優勝者デートしました。
休日。晴天。綺麗な青が広がり、次第にこの空も秋の色に染まるだろう。しかしまだ風は蒸し暑い。地球温暖化か、まさか乙女ゲームの世界でまでそれを採用してるのか。やれやれ、困ったものだぜ。という現実逃避をしながら目の前の光景を眺める。
腕を組んで眉を顰めている会長と、右手を腰に当てて下から睨みつける晴翔。
2人の只ならぬ空気に、周りが息をのんでいる。凄いイケメンが睨み合うって威圧感が半端じゃない。皆遠巻きに見ている。
だれか、誰か助けて下さい。誰でも良いんです、誰か2人を止めてください。
……私しか、いないんでしょうね。
そう、今日はミスコン優勝者同士のデートの日である。
しかしデートと言って良いのか甚だ疑問ではある。今回は、文化祭の後の体育祭についての打ち合わせだ。生徒会長と、副会長と、事務補佐ですからね。普通に生徒会主要メンバーですから、やる事はやります。体育祭ももうすぐですから、のんびりとはしていられませんからね。……うん、デートじゃないですよね、これ。
遠くでビシバシ火花を散らしている2人を見て溜息を零す。あそこに行きたくないですねぇ……。まぁ、生徒会の仕事と思えば良いでしょう。割り切って、うん、頑張っていきましょう。
ちなみに今日の服装はどちらかというと男っぽい恰好だ。イケメン2人と肩を並べて歩く勇気は私にはなかった。私、イケメンで良かった。これなら女性の厳しい視線を貰う事はないよ!……虚しい。
ところで、今回は30分前に来てますけど、2人共いつそこに来たんでしょうね?8月よりは暑さも少しやわらいでいますが、無理は禁物です。そうか、イケメンは待ち合わせ場所に早めに来るものなのか、そうなのか。女性を待たせてはいけないという謎のプライドでもあるんだろうか。
そういえば乙女ゲームでも待ち合わせ場所に行くと必ずといって良い程相手が先に来てますよね。あれはこういう裏事情か。全員早めに来てるのか!……もう乙女ゲームなんてやらねぇ!なんでそんなに無駄に早く来てるの!私にはいつ来ているのか気になって、もうプレイできる気がしない。
重い足を運んで睨み合うイケメンの所へ向かう。
「……お待たせしました」
「来たか」
「別に待ってはいない」
会長と晴翔がパッとこちらに向いて良い笑顔になる。わぁ!心にダイレクトにダメージが入ったよ!何この破壊力。やめてください、本気でやめてください。
イケメン2人から目を逸らしつつ、2、3言話をしてファーストフードに行く事になった。そこで打ち合わせもするらしい。
そこでちょっと注目を浴びた。彫刻のようなイケメンと、色気を振りまくイケメンが並んでいる光景は凄く目立った。2人共、俳優とかモデルになっても可笑しくない程容姿が端麗なのだ。確かにこんなイケメンがファーストフードにいたらビックリするだろうなぁ……。
生徒会の役員だから頻繁に顔をあわせているけれど、前世の私だったら会話する事すら出来なかっただろうな。そう思うとなんだかライバルキャラも悪くないですね。
ファーストフード店に似つかわしくない2人だが、慣れているようで簡単に注文していた。という事は、普段から利用しているという事か。晴翔は知っていたが、会長もか……。似合わないな……。でも確かに、会長の家はお金持ちという設定はなかったからな。ファーストフードやファミリーレストランにも通うのか。……似合わない!会長、甘党と同じくらい似合わないですよ。
皆でバーガーとポテトのセットを注文して席に座る。視線が凄いですね。まさかこんなに注目されるとは。……うん、男装してきて正解でしたね。イケメンと出掛ける時は男装、うん。
黙々と食事をする。すると、会長の口にマヨネーズがついた。気付いていないようなので、ティッシュを取り出して拭いてあげる。
「す、すまない」
「いいえ」
「……っ!」
恥ずかしそうに目を逸らしながらお礼を言われる。晴翔は驚いたようにこちらを見ていた。私と目が合うと、苦虫を潰したような顔をして、目を逸らした。そして会長を睨みつける。何をそんなに憎んでいるんだと言いたくなるような睨み方だ。
睨まれた会長は、どことなく自慢げ笑っている。その笑顔が気に喰わないのか、晴翔はギリギリというほど歯を噛みしめている。どうしたんでしょう、若干怖いんですけど。
「透……」
「は、はいっ!?」
地を這うような低音で話かけられてビクリとした。あれ、何か怒らせるような事しましたっけ。
「会長と、付き合って、いるのか……?」
「は?……いや、付き合ってはいませんけれど」
何を言っているんでしょうこの人は。
そこではたと考え直す。
男の人の口元にマヨネーズがついて、女の人が「ここについてるよ」と言って拭いてあげる光景……どこのラブラブカップルですか!
自分の行動を思い返して、カッと顔が熱くなった。頬に手の甲を当てて冷ます。
いやほんと、ほぼ無意識にやってましたけど、ないわぁ、私!いえだだだ大丈夫です。精神年齢は母子くらい離れているし、ノーカンです。会長もそういう意図じゃないと知っているでしょうし。
……あれ、会長から何も聞いてませんけど、もしかして迷惑とか思われてたりして。今度は熱かった顔から血の気が引く。
「ああの、会長?迷惑でしたでしょうか」
「いや、そんな事はない……嬉しかった」
柔らかく笑いかけられて、ほっと息を吐く。
良かった、嫌がられてたらどうしようかと。
「透」
立ち上がった晴翔に両手で顔を挟まれて、無理に晴翔の方に向かされる。
「……っ!?」
え、何でしょう突然。晴翔の深刻そうな顔と向き合った瞬間、シュタッと会長の手刀が晴翔の頭にヒットした。
御蔭さまで私の顔が自由になりました。
「「……」」
無言で睨み合う2人。ああもう、なんなんでしょう。周りを見ると、案の定注目を浴びてしまっている。
パンパン!
手を叩いて睨み合う2人の注意をこちらに向ける。
「ここは公共の場です。諍いを起こすなら、どうぞ帰ってください。晴翔、貴方の事ですよ」
「……!」
全く意味が分からない。正直優勝者デート特典じゃなかったら出掛けたくはない。やたら気まずいし、なんかずっと怒ってますし。晴翔にはご退場願いたい。
「ああ、そうだな。帰って貰おう」
「……」
何故か会長が勝ち誇った顔で頷いている。晴翔は黙って座った。顔色が悪い。これ以上騒ぐと本当に帰らされると思ったのか。そもそも嫌なら辞退してくれても良かったのんですけど、律儀というかなんというか。
しばらく無言で食事をして、体育祭の予定表を取り出す。雨天の場合次週に延期になり、次週も雨なら体育祭は中止になる。大抵決行されるので、これはあまり気にする必要はない。生徒的には体育祭の後のテストの方が大変そうですけど。体力が減った後のテストってキツイですよね。すぐにテストというのもどうかと思いますけど。
えっと、テントの数と進行司会のセリフなどなど、去年のものと同じでも大体いけますね。細かい所はもう少し変更しないといけませんが……。
黙々と紙を覗き込んでいると、視線を感じたので顔を上げる。
すると、お客さんと目が合った。凄く興味津々に見られている。目があうとサッと逸らされる。お嬢さん方、今さら取り繕っても遅いですけど?……会長と晴翔の方に視線を向けると、凄く睨み合っていた。
水面下で戦いが……いや、机の下で何か戦っている。足で蹴ったり抓ったり……。
「……帰りたいんですか?」
私が睨むと、パッと距離を取る。
仲悪いのやら、仲良いのやら。
2人は気まずい様子で書類に目線を落とす。
机の下で蹴り合うとか……小学生ですか。全く……。なんか女の人が悶えている気がするんですけど、なんなんでしょう。どこに悶える要素があったんでしょう。良く分からない、最近の若い子の考えている事が分からない。
「場所を変えましょう」
あまりに注目されているので、場所を移す事にする。
図書室にでも行きましょうか。ちょっとここだと迷惑になるかもしれないですからね。
図書館に移動すると、やはり静かで落ち着ける。やっぱり食事の所ではダメでしたね。混んでいる訳ではなかったのですが、妙に注目されてたのが居た堪れない。
図書館に入ると、水無月先輩の弟くんがいた。相変わらずブレない人で。
私達が入った瞬間に、慌てて場所を移動して、こちらをみて若干ホッとしている。そして会釈してきたので、こちらもお辞儀をする。
席に座って、先程弟くんがいた所を見つめてみる。そこには本とノート、筆記用具などが広げられている。しばらくすると、財布と携帯だけ持った大人っぽい女の子がその席に戻ってきていた。
……これはどういう事なのでしょう。
弟くんは、その女の子の事をチラチラと見ていて、気にしている様子だ。あの女の子は恐らくトイレか何かに行っていたのだと思うが……。
女の子の方は、弟くんが見ている事に全く気付いていない。恐らく弟くんが自分の席に来ていた事にも気づいていないだろう。というか弟くんの名前を知っているかも謎なくらい他人っぽい。女の子は黙々と本を読んで、たまにノートに書き込んでいる。……普通に勉強しているだけですね。
「……透?」
「へ?あ、すみません」
真面目に2人が話していたのに、私だけ弟くんをガン見していた。申し訳ないです。慌てて体育祭の書類に目を落とす。
ですがなんでしょう。凄く気になります。
あんな風に必死に女の子覗き込むなんて、興味ない女の子にはしないだろう。ましてや彼はあまり女性に良い印象を持っていないのだから。でもあれじゃあまるで……恋しているようじゃないか。
本で顔を隠しながら、チラチラと覗き込んで。赤い顔で口元を緩めている。あの顔が恋じゃなかったらなんなのか。
私はその様子に衝撃を受けた。
弟くんは攻略対象者なのに、主人公以外に恋している。
主人公は桃色髪のツインテールで、幼く可愛い印象を受ける女の子だ。だがあそこに座っている子は違う。ストレートの黒髪で、緩く後ろに髪を縛っている姿は大学生くらいの落ち着いた雰囲気を醸し出している。しかしとても美人ではある。確かに清楚な感じの女の子だ。近くで勉強しているのに、弟くんに目もくれない所もなかなかに好印象。そこが弟くんにとっては受けたのだろうか。なんにせよ、弟くんはこの強制力のある世界からはずれているという事になる。
……どういう事なんだ?
攻略対象者は必ずしも主人公に恋をするわけではない?
なんか頭痛くなってきました。
「大丈夫か?顔色が悪いが」
会長が心配そうに覗き込んでくる。
晴翔も私を心配そうに見つめて来ている。
手で顔を隠して溜息を吐く。
「いえ……確かにちょっと調子が悪いかもしれません。休ませてもらっても?」
「ああ、構わない。大丈夫か?」
「……ええ」
会長に支えられながら、長椅子の所に案内される。私はそこに横になり、考える。
弟くんに直接聞いたわけじゃないので、早とちりなのかもしれない。けれど、弟くんが主人公以外に興味を持っているのは確実なのだ。そこは曲げようのない事実だ。それが親愛なのか、友愛なのか、恋なのかは分からない。
ここは現実の世界でもある訳で、主人公以外に女の人が全くいないわけじゃない。攻略対象者が好みそうな女の子だって腐るほどいるだろう。それでもゲームでは必ず主人公に目を向けていた。そう、それはゲームだからだ。
何の事はない。私はゲームと現実を混同しすぎていたらしい。設定とか役職とか、全く同じと言って良いこの状況で、思い付きもしなかった。ここは現実だ、生きている人間がいる世界なのだ。ゲームと多少違う事が起こっても可笑しくはない。ましてや今はまだゲーム中の話ではない。
だとしたらどうなるのだろう。
主人公と共に入学した時、果たして弟くんはどうするのか。今目の前にいるあの女の子の事が好きなままなのか、それとも感情を捻じ曲げられるのか。今は分からない、分からないけれど……確実に言える事がある。
私は別にライバルキャラだから振られた訳じゃないって事だ。
単純に、私に興味がなかったから振られただけ。
普通なら、そう考えるはずだ。普通なら。
でも私はゲームの世界のせいにして逃げていたのかもしれない。ゲームの通りになって悲しいとも思っていたが、晴翔に振られた事の方が余程こたえた。だから逃げ出した。
後で笑い話になるはずだと軽く考えていたが、私は私が思っているよりずっと晴翔の事を好きだったみたいだ。この感情も、本物だったという訳だ。なにせ、弟くんが他の女の子に興味を持てたのだから。
うわぁ、なんか馬鹿だなぁ、私。普通に考えれば当たり前なのに、勝手に被害者ぶって悲嘆にくれて。……無性にしにたいですよ、うん。
そうか、私に魅力がなかっただけか。でもそりゃそうだよね、男装したら全くと言って良い程女だと気付かれなかった訳ですし。今でも腐ったお友達の良い題材にもされているようですし。そんな男みたいな奴好きになるわけがないのだ。
私の失恋は乙女ゲームで決められたものでもなんでもない。普通の失恋だ。馬鹿だった。
延々と自己嫌悪に陥ってネガティブになっていると、頬に冷たいモノが当てられた。
驚いて目を開くと、会長がお茶を買ってきたようだ。
「少しは良くなっ……てないみたいだな」
私の顔を覗き込んで苦笑している。よほど顔色が悪いらしい。心配かけさせたみたいですね。
起き上がって、有難くお茶を頂く。
「開けようか?」
「いえ、そこまで心配なさらなくて大丈夫ですよ」
「そうか」
ペットボトルの蓋を開けて冷やされたお茶を流し込む。冷たいお茶がひんやりと喉を通っていき、僅かに気分が良くなる。
会長も自分のお茶を買って来たのか、お茶を飲んでいる。外に買いに走ったのか、汗をかいているようだ。
私はハンカチを取り出しながら素朴な疑問を口にする。
「そういえば会長って好きな人とかいますか?」
「げぼぉっ!?」
「うわ汚っ!……だ、大丈夫ですか!?」
飲んでいたお茶を思いっきり吹き出した。幸いにもここは休憩スペースなので、本にかかってはいない。
お茶で溺れたようにむせかえる会長にハンカチを渡し、背中をさする。結構思いっきり気管に入ったみたいで、半泣きでむせまくっている。とても苦しそうだ。大丈夫でしょうか。
「けほっけほっ……なっ、んで、そんな質問」
「ええと、なんとなくです」
説明すると面倒だし頭可笑しいだろこいつってなるから省きます。
攻略対象者である弟くんが誰かに恋におちているならば、会長も誰かに恋していてもおかしくはないだろうと考えたのだ。主人公が入学してからはその感情がどうなるかは分かったものじゃないですけど、少なくとも現時点で設定どうあれ、恋愛は出来るらしいですし。会長も誰か主人公以外に恋しているなら、その推測はより確信になる。
「その、なんだ、ええと……」
視線を彷徨わせて、顔を赤くさせている。
あれ……?もしかして本当にいる感じですかね?やっぱり推測は当たっているようです。
私は普通に魅力がなくて振られたようですよ!……虚しい。
「いるんですね……どんな方なんですか?」
「へぇっ!?え、どんなって……」
なんか会長のリアクションが面白いですね。
会長の事をじっと見つめていたら、どんどんと顔が赤くなっていく。会長は慌てて手で顔を隠したが、顔が真っ赤なのはバレバレだ。照れ屋さんですねぇ、それとも、好きな子の事でも考えているのでしょうか。
青春ですね、けっ。おっとやさぐれそうでしたよ、うん。
リア充爆発しろ。
「何してるんだ?」
半ばあきれたような声が聞こえて来てそちらに顔を向けると、晴翔が立っていた。その手には氷水の入ったビニール袋。どうやらわざわざ作ってきてくれたようだ。どこから入手したんでしょうか……謎です。
それを私にそっと手渡してくれた。ひんやりしていて、気持ちいい。
「有難うございます」
「ん」
少し目元を赤らめて僅かに微笑んで頷く。
会長はまだ隣でむせている。
晴翔は私の隣に腰掛けてくる。会長と挟まれている状態だ。通り過ぎる人が何度も振り返ってきている。ここでも結構注目浴びてるようです。
図書館の受付のお姉さんがずっと悶えている気がする。どこで悶える要素が!?
お姉さんの反応に頭を抱えていると、つんつんと肩を突かれる。顔を上げると、晴翔が心配そうに見つめて来ている。こちらも走ったのだろうか、汗をかいていて色っぽい。
「大丈夫か……?」
「あ、はい……大丈夫です」
居た堪れなくてそっと目を逸らす。今更失恋について落ち込んでいたとか情けなさ過ぎてあわす顔がない。はぁ……どうしましょうかね。
というか、晴翔も別の人が好きだったりするのでしょうかね。そういえばもうすでに主人公と出会っていても可笑しくはないんですよね。絶対会わないとは限らないですからね……。はぁ……落ち込みますね。
ううん、設定や生まれ、職業や容姿は定められたものだけれど。感情については強制力がないかもしれないのか。なんだか難しい話ですね。主人公が入学してきたらどうなるんでしょうね。なんだかそれを知るのが恐ろしいです。
どうか弟くんや会長の想いが踏みにじられる事がないと願いたい。




