男のロマン通り107
――紋章職人の朝は早い
彼は朝から体を動かし、体にたまった古い空気を新しい空気に入れ替える。
マナは潤沢に体へ蓄積され、脳はフル稼働できる準備が完了する。
朝の食事は、しっかりとるのである。
今日は、目玉焼きにパン、野菜ベースのコンソメスープ。
パンは塩で食べるという。
意識高い系な朝食が済んだところで、彼はおもむろに球体の鉄を取り出す。
何に使うか分からないが、彼はその鉄球をすごすごと眺めてから、肌触りを確かめるように、撫でるように触る。
彼は、首を少し縦に振り納得する。
そして、目を瞑る。
彼の指先が発光し、その鉄球に紋章が少しづつ現れる。
彼に聞いたところによれば、紋章の模様は千差万別である。
その紋章に、どのようにマナの道を作るのかが重要であり、その模様が重要ではないとの事。
だから、ドラゴンの紋章だろうが、リスの紋章だろうが、それで【フレイムブレス】を再現する事は可能である。
しかし、基本的には人の認識は、その技の特性を模様とした方が、納得しやすく、紋章の模様には意味のあるケースが多い。
彼が今回作った紋章は、人の様な形をしているが、やけに不鮮明にもみえる。
彼に、その意味を聞いてみた。
「これかい?これはね、人の儚さを表現したアートかな?」
アートとは何ですか?
「アートか……俺そのもの。かな?」
イラ。
彼は、黒の背景の中、紅茶のカップを片手にそう答えた。
彼の言葉には、強い自信が感じられる。
それほど、彼はこの道を究めんがために、日々鍛錬を重ねているのだろう。
完成したその鉄球を眺めて、彼はこう締めくくった。
「力がほしいか?力がほしいならくれてやる。商業エリア、男のロマン通り107。男子生徒の諸君、そこで待つ」
――男のロマン通り107
男のロマン通りは、欲望のたまった男子学生がそれを解放するためのお店が並んでいる通りである。通称だけどね。
夜には居酒屋やムフフなお店が、日付が変わるまで魔導灯を煌々と輝かせ続ける。
そんな店が軒を連ねる通りを少し外れたところに、その店はある。
男のロマン通り107。
しかし男のロマン通りには、106までしか住所表示は無いのだ。
~マッドクロッカー~
路地裏にあるその店は、重い木製の扉を開けて入る。
入ると、バーの様なカウンターがあり、薄い灯りが照らされている。
奥には、フードを被った店主がまずは、二つしかない飲み物を選ばせる。
無味の炭酸水。
スパークリングワイン。
たったこれだけ。
それらは、五百クランで飲むことができる。
それから、店主は、改めてメニューを持ってくる。
そこには酒の肴が書いてあるわけでは無く。
その人々が求めているあるものが記載されている。
匿名のある男子学生は語る。
「う~ん猛烈!しゅごしゅぎ~」(研究室二年目・男性)
そしてある学生はとうとう語るのだ。
「ここの商品は素敵だよ。この前それで彼女ができました」(高等課三年・男性)
またある学生は、ポツリとつぶやく。
「僕、女の子の気持ちが分かるようになりたくてここに来たら、男の娘になれました」(研究室1年目・男の娘)
そう、ここはアイテムショップ。
しかし、ただのアイテムでは無い。
魔導具それを販売している。
けっして安いものではないのだ。
数万クランは最低でもかかる。
ここの店の噂は、すでに伝説となり、学園中を駆け巡っている。
しかし、一日にその店に入れる人は、限られている。
条件を満たさなければ、その店は現れない。
幻の店。
その条件について、魔導掲示板で、多くの学生が考察をしているが、未だに正解へたどり着いた者はいない。
そして今日も男のロマン通り107に、光がともる。
その重い扉を開けると、呼び鈴がなる。
奥からフードを被った店主が現れ、低い男の声で第一声を放つ。
「いらっしゃいませ。こちらへお掛けください。喉が渇いたでしょう?」




