第二話 大漁
翌朝早くから太郎ははりきって川に行った。今日の川は昨日の雨で少し濁っていた。
少しの濁りはイワナの警戒心を弱めてくれるので、今日は絶好の釣り日和であった。
おかげで昨日までとうってかわって今日は良く釣れた。午前中で魚籠がいっぱいになった。ざっと数えても30匹は釣った。
「やったべ。今日は大漁だべ。」
お昼には少し早いと思ったが、太郎は河童沢の縄を張ってあるところに来た。サユリはまだ来ていなかった。
「まだ来てねな。飯でも食って待つとするか。」
太郎は川原で流木を集めると火を起こした。焚火の周りに今釣ったばかりのイワナを串に刺して並べた。
調味料は家から持ってきた味噌を塗った。
イワナが焼けてくると香ばしい匂いが辺りに漂った。
「こんにちは!うわー!良い匂い。」
匂いに誘われるようにしてサユリが来た。
「食うか?」
太郎は串を一本抜いてサユリに差し出した。
「え?良いの?」
「ああ。今日はいっぱい釣れたから。」
「いただきまーす。」
サユリは串にかぶりついた。
「あつっ。うんまーい。」
「うまいだろう。これも食うか?」
太郎は握り飯を差し出した。
「うん。ありがとう。」
握り飯を受け取るとサユリは太郎の横に座って食った。
「わたし、お昼まだだったからちょうどよかった。このお魚に塗ってあるのが良い味出してるねぇ。」
「わかるか。おらんちで作ってる味噌に柚子を絞って入れて作ったおら特製の調味料だ。」
「柚子って何?」
「おらんちになってる酸っぱいけどいい香りのする果物だ。」
「うん。いい香り。おいしい。」
柚子と味噌が川魚の臭みを消して、旨味を強めていた。塩焼の魚しか食べた事がなかったサユリにとっては本当にうまいごちそうであった。
「わたしの採ってきたマツタケや栗も焼こうよ。今日はわたしも大漁だったの。」
「いいのか?マツタケなんて高級品。おらめったに食えねえ。昨日はおめえにもらったマツタケでおらんちは大騒ぎになったんだぞ。」
「うん。今日は特別ね。一人一本ずつね。その味噌塗ってね。」
「うん。わかった。」
太郎はサユリからマツタケを二本もらうと、串に刺して焚火の周りに並べた。味噌はほんの少しだけ塗った。マツタケのいい香りが味噌の香りで邪魔されるのを防ぐためであった。イワナと違いマツタケはすぐに焼けた。焼けた串をサユリに渡すと太郎は自分も食べた。
「うめえー。マツタケ最高。」
今度は太郎が感動して大声を出した。
「うん。ほんの少しの味噌がマツタケの香りを邪魔せずに味を引き立ててるよね。」
「わかるか。魚と違ってマツタケは匂いを消してはならねえから、少しだけ塗ったんだ。」
二人はグルメリポーターみたいにいっちょ前の事を言い合っていた。
イワナとマツタケと握り飯の豪華な昼飯が終わると、二人はイワナ六匹とマツタケ二本と交換した。
「今日はいっぱいもらったから燻製にしようっと。」
「燻製って何だ?」
「肉とか魚を煙でいぶすの。そしたら、味が良くなって腐らなくなるしで一石二鳥よ。今は冬に備えてなんでも燻製にしてるの。」
「おらんちでも囲炉裏の上でなんでも干してるけどそんな感じか?」
「うん。そんな感じね。」
二人は自分たちの暮らしぶりについて話し合った。太郎は山の民の暮らしぶりに興味を持った。そして何より、目の前のかわいい少女に興味を持った。
「明日もイワナとマツタケを交換してくれるか?」
「うん。いいよ。また、ここでお昼に会いましょう。じゃあ、また明日。バイバイ。」
「バイバイ。」
サユリは河童沢から家に帰っていった。
太郎はサユリが見えなくなるまで手を振っていた。




