9 翼
今回も若干シリアス……。
そして、幼少期最後の話。
8月9日誤字脱字修正。
あとがきも見てね。
目が覚めると、見慣れたような、初めてのような天井。
あぁ、ここはおそらく……。
「病院」
「!?っ翼ちゃん!起きたのね!」
その声とともに母が瞳を潤ませて覗き込んできた。
「翼!」
「おねえちゃん!」
兄と弟も覗き込んできた。弟は背が足りないのでベッドに乗ったようだ。やたら近い。
「翼……」
声のした方に顔を向けると、父が心配そうにこちらを見ていた。……無表情だったが。
「覚えているか」
何を、とは聞かなかった。
ちゃんと、覚えている。何が原因で気を失ったのかも……。
「なら、はっきりと言おう」
父はどっしりと椅子に座り、腕を組むと、かっと目を見開いた。
「子どもがいて、不幸に思う私たちではない!」
大声に子ども三人はビクッと飛び上がる。
その様子に少し気まずい顔をしてゴホン、と咳払いをすると、先を続けた。
「世の中にはいく億もの人がいる。中には、子どもを疎ましく思うやつもいるだろう。しかしそいつらは、真の親になりきれていない子どもだと、私は思っている。子が大人になるまで見守るのが親の務め。真の親なら、子どものことを、疫病神などとは決して思わん!」
そこで唐突に、父は座っていた椅子から立ち上がり、私を見下ろした。
「だから、そんな顔をするな」
そんな顔とはどんな顔だろう。
「……翼ちゃん、今、迷子の顔してるわ」
母を見た。いつもはふわっとした明るい笑顔を浮かべているのに、今は何もかも見透かすような瞳で私を見据えていた。
「気づいてた?翼ちゃんはときどきそんな迷子になった子どものような目をしているの。とくに、みんなで食事をしているときや、遊んでいるとき。まるで、『ここはどこ?』とでもいうように」
気づかなかった。
母がそんなに鋭いだなんて……。
「――なんかちょっと失礼なことを感じたような気がしたけど……。続けるわ。翼ちゃん、あなた――――」
あなたの名前は?
「わ、たし、は……」
何だろう、思い出せない。
私は……私の名前を、思い出せない。
「分からない?」
素直に頷く。すると、母はベッドの上に乗り、私を抱きしめた。
「なら、あなたの名前は今日から“翼”よ」
「つばさ……」
「そう。あなたが生まれてくる瞬間、聞こえたの」
母はぎゅっと腕に力を入れた。
「『もっと自由に!自由に!』って」
自由に――――。
それは私の最後の願い……。
「そして、泣き声を聞いた瞬間、あぁ、この子はやっと自由になれたんだ。自由になるための翼を手に入れたんだ……。そう思ったの。だから、“翼”」
腕の中から母を見上げる。
母はいつものふわっとした明るい笑顔。
どこまでも優しい、“お母さん”
「自由になって、翼。あなたはもう、飛べるはずよ」
……そうだ。私はもう「 」ではない。
私を縛るチューブはもう、ないのだ。
この足は地面を走り
この手は物を掴み
この目は美しい景色を見て
この口は美味しいものを感じ
この耳は音を拾い
身体すべてで、感じることができる。
「う、う、うわあああああああああああああああん!!!!」
私は泣いた。
初めて体を動かしたあの日のように。
今度は新しい“自分”を手に入れるよおに。
泣き疲れて眠ったあと、私は前世両親の夢を見た。
両親は前世の私と一緒にいた。
私は両親と楽しそうにしていた。両親も幸せそうに笑っていた。
……そっか。私はもう、私ではないんだね。
私はもう、自由だから。
翼を手に入れたから。
だから、さようなら。
三人が幸せで本当によかった――――。
幼少期最後の話でした。このあとはやっと高校生!やっっと恋愛が入る……。
※※※※※事件の顛末
病院にいたとき、事情聴取に訪れた刑事に事の顛末を聞いた。
編集の女性は失神状態で見つかり、そのまま逮捕。女性が倒れていた周りには無数の刀傷があったという。しかし女性は無傷。
……なにした、父よ。
誘拐犯の男二人は壁に貼り付けにされて発見されたようだ。それ以外は無傷だったが、男達の周りには銃弾が落ちており、すべて真っ二つに切れていたらしい。
ほんと、なにした!父よ!!
ちなみに、私が拘束を抜けたのは簡単なこと。
身体の前でガムテープで縛られていたら、簡単に口に手が届くし、その後歯でかみちぎれば簡単に自由になれる。ほんと、うかつな男たち……。
ちなみにちなみに、天井に上ったのは、単に梯子を使いました。
終了!