番外編 ソラ 後編
兄視点最後!
父さんからの連絡を受け、俺たちは病院に向かった。
夜の病院には人がおらず、俺は息を殺すようにして病室まで小走りに走った。
そして、病室を見つけると、思わず全速力で駆け寄り、思いっきりドアを開けた。
「翼!」
中に入ると、個室のベッドに翼が寝ていた。
多少整えられていたが、髪はボサボサで、白い顔がもっと白く見え、生気がなかった。
「背中の打撲と膝の怪我。膝の怪我はもしかしたら軽く跡が残るかもしれんそうだ。それ以外は掠り傷のみ。明日には退院できる」
椅子に座って腕を組んだ父さんが静かに言った。
その言葉に母さんは安堵したように父さんに寄り添い、大地は翼の手を握った。
俺は翼の枕元に近寄った。
顔を覗き込むと、頬にうっすらと切り傷がヘッドライトに照らされて見えた。
あの、白くて綺麗な肌に、傷をつけてしまった……。
俺が携帯を落とさなければ、こんな痛い思いをさせずにすんだのに。
傷が残ることもなかったのに……。
拳を固め、後悔に俯く。
「病院」
「!?っ翼ちゃん!起きたのね!」
よかった。目を覚ましてくれた。
ほっとしたのも束の間、翼は心にも傷を負っていることを知った。
それを癒したのは両親の言葉。
翼がこんなに泣くのを見たのは、生まれたとき以来。赤ちゃんの時にも、滅多に泣かなかった。
だからかな。翼はまた産まれたのだと思った。
俺たちの家族として。
「父さん、俺に稽古つけてください」
元気になった翼と一緒に帰った翌日(夜は病院に無理やり泊まった。看護師の額に青筋が見えた)、俺は道場で父さんに土下座をして言った。
「……駄目だと言わなかったか?」
「俺が教えてほしいのは殺陣や剣道じゃない」
俺は顔を上げ、父親を見据えた。
「合気道だ!」
父さんの眉がピクリと動いた。
「殺陣や剣道は正直俺には合わない。道具はうまく使えるだろうけど、体力が続かない。だから、最小限で相手を倒せる合気道をやりたい。父さんは日本の武道はほとんど習ったことがあるって、母さんが言ってた!」
それに、と一泊置いて続けた。
俺の、覚悟を。
「俺は将来、医者になる。医者になって、色々な傷を治してやりたい」
「……翼のことか」
俺は頷いた。
「動いていれば、少なからず怪我をするのは当たり前だ。だけど、女の子の……翼の肌に傷がつくのは、やっぱり嫌だ!」
俺の覚悟に、父さんは目を閉じ、静かに聞いている。
「本当は、父さんの顔の傷も治してあげたいけど、母さんが『男前度が三割上がった!』とか言って喜んでたからやらないけど……。翼や大地、母さんの傷は俺が治してあげたい」
『翼のこと、守ってね』
俺は身体を張って守ることはできない。
だから……。
「動くのが大好きな翼が怪我しても安心できるよう、医者になって翼を守る!!」
俺は身体を張って守ることはできないけど、この頭脳がある。手先も割と器用だし、医者として翼を守って生きたい。
だけど、医者だって体力を使う。だから、合気道。
「合気道だって、体力を使うぞ」
「知ってる。だけど合気道はほとんどが間接技だ。医者を目指すものとして、その知識で相手の弱点をつける」
襲ってきた相手から身を守るための武道。だから最小の動きで最大の効果がでる。
俺にぴったりの武道だ。
俺は父さんをじっと見つめた。
俺の覚悟は伝えた。
父さんは俺をじっと見つめると、やがて立ち上がった。
駄目だったのか……。
落胆しかけた、その時
「使い物になるまで、長い時間がかかるぞ。それでもいいなら、着替えてこい」
「!」
父さんは認めてくれた。
そのことが、俺自身を認めてくれているように感じ、嬉しかった。
「ありがとう、父さん!」
「敬語を使え。それから、稽古の時は父と呼ぶな」
「ありがとうございます、師匠!」
翼――――。
怪我したら俺が治すから、目一杯自由に飛んでほしい。
これが俺の、翼の守り方。
書いているうちに、「兄は将来フェミニスト」と思いました。
もっとかっこいいキャラになるはずだったのに、なぜ……。
これにで、番外編はおしまい。
次回からは翼が高校生になります。やっと恋愛が書ける!
ちなみに、合気道のことについては自分のイメージです。
まぁ、一応習っているので多少はあっていると思いますが、「こんなんじゃねぇよ!」という方、いらっしゃいましたら、感想にお書きください。
高校生編では、更新がゆっくりになります。あまりお待たせしないよう、頑張ります。
最後に、誤字脱字、感想、質問、文句などありましたら、お気軽にどうぞ!




