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その20 恋の成就、そして祝福

まごころを、君に

「あっ、あやのっ!」


 橘の声が上ずった。落ち着け、落ち着け私、と大きく息を吸って気持ちを少しだけ落ち着けると、橘は静かに目の前の男子生徒を見上げた。


「あ、綾小路くん!」


 教室の中が静寂に包まれた。今にも倒れてしまうのではないか、というぐらい緊張している橘の姿に、誰もがすぐ駆け寄って支えてやりたいと思った。


「はい」


 そんな橘の耳に、綾小路の落ち着いた声が届いた。その言葉を聞いて、橘はなぜか緊張が和らいだ。

 ぼやけていた視界が晴れ、綾小路の顔がはっきりと見えた。見上げるほど大きな男の顔は、今まで見たことがないほど緊張してオドオドしているように見えた。

 ああ、綾小路くんもこういう顔するんだ、と思ったとき、橘の口から綾小路への想いが滑り出した。


「私……綾小路くんが……」


 そこで橘が一旦言葉を区切る。クラスメイト全員が「がんばれ」と息を呑み、拳をグッと握り締めた。


「ずっと……ずっと、好きでした! 恋人になってください!」


 漫画部・海老澤が涙を流して合掌し、「尊い……神様、ありがとう……」と言いながらサラサラと砂になった。彼女に続いて数名の女子が砂となり、そこここへと崩れ落ちていく。


「た……橘、俺でいいのか?」


 震える声で尋ねる綾小路に、橘はしっかりとうなずき、綾小路を見つめた。


「私は、綾小路くんじゃなきゃ、いや」


 必死の表情で橘が想いを伝えると、「ぐはっ!」と声が上がり、男子の半数が血を吐いて倒れた。


「綾小路くんが土俵に立って戦ってる姿を思い浮かべると、私も、がんばろうって思えるの。だから、その姿を、これからもずっと側で見させてください!」


 ここで橘がポロリと涙をこぼした。「そ、それはずるいぞ、橘!」と残りの男子全員が胸を打たれて即死、女子も「なんて恐ろしい子! でもめっちゃ可愛い!」とつぶやき胸キュン死した。


 どおん、と綾小路が膝をついた。


「橘……俺も、君が好きだ」

「綾小路くん」


 綾小路の言葉を聞いて、橘がぱあっと明るい笑顔になった。

 綾小路はそんな橘に手を差し出し、橘が手を乗せると、うやうやしく押し頂き、その手にそっと口をつけた。


「俺の誠意と真心を、君の勇気に捧げたい」


 かろうじて生き残っていた女子が「姫と戦士……」とつぶやき、その場で砂となった。


   ◇   ◇   ◇

 

「い、以上が……女から男への告白だ」


 しかばねとなったクラスメイトがようやく復活したのが十分後、しかしもうまともに戦える者は一人もなく、ここに論争は終結した。

 新聞部・桜田は震える体を教卓で支えているものの、限界はもはや明らかだった。しかし桜田は発起人、最後の意地を見せ、必死で踏ん張っていた。


「これ以上の議論は不要。議長、決を」

「わ……わかった」


 議長・来賀もすでに瀕死だった。しかし議長としての責務を全うすべく、ハンマーを手にガベルを叩いた。


「こ、これより採決……だがその前に、ひとつやっておくことがある」


 なんだ、とクラスメイトが来賀を見つめた。


「宇賀神、佐藤、綾小路、橘」

「え?」

「はいっ!」

「ん?」

「え、え、はい!」

「以上四名、教室中央へ」


 名前を呼ばれた四人、告白の実演者にして見世物――コホン――協力者が、教室中央に集まり不安げに周囲を見回した。


「四人とも……おめでとう」


 来賀の拍手に続いて、クラスメイトが次々と拍手をし、祝福の言葉を上げた。


 「おめでとう!」「おめでとー!」「おめでとうです!」「あー、めでたい!」「よかったな!」「おめでとう!」「おめでとう!」「おすそわけしてくれ!」「すぐ別れるんじゃないぞ!」「おめでとう!」


「ありがとよ、みんな!」

「んと……ありがと!」

「うむ、ありがとう」

「え、えと、その、ありがとう、ございます!」


 四人がそれぞれ礼を述べ、お互いの恋人を幸せそうに見つめ合う。

 その姿を見て、祝福するクラスメイトたちは、


 ちくしょう、当分こいつらにあてられるのか。


 と思ったとか、思わなかったとか。

 真偽は不明である。


クラスの中心で愛を叫んだ四人

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