第十話「卵が来た」
二匹でいた。
草原にいた。
その蛇は、遠くから来ていた。
自分も、遠くから来ていた。
どこから来たかは、分からない。
しかし、遠かった。
二匹で、草の間を這った。
その蛇が先を行くことがあった。
自分が先を行くこともあった。
川を渡った。
二匹で渡った。
その蛇は、泳ぎが速かった。
自分より速かった。
危ないものが来た時、二匹で低く這って、草の間に隠れた。
息を止めた。
体が触れていた。
その蛇の体が、温かかった。
脱皮した。
その蛇が、傍にいた。
皮が途中で引っかかった時、その蛇が体を押しつけてきた。
脱けた。
一人の時より、早く脱けた。
秋になった。
ある朝、その蛇が動かなかった。
石の下にいた。
腹が、大きかった。
傍にいた。
何もできなかった。
ただ、傍にいた。
時間がかかった。
長い時間がかかった。
卵が来た。
小さかった。
白かった。
丸かった。
いくつも来た。
石の下の、暖かい場所に、並んだ。
その蛇が、卵の上に体を巻いた。
温めた。
傍にいた。
自分も、傍にいた。
外から来るものを、見ていた。
危ないものが来たら、出ていくつもりでいた。
秋の光が、石の上に当たっていた。
卵が、そこにあった。
その蛇が、温めていた。
自分が、傍にいた。
どこから来たか、分からなかった。
どこへ行くか、分からなかった。
しかし、今ここにいた。
山を越えた。
川を渡った。
沼を抜けた。
野原を越えた。
森を抜けた。
ここへ来た。
卵の中に、次が来ていた。
春になれば、出てくる。
光が当たれば、這い出してくる。
また、始まる。
石の下で、卵が温かかった。
その蛇の体が、温かかった。
秋の光が、温かかった。
それで、十分だった。
(第十話 了)
鱗の唄――ある蛇の冒険 完




