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動揺しました。

 夏休みを終えて、まずはテストだ。夏休み中にサボっていなければそれなりの点数は取れる。

 翼も手ごたえがあったようで、達成感のある顔でグッと親指を立てていた。あれで、解答欄ズレてたら笑いますけどね。あ、シャレになりませんね、それ。


「そこまで」


 午前のテストが全て終わって、解答用紙が回収されていく。凝り固まった体を伸ばす。芳しくなかったのか、三宅さんが撃沈している。こんな事なら、勉強会に誘ってあげればよかったでしょうか。でも、三宅さんバレーが忙しそうでしたしねぇ。

 昼休み、私は生徒会室に向かう。今日から、生徒会の立候補を集う紙を制作するのだ。テスト期間中に作るとか鬼畜でしょう。でも、やり遂げるのだから会長は凄い。テスト期間の制作して、テスト終了後すぐに公募する。

 この生徒会選挙では1、2年だけが立候補する事が出来、3年は出る事は出来ない。なので、副会長はここでお役御免。

 勿論、引き継ぎなんかもあるので、すぐに来なくなるという事もないだろうが……副会長の役割は私が引き継いでいるので、あまり問題が無かったりする。正直、面倒なのでご遠慮願いたいところですが、会長と話せる人間がいないのが現状だ。

 なんで話せないんでしょうね。会長はちょっと威圧感があるだけのドジっ子なのに。話してみると優しくてドジなんですけどね。

 ゲーム中は「へー」って感じでスルーしてた設定が、現実だと違和感ありまくりです。話せないって、人としてどうかと思う。


「透」


 私が丁度生徒会室の扉を開けようとした時、声を掛けられた。その声は予想外の人物の声で、とても驚く。

 振り向くと、案の定晴翔が立っていた。走ってきたのか、少し息が上がっている。


「え……晴翔?どうしたんです」

「手伝う」


 ……ん?何をでしょうか。私は良く分からず、少し首を傾げる。

 晴翔は視線を泳がせて、僅かに躊躇してから口を開く。


「生徒会の仕事だ」

「……なっ!?」


 予想外の答えに驚く。

 待て、なんでその流れになったんだ?私は誘っていないから、晴翔の生徒会入りはなくなるはずじゃないのか?

 なんで、私が誘ってないのに生徒会の仕事を手伝う必要性がある?

 落ち着け、まだ生徒会入りするとは言っていないでしょう。


「……ダメか?」

「……い、いえ。手伝いは、助かるのですが、でも、何故急に?」


 何故そんな事を急に言い出したか、訳が分からない。

 妙な音を立てる心臓を抑えつけて質問を投げかける。本当に突然の事で、晴翔が何を考えているのか、分からないのだ。思うように言葉が出てこなくて、途切れ途切れにしか反応できない。


「……生徒会に立候補しようと思って」


 ……やっぱり、この世界は強制力が働いている。ライバルキャラが誘わなくても、晴翔は生徒会入りする事が決まっているのだ。そして、きっと主人公も入学してくることだろう。そうしたら私はどうなってしまうのだろう。

 主人公を追いかける晴翔を見て、嫉妬を持たずにいられる?分からない、分からないけど、怖い。もし苛めを率先するような事になったら?

 せっかくの第二の人生なのに、退学する事になる?

 実際の所、ライバルキャラの木下透が退学や転校するルートは多い。翼や水無月海斗くんのルートが発生したら転校する。現実に可能かは分からないが、ハーレムルートなんかだと木下透は退学する。ルートに入らなくても、ある程度晴翔の好感度が高くても退学する。確立としては、それなりだろう。

 勿論そうならないルートに入れば無関係なのだろう。けれどどのルートでも確実に何回かのイベントは起こるはずなのだ。だから晴翔が主人公に最低限の好意を抱く事は必須。それだけ考えても頭の痛い話である。


「そこまで」


 その声にはっとする。テストの終了を知らせる合図だ。午後のテスト中にぼーっとしてしまっていたようだ。なんてこった。半分も解けていない。やばい。これはやばいです。

 呆然自失状態で教室に帰って、もやもやしながらテストを受けていたら、こんな事に。


「……大丈夫か?」

「へっ!?」


 晴翔に心配そうに声を掛けられて変な声が漏れた。

 晴翔の綺麗な顔を前にして、震えが止まらない。やばい、ですね。本気で転校を考えた方が良いかもしれません。でも強制力の働くこの世界で、果たしてそれは成功するのだろうか?

 私は退学するしかない?そんな運命しか待っていない?そんなの嫌だ。せっかく良いクラスメイトとも出会えているのに。


「……っ来い」

「あっ……」


 晴翔は苦しげな顔をして、私の腕を掴んで歩き出す。

 どこに向かうのかと思えば、保健室だった。私の今の状態が異常だと気付いたのだろう。


「あらあら、木下さん顔色が悪いわね。休む?」


 保健の先生が心配そうに顔を覗き込んでくる。20代の若い女性。優しいので、男子生徒に人気があるらしい。先生に会う為にずる休みする子もいたりするほど。

 ……と、どうでも良い情報を考えてみたりしてみる。


「……っこ、ここで、受けます」

「そう?辛そうだけど……再試験受けられるわよ?テストの内容は変わっちゃうけど、貴方なら問題ないでしょう?」


 先生はスラスラと私の名前を用紙に記入しつつ、私の容体を窺う。体温計を手渡されたけれど、たぶん測っても平熱だと思う。


「じゃあそこの君、担任に木下さんの事知らせて来て頂戴、そのまま教室に戻っていいから」

「……はい」


 先生は晴翔に指示をだして保健室から追い出す。晴翔は心配そうに私を見つつ、担任に知らせないとと思ったのか、出て行った。


「じゃ、次のテストまで横になって休んでなさい」

「はい……」


 言われるままベッドに横になる。悪い考えがぐるぐると回る。

 横になったら、気分の悪さが少しマシになった気がする。まぁ、晴翔が出て行ったから、という理由もあるけど。

 さて、本気でどうするか……。まさか晴翔が生徒会入りを希望するなんて思ってもみなかった。生徒会には私がいるから、避けるものだとばかり思っていたのに。晴翔が生徒会に入らない事で、オープニングスチルは回避されたかもしれないのに。

 それが回避できるという事で、乙女ゲームとは違う展開を期待していた。だから晴翔は誘わなかったのに。でも、晴翔の生徒会入りは決まっているのか。

 ああ、もう、もやもやする。全て嫌になってきた。全て投げ出したい。せっかくの第二の人生なのに、なんで未来が決まっているんだ。

 強制力が、生徒会入りで、晴翔、私の退学……と無限ループだ。考えたって、どうしようもない。そのどうしようもなさが怖い。


 そこで、優しく頭を撫でられる。先生かな?と思い目を開く。が、そこにいたのは晴翔だった。

 驚いてガン見してしまった。どうして、教室に戻ったはずじゃ。

 優しく頭を撫でる晴翔の手が、苦しい。どうしてそんなに優しく撫でるんですか。そういう事は、やめて欲しい。本当にやめて欲しい。胸が苦しくなる。私はもう振られているのに、希望を持ちたくなる。


「大丈夫だ」

「……っ」


 私の頭を撫でて、すこしぎこちなく笑う晴翔。思わず泣きそうになったが、耐える。こいつは本当に……人を勘違いさせるのが上手い男だ。

 いや?これは世界の強制力なのかもしれない。私の心が晴翔から離れない様に、という事なのだろう。まんまと引っかかっている自分に辟易する。

 ……イラッとしてきました。振った女相手に、その行動は頂けません。正直説教してやりたい気分です。

 怒って良いですか?良いですよね、これ。絶対不適切ですよ。


「ほらほら!君も教室に戻って!」


 怒ろうと口を開いた瞬間、先生が晴翔を追い出しにかかった。なんというタイミングの良さ。……まぁ、良いでしょう。

 怒って、また気まずい空気になるのもね。私が勘違いしなければいいだけの話です。


「ほら、いけそうなら木下さんもテストするわよ?」


 優しそうな先生の笑顔に、私は頷いた。悔しいが、晴翔に撫でられた御蔭で気分は落ち着いた。本当に悔しい事だ。

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