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魔法もないし魔物もいないけど日本じゃない異世界の物語

 昔、むかーしの事じゃった。


 山奥の村に太郎と言う10歳の子供がいた。太郎は釣りが得意で、近くの川でイワナを釣って来ては、家や近所に配って大人たちから感謝されていた。


 山奥のこの村では貴重な蛋白源であり、なおかつ食べてもうまいイワナは大変ありがたがられた。それでイワナ釣りの名人である太郎は家での仕事を免除されていた。


 家での仕事を免除されているということは、イワナ釣りに結果を求められているということでもある。その日も調子が悪くて朝から一匹も釣れていなかった。太郎は焦っていた。


「昨日も坊主(釣果ゼロ)だったし、今日も坊主だったら、釣りを止めさせられて家の野良仕事をやらされるべ。おら、野良仕事は好かん。なんとしてでも釣らんと。」


 しかし、その日は日が悪いのか、餌を変えようとポイントを変えようと一向に釣れなかった。


「うー。釣れん。どうしよう。あきらめて帰るべか。」


 その時だった。太郎の釣っている川に流れ込んでいる沢で大きなイワナが跳ねた。その沢は河童が出るから絶対に近づくなと大人たちからきつく言われていた沢で、子供たちは入った事がなかった。もちろん太郎もそこに入って釣りをしたことがなかった。


「河童の沢は誰も釣っていないから、魚がすれてなくて入れ食いじゃないのか?

 河童なんて迷信だべ。良いポイントを大人たちは隠しているんだべ。」


 進入禁止の縄をくぐって太郎は河童の沢に入り込んだ。イワナは面白いように釣れた。


「やっぱり、思った通りだべ、秘密のポイントをおら達子供に隠しているんだべ。」


 夢中で釣り進んで行くと大きな滝に行きついた。その滝が流れ込む滝壺は大変大きく、なるほど河童の一匹や二匹はいそうな感じだった。河童はともかく、イワナはたくさんいた。


「イワナの宝庫を発見したべ。さっそく釣ってみるべし。」


 太郎が釣ろうと竿を構えると。


「ダメ。ここで釣っちゃダメ。」


 不意に後ろから声をかけられた。


「ひっ!かっ河童?」


 そこには見たこともない恰好をした女の子がいた。年のころは太郎と同じくらいか。

 でも髪型は太郎たちみたいに後ろで縛ってなくて、おかっぱ頭で、服は見たこともない模様の着物だった。


「ここはわたしたち山の民の領域なの。縄が張ってあったでしょ?その持っている魚はあげるから、狩に出ている大人たちが帰ってくる前に帰った方が良いわ。無断侵入は子供と言えど罰せられるわ。」


「う、うん。」


 太郎は罰せられると聞いて、その子の言うことを素直に聞いて釣りを止めた。そして登ってきた沢を逃げるように下った。しばらく歩いているとさっきの子がついてきてるのに気づいた。


「何だよう。もう釣りは止めたべ。まだなんか文句あるんか?」


「ううん。文句じゃないの。あんたが大人に見つかった時に助けてあげようと思って。結界の所まで送ってあげる。」


「そりゃ、ありがとうよ。」


「礼には及ばないわ。まだ、何にもしていないし。それよりもあんた。釣りがうまいわね。その魚籠に入ってるお魚を三匹ほど分けてくれない?これをあげるから。」


 その少女は籠に入ったマツタケや栗を差し出した。


「ああ、良いぜ。」


「良かった。わたし釣りが下手で、今日も釣れなかったらお母さんに怒られるところだったわ。」


「あんなにいっぱい泳いでる魚を釣れないなんて、どんだけ下手なんだべ。」


「もう。女の子なんだからしかたないでしょ。わたしの得意なのは縄を結ったり、籠を編んだりすることなんだから。」


「おらと反対だな。おらは釣りが得意だから、そんなややこしい仕事を免除してもらってる。」


「ふーん。そんなに釣りが得意だったら、またお魚ときのこと交換してよ。わたしの家の周りにはマツタケとかいっぱい生えてるから。」


 マツタケはこの時代でも珍しくておいしいきのこだった。


「え!良いのか?マツタケって貴重じゃないのか?」


「まあ、たしかになかなか生えてないけど、わたしはきのこ採り名人だからね。そのかわり釣りは下手だけど(笑)。」


「よし。交渉成立だべ。おら、いつも川で釣りしてるから、川にきのこ持ってきてくれ。川で交換しよ。」


「だめよ。そっちの川になんか行ったら今度はわたしがそっちの大人に捕まるわ。あんたも河童の話を聞いたことあるでしょ?」


「え?河童ってお前らの事なんか?」


「そうよ。酷い話しよね。こんなかわいい少女をつかまえて河童や、妖怪だなんて。」


「うん。河童には見えん。」


 太郎はちょっと顔を赤くして答えた。


「わかった。沢の縄を張ってるところで交換しよ。そこなら、大丈夫でしょ?そうね。お昼ごろに来て。ただし、絶対に一人でね。わたしだって捕まるの嫌だもん。」


「おし、わかった。おら、太郎と言うんだ。おめえは?」


「わたしはサユリ。よろしくね。」


 結界の縄まで来たところで二人は別れた。


「サユリちゃんか。うん。かわいいよな。」


 太郎はウキウキ顔で家路へと着いた。


 家では多くのイワナとマツタケをはじめとする多くの山の幸で家族に喜ばれ、その日はごちそうだった。





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