大変身! 2
「やっほう、そうくん」
開口一番、聞こえてきたのは俺を呼ぶ声。
俺のことを甘い声で「そうくん」と呼ぶ人間はこの世に一人しかいない。
「ナギちゃんさ、なんでいるわけ?」
俺がそう言うとわざとらしく泣き始める。
「ひ、ひどい。せっかく来てあげたのに」
「暇なときしか来ないじゃん」
「部活の顧問として一生懸命に頑張ってるのにっ」
一束の三つ編みでハンカチ代わりに顔を拭く。
「そもそも、部活の顧問なんて面倒だから、暇な部活の幽霊顧問になりたいって言ったのナギちゃんだろ」
「なんなのもう。そんなこと言うならナギちゃんは顧問なんてやめちゃうぞ」
頬を膨らませるナギちゃんに、どうぞどうぞなんて言ったら正面に座る団長様が怒りの限りを尽くすのだろう。
若井凪子教諭は彼女が言う通り我らが部活の顧問なのだが、特にやる気などなく、たまに遊びに来るくらいだ。趣味に勤しむためにできるだけ放課後の時間を大切にしたいようで、面倒ごとを押し付けられる前にこの部の顧問になることを選ぶ。
NDDの活動に特別顧問は必要ない。地元のことを喋っていればいいだけの部活であっても、おかざりは必要だから千紗都が懇願した。
郷土研究部という、教養的に支持される部なものだから、ナギちゃんはかなり快く顧問を引き受けてくれた。
「私は、地元を愛する彼らの強い味方でありたいと思います」
なんて他の先生に言ったときには、開いた口が塞がらなかった。
教務室でのナギちゃんの姿とは一体どうなっているのか気になって仕方ない。
「ごめんって。謝るから許してよ」
「まったく、そうくんは年上に対する礼儀がなってないよね」
年上の威厳を見せてから言って欲しい。
席に着いたところでまだ全員揃っていない。二年生以外がいないのである。
「亘希さんはまだか?」
先に来ていた千紗都に訊く。
「副団長は先生と話があるって。ニーナはわからないわ」
「ああ、仁菜ちゃんとはそこで会ったけど、先生から頼まれごとを任されてた」
亘希さんも日直だとかそういった類だろう。
それに比べて俺は仕事もなく、赤点の補修。
「なによ、人の顔をじろじろ見て」
「なんでもねえよ」
千紗都は赤点なんて取らねえんだろうな。
話を振ろうと思ったが、ナギちゃんは壁際のパイプ椅子でスマホゲームに興じているようだった。
隣の安寿香は暇そうにヘラを回している。
「なあ、安寿香」
「なんや?」
ヘラを回し続ける彼女はこちらに一目もくれない。
「ヘラなんて回してなんの意味があるんだ?」
回るヘラが音もなく止まる。
安寿香が俺をじいっと見つめる。
「これはな、あれや。ペンを回すのと同じようなもんや。なにかに集中したいとき、心を落ち着かせるときにやるんや」
「つまり暇なんだよな?」
「暇言うなや」
「お前さ、昨日どんな夢見た?」
「……蒼介もかなり暇そうやな」
「俺はスカイツリーから東京タワーを見下ろしていたぜ」
「くだらん欲望が滲み出とるなあ」
「そういう安寿香はどんなんだよ?」
「ウチはその、アレや」
安寿香はどもった。
「どれだ」
「そのな、フリフリなドレスを着て社交界に……」
「前々からだけど、安寿香って結構夢見がちだよな」
「夢の話やろ!」
安寿香は机をバンバン叩く。
すると不気味な笑い声が部室の端から聞こえてくる。
「住吉さんはドレスを着たいのね――フフフ」
ナギちゃんの眼鏡の奥の瞳が歪な形をしている。
「蒼介、なんか先生が不気味な笑い声を出しとるけど大丈夫なんか?」
「ナギちゃんが不気味なんてよくあることだろ」
ある意味怖いそこの教師は無視する。
「それでも社交界って夢に見ることあるのか?」
俺は人生で一度もないな。
「たまたまテレビをつけたらそういうのやっててん。それが夢に出てきただけやろ」
憧れたから出てきたんじゃないのだろうか。
喉まで出かかったその言葉を飲み込む。
安寿香は上気させた頬を隠すようにそっぽを向いた。
「もっとチャンネル数が多ければ別のをみとったわ」
「おい」
俺も詳しく知らないが、大阪の方が新潟よりテレビのチャンネル数が多いらしい。大阪のテレビ局や京都のものも映る、との安寿香談。
安寿香もケンカを売るのは勝手だが、俺を巻き込むのはやめてほしい。
覚悟を決めて彼女の怒声を待つ。
「ちょっと安寿香!」
「はっ!」
千紗都が叫ぶがそれには目もくれずに対面を眺める安寿香。
その動きに俺と千紗都は首を傾げる。
「どうした?」
「ふう、東京モンがおったら『東京はもっと多いけどね』って言われるところやった。危ない危ない」
安寿香は額の汗を拭って息を深く吐いた。
「お前、結構小心者なんだな」
「そんなんちゃうわ!」
「あと、さり気なく言ったお前の標準語はよかったぞ」
「発音を褒められても嬉しないわ」
「いや、標準語で喋る大阪の子は可愛いという意味だけど」
「へ?」
安寿香は汽笛が鳴りそうなくらい頬を赤くする。本当に褒められるのが苦手なやつだ。
「あんたも中々ね」
千紗都は呆れた様子だった。
「本当は東京じゃなくて大阪好きなんじゃないかしら」
大阪は嫌いじゃないけど、東京の方が好きだが?
「あのお邪魔でしたか?」
いつの間にか部室に入って来た仁菜ちゃんは面子の顔を見渡す。
「また阿久津先輩ですか?」
仁菜ちゃんの言うことがよくわからない。だが、千紗都とナギちゃんは揃って頷いた。
「え、なにが?」
「あんたが馬鹿って話よ」
「絶対に違うだろ」
仁菜ちゃんは自分の定位置ではなく、俺に近寄った。
彼女は鞄から取り出した四角い箱を両手に抱える。
「なにかな?」
「あの阿久津先輩、よかったら」
その四角い箱を突き出す。
「お弁当、食べてくれませんかっ?」
仁菜ちゃんは体を震わせながら弁当箱を差し出す姿勢を維持する。
「弁当やて!」
安寿香は叫ぶと俺の肩を前後に揺らす。
「どないなっとんねん!」
「俺が知るか!」
突然の好感に戸惑っているのはお前だけじゃねえよ。
「蒼介が女子から弁当もらえるなんて、大阪駅前の信号を、歩行者全員が青になるのを待ってから渡るくらいないことやで」
信号が青になるくらい待てよ。
「って、そうじゃねえよ。あるわ。俺だって女子から弁当もらうくらいあるわ! っていうか、去年お前から『買いすぎたわ。蒼介、これ食べへん?』って菓子パンをもらったわ!」
「え、ウチが蒼介に……」
安寿香はマラソンを終えたようにヘロヘロになって椅子に座る。
俺は困った様子の仁菜ちゃんに向き直る。
「いいけど、どうしたの?」
と冷静さは保ちつつ、心の中では仁菜ちゃんから弁当をもらえた喜びに打ち震える。千紗都や安寿香ならわかるけど、あの仁菜ちゃんからなにかもらうことなんてある?
「色々ありまして……」
「まさかニーナ……」
安寿香が呟くと仁菜ちゃんは首を振った。
「違います! 住吉先輩が思うようなことは絶対にないです!」
「そう、なんか」
ほっと一息つくが、安寿香はすぐさま興奮する。
「って、ニーナの思うようなことってなんや!」
「なんでもないです!」
仁菜ちゃんは逃げるように対面の机へと避難する。
だが、安寿香より怖ろしいものがまだいる。
仁菜ちゃんが席に着いたところで俺の視界に化け物が姿を現した。ナギちゃんは両手を広げ、仁菜ちゃんを抱きしめる。
「え、若井先生?」
「待ってたよ、太刀川さん。もうほんと、前世から待ってたんじゃないかってくらい」
「ええっと、これはなんですか?」
仁菜ちゃんはナギちゃんの腕から抜け出そうとするが、中々上手くいかない。
「あたしたちも知らないわよ」
「さてさて、じゃあ、どうして今日に限って私がここにいるのか、発表致しましょう!」
ナギちゃんは仁菜ちゃんをばっと離すと、ホワイトボードになにやら書き始める。
「ダララララララ」
ドラムロールを口ずさみ、ナギちゃんが書いたものを読む。
さっぱりわからん。
正直なところ、ナギちゃんへの興味はまるでなく、俺はきれいに入れられた弁当の数々に舌鼓を打った。
しかもこれ、箸が普段仁菜ちゃん愛用のものだ。たぶん洗剤で洗っているとはいえ間接キス……。
「え、凄い」
千紗都だけがなにやら反応する。
変態的な発想がばれると横二名から叩かれるのは必須。仕方なく話に混ざろうとするが、説明書きされても意味不明だ。
「安寿香、わかるか?」
「わからんわ」
「だよな。仁菜ちゃんは?」
「えっと、ゲーム、の話でしょうか」
レベルとあるからそれっぽい。
「はい、みなさんお聞きください!」
ナギちゃんは手を叩く。
「なんとわたくし若井凪子。とうとうGPNのレベルが二百に到達しました! 祝! パチパチパチパチ」
ナギちゃんは自分に拍手を送るが、どう反応していいのかまるでわからない。
「ほんとですか?」
「本当なの。柳瀬さんのその反応、昨日の夜からずっと楽しみに待ってたの」
授業の準備でもしてろよ。暇人か。
今にも踊りそうなナギちゃんはなにかの音楽を口ずさむ。
「ナギちゃん、お前の夢の中にいるんじゃないか?」
「ウチの夢の話はやめーや」
ナギちゃんに訊いてもウザいだけだろう。
「それで千紗都。GPNってなんだ?」
「GPNっていうのは――」
「ええっ!」
ナギちゃんは机を大回りして俺の真横まで詰め寄り、その華奢な体のどこにあるのかというくらいの力強さで俺の両肩を握り締める。
ナギちゃんの荒い息が顔に吹きかかる。
「GPNだよ! ゴッド、プリンス、ナイツだよ! 甘くセクシーなボイスを囁く豪華声優陣、神々しい輝きを放つイラスト、それは読ませるのではなく感じさせるシナリオ。アニメ化まったなしの、なにからなにまで神レベルの日本、ううん、世界の女の子たちを虜にするゴッドプリンスナイツだよ! 古の神々が私の騎士になってくれるんだよ! そうくん知らないの!」
知らねーよ。
決して口には出さないが、大きく揺れるナギちゃんのおっぱいにしか目が行かない。初めてナギちゃんと会ったとき、この世には本当に巨乳という人種がいることを知った。
おかげで話が半分くらいしか入ってこない。
「ゴッド……なんだったっけ? GNP?」
「それじゃ国民総生産だよ……。G、P、N! ゴッドプリンスナイツ! 神々の殿方たちが私たちの騎士として仕えてくれるの! 毎日お世話までしてくれるの!」
王子の要素はどこにいった。
ひとまずナギちゃんの頭頂部に手刀を食らわす。
「大人しく」
「いーたーい、いーたいよ、イタイイタイ」
涙を隠すように両手の指を目元に添えているが、どうして頭頂部を抑えないのだろう。
非常に面倒な人柄に嫌気がさした。
「わかったから。とりあえずナギちゃんはそのゲームでレベル二百に到達したじま――報告をしにきたのな」
「自慢って言いかけてやめたのは見逃すけど、そうなの。レベルが二百になったの」
「はあ、そうですか」
きっと先生に俺が今やっているゲームのレベルが五十になったのを言っても「ふーん」で終わるんだろうな。逆もまたしかり。
NDDの活動に積極的でない俺ですら、今日は部活動を始めたいと思えるところだ。亘希さん、早く来て。
「ねえ、柳瀬さんはどうなの?」
「あたしはレベル六十です」
「あーん、まだまだだね」
もし千紗都が一生懸命やっての六十なら、絶対にイラっとする。俺ならイラッとする。というか、他人事を聞いていてすでになにかがキテる。
「私のミカくん。ずっと一緒だから、ね」
スマホにキスし出したよこの人……気持ち悪いな。
「で、ミカくんってなんだ?」
自分に酔いしれているナギちゃんは無視し、千紗都に訊いた。
「さっき先生が言ったとおり、神々がキャラクターとして描かれているの。先生の推しキャラが天使のミカエルなのよ」
「あー、ミカエルだからミカくんね」
「このゲームの神々ってまだちゃんとした神様になれていない設定なのよ。最後の試練として人間の女の子の騎士として努められれば神様として認められる。だから神様見習いとしてプリンスと呼ばれているの」
千紗都の説明の方がはるかにわかりやすい。
「プレイする醍醐味だけど、キャラの名前は神様としての名前だから、ミカエルとかは本名じゃないの。絆レベルが上がると彼らの真名――本当の名前がわかるの。だから絆を深めて名前を知るのが目標かな」
「千紗都は成績優秀なだけあってどっかの誰かさんとは大違いだな」
横目を向けるとナギちゃんはまた発狂する。
「どっかの誰かさんって誰!」
「それで、レベルが二百になるとミカエルの本当の名前がわかるからはしゃいでいるのか」
「真名イベントはレベル百だよ?」
「は?」
「だから、レベル百になると発生するイベント。柳瀬さんはまだ六十だからそういう説明になるかもしれないけどね」
「じゃあ、二百になるとなにがあるんだよ」
「なにもないよ」
「…………」
「…………」
冗談抜きでこれまでの時間を返してほしい。
「なにもない、ただの区切りのいいレベル数値の自慢のために来たのか?」
「そうなるよ?」
「亘希さんが来てないけど、部活を始めよう。今日の議題はなににしようか?」
「ちょっと、二百って本当に凄いんだから! リリースからの期間を考えたら、教師が到達できるレベルじゃないの!」
だったらアンタは教師じゃねーよ。
ナギちゃんは千紗都にすがりつく。
「柳瀬さんならこの凄さわかるよね?」
「あたしはやってるからわかりますよ」
「そうだよね、そうだよね! 住吉さんも太刀川さんもわかるよね?」
二人が目を合わせる。安寿香が尋ねるように首を傾げると、仁菜ちゃんは俯いた。
あれは絶対にわかってねーな。
「ええ、わからないの? 二人はレベルいくつ?」
「レベルもなにも、ウチはそのゲームやってませんし」
「わたしもやってないです……」
ただゲームをやっていないだけなのに、どれほどの衝撃を受けたのかナギちゃんは膝から崩れ、背中を床に打ちつける。
「ああ、なんということ。この部活に不穏分子がいたなんて」
いや、お前が不穏分子だろ。穏やかな部の空気の崩壊を実行しているほどだぞ。
新潟が絡めば別かもしれないが、あのうるさいが代名詞の千紗都が借りてきた猫になってるからな。
「住吉さんはわかるけど、太刀川さんはこういうゲームとか好きそうなのに。友だちとゲームの話しないの? 他に一人くらいやってるでしょ?」
困ったように俯く仁菜ちゃん。
か細い声でなにかを言うが聞き取れない。
「ごめん、よく聞こえなかった。もう一度いい?」
ナギちゃんが再度尋ねると、仁菜ちゃんはなんとか聞こえる声を発した。
「友だちが、いないので……」
この部室に冬が訪れた。いや、毎年の冬よりも寒い気がする。お気楽な安寿香も、感情の激しい千紗都も、その両方を兼ね備えたナギちゃんでさえ沈黙した。
第一声に迷い、俺はついナギちゃんを見た。
「責任取れよ」
と目で合図を送る。
「無理に決まってるよ!」
「てめえが蒔いた種だろうが」
「だって、友だちがいないなんて思わなかったもん」
「教師なんだから生徒の力になれよ」
「無理無理、こんな重いの私には無理!」
瞬きでアイコンタクトを送ると目の筋肉が疲労する。
役に立たない教師の代わりを務めようか。
俺は仁菜ちゃんに体を向ける。
「どうして友だちがいないの?」
仁菜ちゃんがびくりと肩を震わせる。安寿香がヘラで俺の頭を叩く。
「悪い、悪かった。俺も今のはなかったと思う」
「蒼介がニーナから嫌われるのって、そういうとこやで」
おい、やめろ。これまでの数々が蘇ってくるだろうが。
頭を切り替えるために咳払いを三回する。
「ごめん、改めて話を――入学したばかりで知らない人が多いのもわかるけど、ちょっと話かけるくらいしてみたらどうかな」
仁菜ちゃんが何も返事をしてくれない。
助け船を求めるように千紗都と安寿香を見る。
「それができたら苦労しないわよ」
「そりゃそうや」
誰か俺の心を救ってくれ。
心に大きな傷を負った俺の目に、不意に浮かび上がったのは先ほどの光景だった。
「よろしくお願いします、阿久津先輩」
一人いるじゃないか。
「井上さんは友だちじゃないの?」
仁菜ちゃんはちらっと俺を向くが、再び俯く。
「井上さんはただのクラスメートです。今日もたまたま先生から同じ頼み事をされたので一緒にプリントを運びましたけど……」
「なんか、あの子ならむしろ自分から仁菜ちゃんと仲よくしそうだけどね」
「その……実は」
煮え切らない仁菜ちゃんに腹を立てたのか、千紗都が指で机をトントン叩く。
「実は?」
あー、こいつ仁菜ちゃんみたいな性格が嫌いだろうしな。なにかやるときもぱっとやってぱっと終える。宿題は先に片づける派だろう。
「えっと! お昼に誘われたんですけど、今日だけはお弁当じゃなくて食堂なんですって逃げちゃいました!」
「せっかくやのに、もったいないなあ」
安寿香の言うこともわかる、と思ったところで俺は完食寸前の弁当箱を覗き込む。
「あの、仁菜ちゃん」
「はい、なんでしょうか?」
「つまり、食堂で食べてお腹いっぱいだから、俺にこの弁当を食べてくれと?」
「そういうことです……残すとお母さんに申し訳ないので」
か細い声で言った。
それってつまり。
「残飯処理ね」
「千紗都! それだけは言わないで欲しかった!」
「お昼に誘われるってことはチャンスがあるってことだし、きっとまた誘われるわよ。だって仁菜が悪い子じゃないってクラスの子ならわかるはずよ」
千紗都の言葉に仁菜ちゃんは、ほんのわずかながら目の輝きを取り戻している。
人に希望を与えるのが上手いやつだ。さすがは団長と言うのだろうか。
「そ、そうでしょうか」
希望を見出した仁菜ちゃんは嬉しそうにしていた。友だちが欲しくはあるんだな。
平らげた弁当箱の蓋を閉めて対面の仁菜ちゃんに渡す。
「仁菜ちゃんの手作りだと期待した俺が馬鹿だったよ」
「本当に馬鹿ね」
「ほんまもんのアホや」
「お前ら、俺にも気を遣えよ!」
机に突っ伏していると、扉の開く音がする。
「蒼介、声が廊下にまで漏れてたよ」
「しょうがないんですよ。俺ってそういう扱いですから」
「ごめんね、ちょっと先生と喋ってたら長くなっちゃって」
「亘希さんもそうやってすぐに切り替えるのやめてもらえます?」
亘希さんが席に着き、ようやく今日の部活が始まるのか、と言ったところで俺の叫びにも勝るほど高らかな雄叫びを上げる人物がいた。
モンスターだ。
いや、ナギちゃんだ。
「ようやく全員揃ったね。このときを待ちわびていたよ」
「まだなんかあんのかよ」
「そうくん、仮にも私は教師なんだから、もうちょっと敬ってね」
「あんたがまともになっちゃうと部内の扱いひどいランキングで俺が最下位になるから、これからも残念でいてくれ」
「失礼すぎる……! ま、まあいいけど。実はGPNのレベルのこと以外にも話があったのでした。顧問的にはこっちがメインなのです!」
ナギちゃんはレベル二百の文字を消して漢字三文字をホワイトボードに書き記す。
「エヌディーディーは今度『交流会』に参加するよ!」
キャップを閉めて満足そうにペンで文字を差す。
「ダブルディーよ」
「住吉さんはドレスが着たいのよね」
千紗都の指摘を見事に流す。
「あ、憧れてなんかないです」
「意地張っちゃうと損、損、だぞ」
キュポっとキャップを外し、ドレス、憧れと書いて丸で囲む。ナギちゃんは次々に書き込む。
「新潟の文化研究。それからお友だち、っと」
「ナギちゃん、交流会ってどういうこと?」
「今度の土曜日、NDDは野外活動をします!」
ナギちゃんの発言に俺たちは顔を見合わせた。
ろくでもないことでなければいいが。




