ミスコンにでました。
文化祭最終日がやってきていた。ここまで、大きなトラブルもなくやり遂げている。最後まで気を抜かずに行きましょう。
最終日の午前はミスコンに出なければならない。衣装は安定の執事服です。それ以外に着るモノもありませんしね。制服でもいいんですけれど、参加者は毎年何らかの衣装を着ているらしいので、制服だとちょっと浮くかもしれないのだ。
女子用の控室に入ると、皆それぞれコスプレ衣装を身に纏っている。私はもうすでに執事服に着替えているので、椅子に座って出場を待つ。
あんまりキョロキョロして人の着替えを覗くのも悪いので、床を見つめておく。
……なんだか、凄く視線を感じます。
下を向いていても分かる程度にガン見されている気がします。きっと気のせい……ではないのだろうか。
顔を上げると、沢山の女の子が目を逸らした。どうやら、本当に気のせいではなかったようです。女の子達はそわそわしつつ、顔を赤らめて着替えている。着替えている最中に、チラチラとこちらを窺っている子もいる。
……えっと、なんでしょうか。もしかして、私の恰好は可笑しいのでしょうか。いえ、桜さんにもお墨付きを頂いていますし、大丈夫なはず、です。
目を瞑って周りの会話に耳を澄ます。
「ああ、女の人って分かってても恥ずかしい……」
「分かる……何この視姦プレイ……なにかに目覚めてしまいそう」
「イケメンにみられつつ着替える……ドキドキする」
おっ……とぉ…………。
私は無言で立ち上がる。
女の子達がビクリと震えて胸やら何やらを隠す。とても恥ずかしそうに。
そのまま扉に向かい、出て行く。
扉がキチンと閉ったのを確認して、大きく溜息を吐いた。
いやまさか、そんな風に見られているとは思いませんでした。私のイケメン枠って取れないのですかね……もう手遅れですか、そうですか。
……ま、まぁ、いっか……。これは多分、票が入らないだろうなぁ。出場するのは可愛い女の子ばかりだったし、勝ち目なんてないだろう。
確か、上位3名が同じ衣装を午後でも着てミスコンの発表に出なければいけないので、面倒がなくなっていいんじゃないでしょうか。私はライバルキャラでそこそこ顔も良いが、イケメンと思われていたら可能性は皆無だろう。何故、何故私に出場要請を出した。
なんだか無性に恥ずかしくなってきましたよ……。壇上に上がったら「え、男……?」という観客の呟きが今からでも聞こえてくる。
ま、ここまで来てしまったものは仕方ありません。腹を括ってでましょう。
ミスコンは男性が7人、女性が5人エントリーしていた。私を除くと女性は4人となる。確かに4人は少なすぎるでしょうね。でも私を出すのはどうかと思うんです!
ふむ、女性だと私と、あと1人が上位3名から外されるんですね。その子とは、ちょっと仲良くなれそうです。
それと、驚いた事に晴翔も出場していた。男性控室に行く前に、会長と睨み合っていた。これは、1位2位は会長と晴翔のものになるでしょうね。
ちなみに、このミスコンの優勝者は、デートする権利が与えられる。……誰となのかというと、優勝者同士だ。最も恰好良い男子と最も可愛い女子とのデートだ。これで恋が生まれない訳がない。
そういえばこの文化祭のミスコンで優勝した者同士は永遠の愛で結ばれるどうのこうのって伝承がありましたね。大きな木の下で告白すれば絶対に成功するとかどうとかそういう系の噂話です。
信じてる女の子もいたりするんじゃないでしょうか。その割には出場者が少ない気がしますが。男性の部の方は、可愛い女の子とデート出来るかもしれないという下心もありそうです。
乙女ゲームだと、主人公が出場してダントツトップになる。男の方は好感度の最も高いキャラが出場し、優勝する。そしてそのままデートイベントに突入し、良い感じになっていくのだ。まぁ、今はまだ全然関係なさそうですけどね。
さて、男性の部の方は会長か晴翔ですけど……女の子は誰になるでしょうか。
「もうすぐです!」
という声がかかって壁から背を離す。
女の子とデートする。その単語で胸にチリチリとした痛みが走った事から目を逸らした。
さて、ミスコンですけれど。
壇上に上った瞬間どよっとされたのは予想済みです。心に軽微なダメージを負うだけで済みました。アピールポイントの発表では、料理得意、裁縫得意、家事全般大好き、趣味はお菓子作り……等など女子力が高いコメントばかり。私だけですよ、アピールポイントが生徒会の仕事云々という事を言ったのは。
いや、料理は出来るんですけど、得意って訳でもないです。もう料理は普通の極みなんです。さすがに普通なのに得意です!とは言えない。
裁縫?……ボタンつけくらいなら出来ます。
家事なんてメンドウでやってらんない……必要に迫られれば最低限はするでしょうね。うああ、前世の悪癖だこれ。直さないと本当に結婚すら出来ないかもしれない。
ってなわけで……こんなイケメン枠の男認定で淡々と仕事の話をしたんですけれど。だからたぶん、呼ばれる事はないと思う。
ミスコンも終わり、見回りをして昼休憩に入る事になった。この文化祭での出し物はすべて美味しそうで、かなり凝ったモノが多い。なので、文化祭期間中はお弁当はナシだ。どうせならこの雰囲気を味わいながら食べたいですしね。
たこ焼き、焼きそば、りんご飴などなど、屋台の定番が並んでいる。どれも本格的で、普通の出店と同じくらい……いや、昨日食べたフランクフルトはそれ以上の出来だった。全部制覇したいところですが、流石にそこまでお腹に余裕はない。
さて最終日は何にしようか、と悩みながら歩いていると行く手を遮られた。顔を上げると、そこには会長が立っていた。
「昼休憩か?」
「ええ、そうですよ」
「じゃ、じゃあ俺も回ってもいいか?」
「あ、はいどうぞ」
会長は演劇なので、決まった時間以外は案外暇なんだそうだ。だから自主的に見回りしていた時に私をみつけて声を掛けて来たらしい。
「そうだ、会長。たこ焼きと焼きそば食べました?」
「ん?……いや、まだだが」
「実はどっちにしようか迷っていたんです、半分こしませんか?」
「……ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」
やった!両方食べたかったけれど、全部食べきらないと勿体ないしお腹が苦しくなりそうだったのだ。それなりに量もありそうでしたし。それに、デザートのほうも気になっていたので、会長と半分出来るのは嬉しい。
私が喜んでいると、会長が何故か胸を押さえて呻いていた。
「あれ、体調悪いんですか?」
「い、いや。平気だ。……むしろ精神の方が」
「え?」
「なんでもない。たこ焼きと焼きそばだな、行くぞ」
少し心配だが、大丈夫なのだろうか。
顔が若干赤くなっているので、暑さにやられたのでしょうか?……いや、炎天下で何時間でも待てる人ですから、それはないでしょうか?
まぁ、ちょっとでも体調が悪くなっていそうだったら強制的に休ませましょう。
たこ焼きと焼きそばを購入して、ベンチに2人並んで座って食べた。両方凄く美味しくて病みつきになりそうだった。これが学生の文化祭クオリティ?……否。これはプロの犯行である。私の所のシフォンケーキもプロの犯行ですけどね。反則レベルで美味しいですから。桜さんの場合、実家がケーキ屋のようですから、プロと言えばプロですよね。
「会長、体調はもう大丈夫ですか?」
「ああ、というか特に問題はない」
「そうですか?」
確かにもう赤くはない。じっと見つめていたら少しだけ赤みが差してきたが、これは単に照れているだけだろう。会長は照れ屋ですよね。
屋台で買った飲み物を飲みながらマジマジと見つめる。やっぱり綺麗ですね。これが攻略対象者ですか、そうですか。
「デザートも半分しません?」
「あ、ああ……」
会長の目に若干喜色が浮かんだ。やっぱり甘党ですね。もういい加減宣言すればいいのに。
わらびもちと、ショートケーキを購入して、再びベンチに座る。安定の半分こです。なんか会長と2人だといつもこういう事している気がする。
それにしてもこのわらびもちおいしいですね。ショートケーキも美味しいです。厳選素材って……いや、もう何も突っ込むまい。
わらびもちをパクリと食べて、口元を緩める。
「嬉しそうだな」
そう言っている会長の口も緩んでいる。私を見つめるその目は優しい。いつも晴翔を睨んでいる目とはかけ離れた優しさだ。やっぱり女性相手と男性相手では違うのでしょうか。まぁ、晴翔とは特別険悪な気がしなくもないですけれど。
私相手の場合、会長は甘党を隠さなくて良いからデザートが半分出来て嬉しいとかそういう感じでしょうね。
「ええ、会長と食事する事ができて私も嬉しいです」
「えっ」
正直に答える。ばったり出くわして本当に良かったです。御蔭で種類も多く制覇出来ましたし、デザートも色んな味を楽しめましたし。会長が甘党で良かった。私もこうして楽しめますし、会長が甘党だと見抜いた自分を褒めてやりたい。
「お、れも……嬉しい」
「有難うございます」
顔を赤くさせた会長が口を手で隠しながら言う。視線は私と反対の方向を向いてますけど、照れ隠しでしょう。
「透は、俺が喜ぶ事を、なんでもない事のように簡単にしてくる」
「……私ですか?何かしましたっけ……」
特に特別な事はしていない。強いていうなら甘党と気付いても言いふらさなかった事でしょうかね。後はそうですね……照れて注文しない会長の為にケーキ2つ注文して分けるとか。その事でしょうか。
会長は、クスリと笑った。会長の笑みに前を歩いていた人が足を止めてボウッとしている。なんという破壊力なんでしょう。私には真似出来ません。私も多少耐性がつきましたが、依然ドキッとしますからね。めちゃくちゃ恰好良いですから、仕方ない事です。
「そういうところだ」
「……?」
どういう事でしょう。
私は首を傾げて会長を見つめる。会長も、顔を赤くしてこちらを見つめる。
笑顔だった顔に、ふと真剣さが入る。思いつめているようで、何か大切な事を言う前のようで、こっちまで緊張してきた。
「その……」
「……」
周りはとても賑やかなのに、ここだけ妙に静かだ。会長からゴクリと唾を飲み込む音まで聞こえてくる。
「透、見つけた」
と、ここで晴翔の声がしてきた。
前にいる会長から「チィッ!」という盛大な舌打ちが聞こえてきた。びっくりして会長の顔を見ると、苦笑いを浮かべていた。
「こんな所でどうした?もうすぐ時間だぞ」
「え、あ!」
スマホの時計を確認して驚く。もうすぐ執事喫茶の時間だった。というか、ここからだと遅刻である。思いの外会長と話し込んでいたようだ。探しに来てくれた晴翔にお礼を言う。
「会長すみません。お話はまた今度で良いですか?」
「あ、ああ……」
慌てて教室の方に向かった。
そういえばミスコンですが、予想外の事が起こりました。
なんと、午後の発表に出て下さいと声がかかったのだ。
ちょっと待って下さい。ナイでしょう!私でもナイわぁ、とか思ってたって。私より可愛い子いたでしょう!?なんで!?
私が動揺していると、クラスメイトの女の子たちが良い笑顔で親指を立てた。
「女の子の票ですね!」
「私もいれました」
そうかあああああああっ!?
投票は匿名なので、男子の部でも女子の部でも、男女両方入れられるのだ。
そうつまり……男性はまばらに色んな女の子に投票して別れてしまったが、女性の票は確実に私に入っているといっても過言ではない。だとしたら……だとしたら私が優勝もあり得るかもしれないのだ。
いや、ナイでしょう……いやホント。男性客からブーイング起こりますよ。
心で滝汗を流しながら、壇上へと向かう。
案の定、会長と晴翔の姿があった。やっぱり、2トップでしょうね。さて、どちらでしょうか。晴翔だけは勘弁してください……もし私が優勝したらデートする事になるかもしれないのだ。何その苦行……振られた相手と義務デート?凄く嫌だ。
勿論私が優勝するとは限らない……限らないが……壇上に登った時、女性客から黄色い悲鳴があがった。「素敵!」とか「男装の麗人!」とか「抱いて!」とか言っている。嫌な予感がヒシヒシと伝わってくるのは言うまでもない。
「3位、勅使河原由美子さん」
金髪ストレートの、少しつり目の美人さんが呼ばれる。
心臓が嫌な音を立てた。いや、ええと、なるほど?私は3位ではない、と。
次に私が呼ばれないと、優勝ということになってしまう。2位こい2位こい2位こい……。
「2位、増井千鶴さん」
きたぁ…………!
なんてこった!
呼ばれなかった!なんで、どうして。
いや分かってる。女性たちの爛々とした目を見れば分かる。貴方たちまじで何やってんのぉっ!?
案の定、男性客からざわざわというどよめきが。ですよね、分かります。私もこんな女嫌ですもん。どう見てもイケメンな女なんて論外でしょうに。ごめんなさい。
女の子に好かれているのはよぉくわかりました。本当に有難うございます。
「優勝は、木下透さんです!おめでとうございます!」
わぁっ……!と女性客から歓声があがる。男性客は不満げだ。ごめんなさい。私にはどうする事も出来なかったのだ、許して。
次に男性の発表になる。
案の定、3位は会長と晴翔以外の人だった。彼もなかなかイケメンなのだが、会長と晴翔には遠く及ばない。
「優勝者なんですがなんと!今回同票で月島蓮会長と、火媛晴翔副会長が2人共優勝です!」
会場から女性の歓声があがる。
同じ票?そんな馬鹿な事、起こるはずがない。1票くらいは差がでてもおかしくないだろう。ましてや不特定多数の人間が投票しているのだ。有り得ない……。
今年のミスコンはありえない。
女性の部は、男にしか見えない私が優勝し、男性の部は2人優勝者が出たなどと……。
「ってことで……デートはこの3人でしてもらいます!」
会場が未だかつてないくらい白熱する。主に女性からの熱気だった。もうどうしてくれようコレ……。
頭に「腐女子の策略」という文字が浮かんで、膝を抱えて呻きたくなった。
「腐女子の策略」です(確信)




