14 幸せを君に
最終話となります。
どうぞよろしくお願いします!
最初は不思議な人間にただ興味を持っただけだった。
他にない特性を持った存在に、ライナスの研究心がそそられた。
共に生活をしシエラという人間を知るうちに、シエラそのものにも興味を持った。
貴族令嬢でありながら日々の雑用を器用にこなしていく姿、突然与えられた治療院という仕事にも一生懸命に応える姿、植物の声を聞き涙を流す優しさ……
そこまで考えて、ライナスはふとシエラと出会う前のひとりで暮らしていた時を思い出す。
なんだか寂しく味気ない気がした。
シエラのことを考えただけで心があたたかくなる。
ライナスはひとつ溜息をつき、ひとり納得した。
—————
翌日、シェスカが家を訪ねてきた。
お互いに泣きながら無事を確認した後、シェスカに町へ招待された。
町の人達の顔を見たいと思っていた私は、早速町へ向かうことにする。
森の道を、シェスカとライナスさんとダレルさんと4人で歩く。
しばらくして森を抜けると、町の広場の方がなんだか賑やかだ。
不思議に思いながら近付くと、まるでお祭りのように屋台とテーブルが並んでいる。
驚いてあたりを見渡していると、私達を見つけた町長さんが笑顔で走りよってきた。
気付いた町の人達も集まってくる。
「シエラさん!!無事でよかったよー!おかえりなさい!」
「ご心配をおかけしてすみません。ただいまです」
私はぺこりと頭を下げた。
周りを囲んだ町の人達も、口々に「おかえり」「良かった」と笑顔を向けてくれる。
幸せだなぁ。
そう思ってみんなの顔を見渡す。
そこでふと町の様子がいつもと違うことを思い出した。
「そういえば、みんな集まってるけど今日は何かあるんですか?」
「シエラ、今から冬祭りをしよう!」
「え!?でも冬祭りの日は過ぎちゃってるんじゃ……」
そう、私の意識が戻らない間に今年の冬祭りの日は過ぎてしまっていた。
後からそれを知ってすごくがっかりしたのはつい昨日のことだ。
「町のみんなで相談して、シエラさんが帰ってきたらやろうって決めてたんだ。シエラさんはもうこの町に欠かせない人だからね」
私はびっくりしてみんなを見る。
みんなの笑顔がだんだんと涙で歪んでいき、私は耐えきれず両手で顔を覆って泣き出してしまった。
そんな私の頭を、ライナスさんがいつものようにぽんぽんとしてくれる。
「それじゃ、冬祭りかーいしー!!」
ダレルさんの元気な声と共に、空に魔法の花火が上がる。
「シエラ、お帰り!また今年もよろしくね!」
「うん、こちらこそよろしく!!」
私は満面の笑顔でみんなに伝えた。
こんなに幸せなことってない。
みんなと飲んだり食べたりしているうちに、辺りはすっかり暗くなってしまったが、町はまだ賑やかだった。
ダレルさんの花火は暗くなってからが本番だったのか、絶え間なく打ち上がっている。
子供達も大人達もみんなが花火を見て、顔を綻ばせていた。
うん、めちゃくちゃ綺麗だ。
ふと私はライナスさんの姿が見えないことに気がついた。
ライナスさんを探して広場の喧騒から少し離れると、森へ続く橋の上でひとり花火を見上げるライナスさんがいた。
私は小走りでライナスさんに近づく。
「こちらにいらっしゃったんですね」
ライナスさんは私に目を向けると、隣へ来るように手招きする。
こうして2人になるのもずいぶん久しぶりな気がした。
「ダレルさんの花火、綺麗ですね」
「あぁ、君に見せるために張り切っていたからな」
「そうなんですか?ふふ、嬉しい」
私は笑顔で花火を見上げる。
今世で初めて見る花火を、ライナスさんと一緒に見れることが嬉しかった。
「君は……」
ライナスさんが小さく呟いた声を聞いて、私は視線を花火からライナスさんへ移す。
ライナスさんは言いずらそうに眉間に皺を寄せていた。
私は首を傾げつつ、ライナスさんの次の言葉を静かに待った。
「もう君は自由になった。これからどうしたい?」
「私はこのままこの町で暮らしていきたいです。治療院を続け、大好きな町の人達の役に立ちたい」
ライナスさんの質問に、私は迷いなく即答した。
この町が、町の人達が本当に大好きなんだ。
今更この町を出ようなんて考えもしなかった。
ライナスさんが手を差し伸べてくれた今を、手放したくなかった。
「そうか……ならば、このまま私の家で私と共に暮らさないか?」
「え、良いのですか?」
私は驚いて聞き返してしまった。
これからはちゃんと町の一員になるのだから、家を探さないとと勝手に思っていた。
「もちろんだ。君が嫌でなければ、私と共にいて欲しい」
「え……な、なんだかそれ、プロポーズみたいですよ!」
「そのつもりだ」
動揺を隠すようにあえておどけて言ったのに、ライナスさんの返事を聞いて私の思考は真っ白になってしまった。
どどどとうしよう。
一拍置いて意味を理解してきたら、嬉しいと恥ずかしいがごちゃ混ぜになって襲ってきた。
ライナスさんはただ静かに私を見つめている。
私は一度俯き、両手を握りしめて深呼吸する。
「ライナスさんさえ良ければ、ずっとお傍にいさせてください」
勇気を振り絞って言葉にすると、ライナスさんから安堵のため息が聞こえる。
私はそろそろと顔を上げ、ライナスさんの様子を伺った。
ライナスさんはそんな私を優しく見つめ、おもむろに頭をぽんぽんする。
そしてそのまま包み込むように抱きしめられた。
私は呼吸するのも忘れて、自分の煩い心臓の音を聞いていた。
—————
翌朝、突然ダレルさんが帰るというのでお見送りのために庭に出ていた。
少し寂しいななんて思っていると、ダレルさんがこちらを向いた。
「いやー思ったより長い間お世話になっちゃったね!楽しかったよ、ありがとー!それにさ、シエラちゃんとライナスも落ち着いたし……あ、これ、俺が恋のキューピットになったんじゃない!?えーそうだよね?絶対にそうだ!!いやー嬉しいなぁ!!」
ダレルさんはいつもの調子で喋り続けている。
私は思わず顔を真っ赤にしてダレルさんを睨みつけた。
さっきまでの寂しい気持ちを返してもらいたい。
「さっさと行け」
「さようなら、ダレルさん」
「え、ちょ、ヒドくない!?」
ムスッとするライナスさんと慌てるダレルさん。
私は思わず声を上げて笑ってしまった。
「でもまぁ、本当に嬉しいんだよ。ライナスをよろしくね、シエラちゃん」
そう言ってダレルさんは手を振りながらふわっと魔法で消えた。
私はダレルさんが消えた場所を眺めながら、小さな声で「もちろんです」と応える。
ライナスさんがそっと私の頭を撫でてくれた。
あんなに嫌だった生活から、今こんなにも幸せに暮らせるようになった。
それもこれも、全てはあの時私を助けてくれたライナスさんのおかげだ。
私はありったけの想いを込めてライナスさんを見上げる。
「ライナスさん、愛しています」
そんな私に、ライナスさんは眩しいものでも見るように微笑んだ。
樫の木や2頭の馬達、他の植物達に見守られながら、私達の影はそっと重なり合った。
完結いたしました!
拙い文章を見てくださり、本当に、本当にありがとうございます!!




