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花火大会に行きました。

 今日は花火大会当日。どこから人が集まって来たのか、いつも車が走っている道路にも人で溢れかえっている。祭りの時はなんだかワクワクしてきますね。いつもと違う街の雰囲気が好きです。まぁ、ゴミが落ちてるのは、ちょっとアレですが。祭りの後は、大変でしょうね。



「あ、透透!こっち!」


 金髪さわやか犬系イケメンが浴衣を着て大きく手を振っているのが見えた。周りの女の子をかき分けて翼と晴翔がこちらに来ようとするが、色っぽいお姉さんが腕に絡みついてきた。


「えー!私たちと回ろうよぉ、ね?」

「ごめんねー今日は友達だけで遊ぶつもりだから!」


 自分を知り尽くした完璧なまでの上目づかいだったが、翼はドキッともする事なく、笑顔でスルー。その徹底したスルーぶりにお姉さんの方が目を丸めていた。今まで、その「お願い」で落ちなかった男はいなかったのだろう。だが、翼はそこらの男と訳が違う。

 押し当てられた胸すら気にしていない様子に、お姉さんの方が憐れに思うくらいだ。

 結構綺麗で色っぽいお姉さんだと思うんですけど……健全な男子たるもの、その反応はどうかと思うよ、翼。私は思わず苦笑してしまった。

 翼はショックを受けているお姉さんの腕をやんわり離してからこちらに向かう。

 人懐っこそうな翼に声を掛ける女の子は多いけれど、明らかに不機嫌な顔をした晴翔に声を掛ける人は少ないようだ。

 でも晴翔も相当恰好良いので、メンタルの強い女の子が声を掛けるも、シカトされていた。視線すら寄越さないなんて、ちょっと可哀想です。


「あれ?透なんで私服なのっ!?」

「出かけるのに私服じゃダメですか?」

「ダメでしょ!?そこは浴衣でしょ!?」


 その理屈はちょっと分かるんだけれども。動きにくいしなぁ……。それに、足も痛くなるんですよね。

 翼と晴翔は浴衣を着ている。2人共良く似合っている。翼はクリーム色の明るい浴衣で、青い帯をしている。可愛い男の子な印象を受けます。ライブ中はあれだけ恰好良いのに……そうですか、あれがギャップ萌えという奴ですね。あざとい人です。

 晴翔はシックな赤の浴衣を着ている。少し不機嫌そうに目を逸らして腕を組んで立っている。彼の赤い髪に似合う落ち着いた赤の浴衣は鼻血が出そうなほど似合っている。晒された喉仏、チラリと覗く男らしい鎖骨、腕。

 くっ……!これが攻略対象者の実力という訳か……!ダメですわ。これダメなやつです。恰好良過ぎる。惚れ直した。私はスマホに手を掛けたあたりでハッと我に返った。あ……危な。思わず写真を連射するところだった。


「もー透なら絶対可愛くなるのに!」

「ははは」


 社交辞令に乾いた笑いで返す。いや翼、あなた男だと思ってたでしょうが。

 翼はクリーム色の明るい色の浴衣を着ていて、髪も金髪で派手なので似合っている。その色だと本当にゴールデンレトリバーに見えてしまう。なんか可愛い。わんちゃん。

 周りの女の子達の鋭い視線を浴びる。ああ、ええ、分かりますよ。言いたい事は。「なんでこんな女と?」という感じでしょう。ちょっと顔が引き攣るのを、私は止める事が出来なかった。


 それから適当に会話をしてから縁日を回った。基本的に翼がはしゃいで、私がそれに突っ込み、晴翔は後ろから着いてくる感じだ。でも晴翔の機嫌は結構……いや、かなり悪いように見える。ずっとムスッとしている。その事は翼は気にしていないように見える。

 何か原因を知っていたりするのだろうか。もしかして私だろうか?花火大会、私と行くのが嫌だった……とか?


「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」

「それなら向こうにありましたよ」

「じゃあ行ってくるっ」


 翼がトイレに行きたいと言い出したので場所を教えてあげる。その間は晴翔と2人きりだ。非常に気まずい。

 私は沈黙を保ったまま晴翔をチラ見する。腕を組んでムスッとしている。そんな顔も恰好良くて困る。

 じっと見ていたら眉がピクリと動いた。そして、どこに入れてあったのか、スマホを取り出して何か見ている。

 メールでも届いていたのか、目を見開いてから、私と目が合った。すぐに逸らして、苦虫を噛み潰したような顔になった。そんなに嫌ですか……。まぁ私の態度も悪いから言えないけど。でもなぁ、やっぱり好きな人と友達に戻るのはやぱり無理があったかな。

 こういう2人きりの時にどうしても意識してしまう。この苦い気持ちが設定通りという訳だ。そう考えると憂鬱な気分になってしまう。


「と……透」

「ひゃいっ!?」


 晴翔に話しかけられて変な声をあげてしまった。恥ずかしい。晴翔はそんな私の様子に気まずそうに視線を彷徨わせている。


「つ、翼が他の友達と合流したから。2人で回ってくれって」

「えっ」


 翼め。謀ったな。うわぁ、晴翔と2人で回るとかなんという試練なのだろう。チラリと晴翔に目を向けると浴衣姿の晴翔の姿が。やばい。恰好良い。ドキドキする。ええい。静まれ。どうせ作り物の気持ちだ。


「……」

「……」


 2人の間に気まずい沈黙が流れる。


「「あのっ……」」


 同時に喋り出してしまった。


「な……に?そっちから」

「あ、いや、晴翔からどうぞ」


「や、俺は大した話でもないし……」

「それを言ったら私も大した話じゃ……」


 お互いに譲り合って話が進まない。その様子に、拭き出してしまった。晴翔も可笑しいと思ったのか、笑っている。晴翔のこんな顔をみたのはいつぶりだろう。しばらく2人で笑いあった。

 笑いあっていたら、ドンッという音がした。花火だ。2人で上を見上げて花火が上がるのを見た。結局会話はあまり成立しなかったけれど、空気は柔らかい。

 ……それにしても、好きな人と一緒に花火見上げるって凄い幸せだな。青春って感じで。まぁいいか。作り物でも。今確実に幸せだし。どうせ主人公を好きになるって分かってるけど、今だけは彼との時間を共有出来ている。

 上を見上げている愛しい幼馴染を盗み見る。花火が空で咲く度に明るく照らされる晴翔がとても恰好良い。思わずニヤけた。ふふ、幸せだなぁ。

 今度は花火を見つめる。これが最後の晴翔と過ごす夏休みになるんだろう。来年は、きっと主人公が入学してくる。それまでは、この幸せを噛みしめよう。




 夏休みが終わる前に、晴翔とは何度か会うことになった。図書館で、翼と晴翔の勉強を教えてあげる為だ。その度に必ずと言って良い程水無月海斗くんがいる。流石『図書館の君』、ブレません。


「これ、透。これ何?」

「ああ、これはさっきの公式を代用するんだよ。さっき使ったやつだよ」

「まじで」


 ぼんやり攻略対象者を見つめていたら、これまた攻略対象者に問題を聞かれて答えてあげる。私の周り攻略対象者多いなぁ。会長、晴翔、翼……今見ている水無月。日向先輩は保健室でたまに見かける程度だけど。会長、晴翔、翼。3人と多く接触している。まぁ晴翔に関しては私が晴翔の幼馴染キャラで、ライバルキャラだからなんだけれどね。生徒会入りも設定通りだ。

 晴翔の生徒会入りはどうなるのかな。私が晴翔を誘うような事はしないからな。晴翔が生徒会入りしなければ、ルートとかが変わるかもしれないな。まぁ、それは私も見てみたい展開ではある。というか、ライバルキャラである透の口調ってどんなんだったかな……もっと高飛車だった気がする。晴翔は私の事を好きでいてくれる!という無駄な自信があったな。馬鹿だなー。


「ぐう……」


 あ、翼が寝ている。疲れているのだろう。バンドは結構体力いるし、勉強で精神の方も疲れるのだろう。だが、今は私が勉強を教えられる数少ない機会なので起きて貰おう。

 取りあえず金髪ワンコの頭を撫でよう。髪に触れると、良い香りがして、ふわふわした手触りがした。うわ、わんこだコレ。ずっとナデナデしておきたい。なにこれ凄い。


「……あれ。これどういう状況?」


 わんこが起きて眠そうな目で首を傾げている。可愛いなこの人。翼がとある所に視線を向けた途端サッと顔が青ざめた。


「ひっ!?」

「?」


 翼が視線を向けている先に私も視線を向ける。だが、その先には真剣に勉強をしている晴翔しかいない。きょろきょろと他を見回してもそんな風に青ざめる原因が見当たらない。


「す、凄いや。眠気が全部とんだよ……ははは」

「……それは良かったな」


 虚ろな瞳を漂わせて乾いた笑いを漏らす翼に、晴翔が労いの声を掛けていた。眠気が飛んだなら、勉強も捗るだろう。でも、そんなに震えるって……何か怖い夢でも見ていたんだろうか?

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