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祝われました。

 ハロウィンも終わり、もう冬になりつつある。なんで秋ってあんなに終わるのがはやいんでしょうね。春もそうですけど、心地よい気候の季節はあっという間に過ぎ去りますね。ただ、この生徒会室は今が割と適温ですけれど。夏が暑過ぎたんですよ……若いから耐えられたけど、前世の体だったらすぐに熱中症にかかっててもおかしくない。今の体は健康体ですよね……。実に良い事です。

 丁度良い室内の温度に、なんだか眠気が襲ってくる。手で口を押さえてあくびをしてしまった。横でペンを走らせていた会長が手をとめて顔をあげた。


「珍しいな」

「ああ、すみません。おみぐるしい所をみせてしまって」


「いや、大丈夫だ。疲れているのか?なんだったら横になってもいいが……」

「お気遣い有難うございます、心地よくてつい……ですが大丈夫ですよ」


 そうやんわり断って作業を再開する。



 ガタタッという大きな音でハッと顔を上げる。周りを見ると、晴翔と会長が立ち上がって睨み合っていた。まるでいまからカバディカバディとでも唱えそうな構えである。あれ、カバディってこっちの世界に競技あったかな……。ってそれは置いといて、私はどうやら寝てしまっていたようです。資料の作業途中に寝たんだろう、中盤から机にかけてシャーペンの線が走ってしまっている。幸いにもボールペンでなかった事が救いか。

 口元に手を当てて、よだれが出てないかチェック。うん、でてませんね。良かった……最悪の事態は免れたようです。

 資料から晴翔と会長の方へと再び視線を向けると、今度は手を組んで力比べをしている模様。なんの競技でしょうね。シャーペンの上の部分を押して、トンと芯を引っ込める。そして咳払いをした。


「こほん、すみません。寝てしまっていたようで……状況が掴めないですけど、今何をしているのです?」


 私の声でハッとした2人が慌てて離れる。


「いや、これはなんというか」

「会長がいやらしい視線を向けてたから……」


「いや、それはお前だろ」

「会長の方が……」


 とかなんとか言い合っていて、良く分からない。

 とりあえず放って置いて、遅れてしまった資料でも読みますか。

 黙々と作業を再開すると、2人共大人しく椅子に座って作業する事にしたようだ。





「誕生日、おめでとうございます」


 ある日教室に登校したら、桜さんがとても良い笑顔で私にそう言って来た。


「え、あれ……ご存じだったんですか?」


 確か言っていなかったはずなのに。たしかに今日は私の誕生日ですけれども。桜さん、なんでもお見通しなんですね……。桜さんという名の通りの桜色の可愛い包みに入ったプレゼントを頂く。


「有難うございます、とても嬉しいです……開けてみてもいいですか?」

「ど、どうぞ」


 胸を押さえて、緊張した面持ちで頷く。

 相手にプレゼントした時、ちょっと緊張してしまうのは分かる。気に入って貰えなかったらどうしよう、とかって考えてしまいますよね。

 包装用紙を破いてしまわないように、丁寧に開けていく。時折、お菓子の香りが移っているのか、甘い香りがしてくる。ですがまぁ、お菓子ではないでしょう。なんか長細い感じの箱ですし。桜さんの家はお菓子屋ですから、置いておくと移るんでしょうね。甘くていい香りですから、良いですね。

 桜色の包装から、透明の箱に入ったペンがみえた。黒色の布に埋め込まれるようにきっちりと詰められていて、見た所かなり高そうなペンに見える。深い青色の落ち着いた色合いで、金属部分は金色になっている。流石に本物ではないだろうが……重厚感があって高そうでです。

 ペンから顔を上げて桜さんの顔を見上げる。


「え、と……いいんですか?こんなに良さそうなもの……」

「だめ……でしたか?」


 手を組んで、しょんぼりと目を伏せてしまう桜さん。長い睫毛で目元に影が出来る程だ。やはり桜さん美少女。

 私は慌てて首を振る。


「い、いえ!そんな事は!ただ、高かったのではないかなと……」

「気にしないでください」


 ペンをそっと両手で押し戻してくる。

 ううん……本当に貰ってもよいのでしょうか……桜さんの誕生日も祝っていないんですけど。あ、そうですね。私も桜さんを祝えばいいんです。


「桜さんの誕生日っていつなんですか?」

「……4月です」


 うわぁ、とっくの昔に過ぎてるんじゃないですか……。


「気にしなくてもいいんですよ。そんなつもりで送った訳じゃありませんので」

「……そう、ですか」


 うう、良い人です……。でも、何か用意させて頂きましょう。もうすぐ冬ですしね……暖かくなるものが良いでしょうか。桜さんは遠慮していらないって言いそうなので、こっそりと購入しておきましょう。





 昼休みに廊下をうろついていると、突然腕を引かれた。驚いて振り返ると、僅かに息を乱した会長が立っていた。なんだか慌てた様子で、何かあったのかと心配になる。

 部活をしていたのか、剣道着と竹刀を持って、汗をかいている。あれ、会長って剣道部なんでしたか……今気が付きましたよ。会長の手って確かに皮が厚いっていうか、良く使われてるなぁとは思ってましたが……っていうか部活やっているんですね。私と違ってきちんと両立できているんですね。と、感心してしまう。


「会長、どうかされたんですか?」

「聞いてきた……」


 はぁ、と息を吐いて息を整え、私に目線を合わせる。慌てていてもその恰好良さは乱れないんですね……さすがイケメン。


「今日、誕生日だと……」

「ええと?……はい、そうですけれど……?」


 掴んでいた腕がゆっくりはずされる。

 少し気まずそうに瞳を逸らし、コホンと咳払いする。僅かに顔を赤くさせて、視線をどこか彷徨わせてから……私に戻る。


「……祝う」

「……えぇ?」


 突然の事に驚く。

 会長が私の誕生日を祝う?えっと……何故でしょう。祝われるのが分からない。口元に手を当てて、首を傾げる。


「ええ……と、その申し出は嬉しいですけれど……」

「……祝いたいんだ」


 そんな縋るような目で言われると強く断れませんけど。

 親しくさせて貰っている事は分かりますけれど……親しかったら誰でも祝うタイプ……なのでしょうか?会長ってそんなキャラでしたっけ……。まぁ、かなり会長がブレてるのは知っているので、今さら気にしまい。


「ええと、じゃあ……私も会長をお祝いさせて下さい」

「……ああ、それでいい」


 なんだか、今年は誕生日を祝ってくれる人が多いですね。


「良かったら、今度出掛けないか……その、プレゼントを選んで欲しい。ほら、女性にプレゼントなんてした事ないから、直接選んで貰おうと思ってな」

「……ああ、本当は気を使ってくれなくても良いのですが……そういうことなら、私も会長に選んで頂きましょう。私もどれを選んでいいか分かりませんし」


「じゃあ、今度の日曜日に」

「ええ、はい。宜しくお願いします」


 週末に会長と出掛ける約束をしました。しかも誕生日プレゼントを選ぶために……でも、なんかちょっと照れますね。そんなこと前世でもやったことないな。気心の知れた女友達となら何度もやったけれど、男性相手ってのはなかなか……。

 今世では、勿論晴翔は送った事あるのだが、それほど相手の事を知らない状態で送るって事がまずない。そりゃ、確かに乙女ゲームでの知識で会長のデータは知っているが……果たしてそれが本当に反映されているか疑問ですし。今現在もかなりぶれてますからね。

 お菓子あげればいいじゃないって発想が思い浮かんでいる時点でちょっとアレですけど。でもそれ以外に思いつかないんですよね……。乙女ゲームだと何が好きって書いてましたっけ……。銀食器だったかな?ううん……今はどうでしょうね。



 放課後になった。沢山の人におめでとうと祝われて、とても嬉しい。こんな充実した人生になるなんてね……思いもしませんでした。果たして来年……無事に祝って貰えるでしょうか。

 自分が正しいと信じて疑わず、主人公を苛めて。もし親しくして貰っている方々全員に冷たい視線を投げかけられたら。ブルリと寒気がして、自分の体を抱く。

 ……こわい、ですね。そんな結末、嫌ですよ。せっかくクラスの方達とも仲良くなれたのに……。

 机に入っている教科書やノートを鞄に入れつつ、深い溜息を吐く。この楽しい学校生活も終わりをつげるかもしれない。そう思うと、今年の冬はずっと終わらなければ良い……そう思ってしまう。


「と、とお、る」


 つまりぎみに、言いにくそうに声をかけられる。その艶やかで色っぽい声の主は晴翔のものだ。声をかけられてぎくりと肩が跳ねる。

 ゆっくりと見上げると、そこには気まずそうな顔をした晴翔が立っていた。私と目が合った瞬間に、目を逸らして眉を寄せている。なんだかここだけ空気が張りつめている気さえしてしまう。


「え、と。……なんですか?」


 沈黙が痛くて、話を促す。いえ、まさかね。毎年、晴翔と誕生日を祝っていましたけれど、今年は晴翔の誕生日に何もあげてませんし。ちなみに晴翔の誕生日はすでに夏休み中にとっくに過ぎている。

 そうですね、自意識過剰ですよねきっと。ごくりと唾を飲み込んで、返事を待つ。

 すると、晴翔が黙って机の上に包装された箱を置いた。

 えっ……いや、え……?驚いてその箱と晴翔の顔を交互に見つめる。


「誕生日、おめでとう……」

「ええっ……」


 まさか本当に誕生日プレゼントを……?え、うそでしょう。ざっと血の気が引く。私は誕生日を祝っていなかったのに……ちょっと、私がかなり薄情な人間のようじゃないですか。震えそうになる手を強く握りしめて、晴翔を見上げる。

 ですが、ですが……ですよ?普通、振った相手にプレゼントって……どう考えているんですか。告白してきた相手に……プレゼントして、相手が勘違いするとか、考えないんですかっ!だめですよ……ほんと。プレゼント貰って、普通に嬉しいんですけど……。

 溜息が零れそうになるのを抑えて、微笑む。


「すみ、ません……私は何も用意してませんでしたね」

「いや、気にしてない。俺が祝いたかっただけだから」


「有難うございます……」

「……うん」


 それだけ言って、立ち去られる。机の上には綺麗に包まれたプレゼントが。シックな赤色の包装紙に金色のシールが張られている。

 確かに告白する前は毎年贈り合っていたけれど……まさか、告白して振られた後もこのようにプレゼントされるなんて。それは告白なんて意にも介していないということなのだろうか、それとも大事な友人であるから?……私にはこのプレゼントは少しばかり重たいです。

 晴翔が教室から出て行くのを見届けてから、溜息を吐く。頬杖をついて、なんとなくそれを眺める。つんつんと箱をつついてみる。まぁ、意味はないですけれど。


「透!」

「わぁっ!?」


 いきなり両肩を後ろからガシッと掴まれて飛び上がるほど驚いた。慌てて振り向くと、翼が良い笑顔をしていた。僅かにホッとする。いえ、なんか貰ったプレゼントを意味もなくつんつんしてるところなんて晴翔にだけは見られたくないですもんね。

 居住まいを正し、翼に向き合う。


「こほん……えと、突然なんでしょう」

「ふっふっふ!じゃじゃん!実は俺も透にプレゼントを買って来た!おめでと!」


「え!あ、有難うございます!」


 バッと目の前に差し出されて、反射的に手を出して受け取って礼を述べた。うわ、本当に私って薄情ものですね!翼の誕生日も祝ってないなんて……えっと、じゃあ会長が私の誕生日祝うのも普通って事なのでしょうね。ううん、誕生日とかそういうイベントに疎かったですからね。誰の誕生日もロクに覚えてないんですよね……。というか、聞く事もしてなかったですね。全く翼たちの誕生日を覚えていない……。はぁ、なんだか申し訳なくなってきました。む、胸が痛いです。


「翼の誕生日はいつなのでしょうか……?」

「ああ、気にしないでよ!いつも勉強見て貰ってるし、そのお礼だから」


「ですが……」

「いいんだって!貰っておいてよ!俺の良心がいたむから」


 ぐっ……翼、あなたとても良い子ですね。ちょっと泣きそうになりました。

 私はそっと微笑み返す。


「そうですね、では勉強で倍返ししてあげますね」

「なんという罰ゲーム!」


 翼が頭を抱えて呻くので、思わず声をたてて笑ってしまった。翼のためにとっておきのプリントを用意させて頂きましょう。目指せ全教科上位ですよ!頑張りましょうね。両親に文句なんて言わせませんよ。早速新しい問題集でも作りましょうか。特に苦手な所を集めて繰り返し……ふふふ。



 家に帰って、晴翔からもらったプレゼントを机に置く。しばらく開ける気にならず、眺める。ううん……去年のプレゼントはノートを貰いましたっけ。

 机の上に置かれてある箱は、ノートではないだろう。ではなんでしょう?長方形ですけど、ペン……ではないですね。あれほど細い形状のものでもないんですよね。

 ……いいえ、考えるより開けた方がはやいですね。ごくりとつばを飲み込み、包装紙に手をかける。ぺりぺりと剥がれていくテープの音が妙に響く気がする。包装紙を綺麗に剥ぎ取り、紙を折りたたむ。

 中に包まれていたのは白い箱だった。

 はぁ、と1つ息を吐いて気合を入れる。そっと白い箱に手をかけ、固定されたテープを剥ぎ、開ける。

 そこにあったのは、ネックレスだった。シンプルなクロスにハートが重なったデザインで、ハートにはピンクの石がおさまっている。

 シンプルでいて、それでいて可愛らしいデザインのものだった。


「えっ……?」


 今まで送られるものといえば色気も何もない文房具だとか、問題集だったのに……。なんで今さらこんなものを?

 持ち上げて光にさらすと、きらきらと輝いている。

 こんなの……もらったところで。え、っていうか、え?なんでこんなものを……?いや、いやいやいや、意味分かりませんけど。見なかった事にして、そっと箱に戻す。

 さて、翼は何くれたんでしょうね。……お菓子ですか。そうですね、形の残るものでもないし、誰にでもあげられる無難なプレゼントだと思います。ですね、そういうのが良いんですよね。普通はね。……いや、もう忘れよう。

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