息を立て始めた。


だからオレリアはもう夢の中にいて、扉がノックされたのも気が付いていなかった。





「オレリアさん。今日も来てしまいました。 ……寝ていますか?」


少し早めの休憩を貰ったルイスは、今日もオレリアの見舞いに来ていた。


「この時間でも寝ているのですか……。医者が言うには大したことはないと言っていたとロナウトさんは言っていましたが……」


ルイスは不安げにオレリアの部屋の扉を見上げるが、だがやはり返事がないので踵を返して帰ろうとしていた。


「……ルイスさん……」


微かに呼ぶ声が聞こえた気がした。

ルイスはハッと振り向く。

小さな声だったし、先ほどオレリアの返事はなかったから、寝言なのかもしれない。


だが寝言でも名前を呼ばれたルイスは、思い切ってオレリアの部屋の扉の取っ手に手を掛けた。










「……ん」


オレリアが薄く目を開けると、辺りはすっかり窓から差す夕焼けの色に染まっていた。

パチパチと瞬きをする。


もぞっと寝返りをうとうとすると、手が何かに引っかかって動けなかった。

オレリアの手を掴んでいるものがある。


目をこすりながらそれが何か確認すると、大きな手だった。


オレリアの片手が、大きな二つの手に守られるように握られている。



「る、ルイスさん!!こ、こんなところで、寝、寝てる?!」


自分の手を拘束しているものの正体を見て、オレリアは声を上げていた。

オレリアの小さなベッド脇にはルイスがオレリアの手をぎゅっと握ったまま伏すように寝ていた。

寝ていて意識がなかったと言っても、横たわっていたオレリアと伏せているルイスの距離はかなり近くて、オレリアは無駄に焦ってしまった。


「あ、えっと、起きてください!こんなところで寝たら、風邪を引いてしまいます……!」


おそるおそるルイスの肩を揺らして、起こそうと試みる。


何度か強めに揺らしたところで、ルイスが眠そうな顔を上げた。


そして、目の前にいるオレリアに焦点を合わせる。



「……オレリアさん。よかった、起きたのですね。 ……っ、それより私、ここで寝ていましたか?」


オレリアが控えめに頷くと、状況を把握したルイスは慌てて姿勢を正して頭を下げた。


「すみません。ここ最近、余り寝られていなかったことが原因だと思うのですが、今日オレリアさんの寝顔を見たらいつの間にか寝てしまっていて……。 でもオレリアさんからしたら、起きたらいきなり傍で寝ている人間がいて、驚かせてしまいましたよね」


「……えっと、ちょっと、驚きました……」


「勝手に部屋にまで入って申し訳ありません。あの、ただ少し無事な顔を確認したいと思ってしまっただけで」


ルイスはぎゅっとオレリアの手を握り締めた。


「ずっと、オレリアさんの体調を心配していました」


「それは……」


体調には言えないような秘密があるし、少しだけルイスを避けるように眠っていた節もあるので、有難いような後ろめたいような複雑な気分になったオレリアは言葉を濁して俯いた。


しかしルイスはそれについては深く言及することはせず、優しくオレリアの頭を撫でた。



「オレリアさん、体調は大丈夫そうですか?」


「あ、え、ええ。はい」


「そうですか、良かった。本当に」


オレリアの体調は良くはないのだが誤魔化すように頷けば、ルイスは心から安心したように穏やかに微笑んでくれた。


ルイスがとても優しくて、オレリアは胸が痛くなった。



「オレリアさん、きちんと食べていますか?何か食べたいものがあれば言ってください」


「い、いえ、特に何も……」


「ではお水はいかがですか。喉は乾いていませんか」


「そ、それも大丈夫です……」


「オレリアさん、遠慮しないでください。オレリアさんが早く元気になってくれるのが一番ですから」


ルイスはいつにも増してオレリアを心配してくれて、片手でオレリアの手を握ったままもう片方の手で器用に毛布を整えてくれた。



「あ、ありがとうございますルイスさん。でも、大丈夫です。あの、私のことは放っておいてください。 ……そうだ、ルイスさん、今日もお仕事があるのではないですか」


「今日はもう休みにしてもらいました」


「え……」


「もしオレリアさんが嫌でなければ、今日はこのままここにいます。オレリアさんがまた寝付くまで」


「え?!そ、そんなの、してもらう訳には!だから、る、ルイスさんは帰ってください!」


オレリアはそんな迷惑をかけるわけにはいかないと首を振って、提案を強く拒否した。


一方で、オレリアにしては強い拒否の言葉を聞いたルイスは、少しだけ悲しそうに眉を下げた。



「オレリアさんが帰れと言うのなら帰るしかありません。 でも、私は謹慎の期間も含めて一か月程ずっと貴方に会えませんでした。その期間、ずっと貴方に会いたいと思っていました。オレリアさんは……違いますか?」


「そ、それは……」


「実はあの剣術大会の日、賭博部屋で貴方が私のことを好きだと言ってくれたのを、その、色々あって聞いてしまいました。盗み聞きをしたことは本当に申し訳なく思っています。でも、私も貴方が好きです。私の勝手な思い込みでなければ、どうか拒まないでください」


オレリアはルイスの手をぎゅっと握り返して大きく頷いてしまいそうになるのをぐっと堪えて、一拍置いて考えた。


オレリアはこれから死ぬのに、自分も好きだと伝えたら、ルイスはこれからずっとその言葉に縛られるのではないだろうか。


オレリアが黙っていると、ルイスが再び静かに口を開いた。


「私の気持ちと同じ大きさでなくとも構いません。本当に、ただ傍にいてくれるだけで」


大切な宝物に触るように優しく頬を撫でられて、オレリアは泣きそうになった。

だけど、辛うじて首を横に振った。

ただ傍にいることが出来ないから、首を振るしかなかったのだ。



「私ではどうしてもいけませんか」


「……」


間違いだと言ってくれと祈るように、ルイスは静かに問うてくる。

しかしオレリアは、やっぱりハイともイイエとも言えなかった。


「他に好きな人が……いるのですか?」


「……」


「私はオレリアさんを幸せにしたいです」


「……」


「誰よりも大切にします」


「……」



黙ったままのオレリアをみて、ルイスはとうとうフッと長いまつ毛の影を落として目を伏せた。


「……しつこい男は嫌われますよね。 しかしながら、もしオレリアさんが私ではいけないと言っても他に好きな人がいると言っても、私はもう今更オレリアさんをどう諦めたらいいのか分かりませんけれど……」


自分に呆れたように小さく笑ったルイスの悲しそうな顔を見て、オレリアはとうとう本音を漏らしていた。



「……っ、そんなことは全然、ないんです。ルイスさんが好きだって言ったのは、ほんとのほんとに本心で、間違いありません。でも私は、ルイスさんとは一緒にいられないんです……」








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