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歴代最強聖女、厄介ごとに巻き込まれたくないので 能力を隠して生きていきます  作者: 月代
続編②   新たな脅威と、ふたりの剣

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ヴォルドの領域

国境を越えた先に、荒れた大地があった。


草も木も枯れていた。空気が重く、魔力の歪みが肌でわかった。鳥の声もなく、風だけが吹いていた。


「……嫌な場所ですね」


「ヴォルドの影響が及んでいる。長居するほど消耗する。早めに動こう」


ガイウスが先頭を歩きながら「ここはヴォルドの影響圏だ。魔力を抑制しないと感知される」と言った。


「わかっています」


指輪を嵌めて、魔力を絞った。久しぶりの感覚だった。でも、もう「隠すため」じゃない。戦略として絞っている。それだけで、心持ちが違った。


「エミリア、聖力の気配は消せるか」


「最小限にします」


「頼む」


四人で静かに進んだ。


道中、死者の魔物が現れた。かつて生き物だったものが、黒い魔力に動かされていた。目に光がなく、動きが不自然で、倒しても「ありがとう」という気持ちになれなかった。


レオンが剣で切り開いた。エミリアが聖力で浄化した。ガイウスが結界を張った。私は通路を確保しながら進んだ。


四人の動きは、話し合わなくても噛み合っていた。


……こういうものなんですね。

信頼している人と並ぶと、背中が軽い。


二度目の魔物の群れを抜けた後、エミリアが少し息を乱していた。


「大丈夫ですか」


「……少し消耗しました。でも動けます」


「無理しないでください。あなたの力は後半の方が重要になります」


「わかっています。計算して使っています」


……エミリアさんは、こういうところが頼もしいです。

感情で動かずに、状況を見ながら力を使える人です。

ガイウスが「水を飲め、全員」と言った。渋くて不思議な味がしたが、飲んだ後で体が少し軽くなった。


「何を飲ませたんですか」


「魔力回復の補助薬だ。アリアの作った薬草薬に似たようなものだよ」


「似たようなもので済ませないでください」


「細かいことは気にするな」


……信用してはいますが、成分は後で確認します。

ヴォルドの根城は、半壊した古い塔だった。


塔の前でガイウスが立ち止まった。


「ここから先は、私でも一緒に入れない。聖力と魔力が干渉するため、私が入ると無効化されるおそれがある」


「では、外で待ってくれますか」


「頼む。ただし——」ガイウスが私を見た。「アリア。ヴォルドは聖力を吸収しようとする。力を出しすぎると、逆に力を奪われる可能性がある」


「……どれくらいが適切ですか」


「常に七割。余力を残して戦え。最後の一撃だけ全力でいい」


「わかりました」


ガイウスが私の肩に手を置いた。


「……君ならできる。百年間、この日を待っていた」


……百年間待っていた、というのはどういう意味なんでしょう。

後で絶対聞きます。

レオンが私の隣に立った。


「行くか」


「行きます」


エミリアが「二人とも、気をつけて」と言った。


「エミリアさんも」


「外は任せてください」


塔の扉を押した。重い石の音がした。


入った瞬間、空気が変わった。外とはまったく違う、重く冷たい空気だった。


……これが、百年間の魔力の蓄積なんですね。

濃い。とても濃い。でも、不可能ではない。

扉が閉まった。外のガイウスとエミリアの気配が少し遠くなった。


「……行きましょう」


「ああ」


最初の層は静かだった。ただ暗く、重い空気が漂っているだけだった。


「……何かいますか」


「上の方に気配がある。今は静かだ」


レオンが低く言った。剣の柄に手がかかっていた。


私も指輪を嵌めたまま、周囲の魔力の流れを読んだ。ガイウスの言った通り、魔力を感知しながら進む必要があった。


……七割。常に七割。

出しすぎない。でも、足りなくなっても困る。

「……二層目から魔物が出ます。気をつけてください」


「わかった」


「私の指示に従ってもらえますか。戦い方の手順があって」


「言ってくれ。従う」


……この人は、こういうとき素直に従ってくれます。

自分のやり方を通したがる人は多いのに、この人は「言ってくれ」と言う。

だから信頼できます。

「まず魔物が来たら、あなたが前に出て切り開く。私はその間に進路の確保をします。二体以上同時に来たら私が一体引き受けます」


「わかった」


「エミリアさんがいないので、浄化は私がやります。ただし消耗するので、こまめにやります。一気にやろうとしないでください」


「……俺に指示があるとは思わなかった」


「何かありますか」


「ない。従う」


……この人は、強いのに素直に人の言葉を聞きます。

それが、なぜか一番かっこいいと思います。

「……行きましょう」


「ああ」


二層目への石段を上り始めた。重い空気の中を、一歩一歩確かめるように進んだ。


魔物が現れた。一体、また一体。レオンが剣で払い、私が浄化した。計画通りに動いた。


「……うまくいってますね」


「ああ」


「聖力、まだ余裕あります」


「そうか。無理はするな」


……この人は、戦いの最中でも「無理するな」と言います。

ありがとうございます。でも、あなたこそ無理しないでください。

……お互い様ですね。

三層目へ上がる石段の前で、少し止まった。


「……行けますか」


「行ける」


「では、行きましょう」


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