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巫の剣  作者: 白銀 飯白
第一章:罪人闘技大会編

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6/10

第一章:5 決戦、ハイフレイア王国王子



ようやくここまで来た。

いや、途中から話が変な方向に転がった気もするが……俺としては数戦飛ばせて万々歳だ。


だが、俺以外の出場者は死んだか……生きているなら生涯をこの国の強制労働に捧げることになった。

生きている限り、誰かを殺すことや、踏みつけてのし上がることはある。そのこと自体に疑問は無い。後悔も無いし、罪悪感も無い。

そもそも彼らは何かしらの犯罪をしたうえでこの大会に出ている。幾分かやりやすさすら感じる。

だが、やはり考えてしまう。あの盗みの少年のことを。あの年頃くらいに俺は旅を始めた。可能性に満ちている年頃だ。なのに、ひとつの間違いで……一生を捧げる?どうも理解できない。

……結末を考えるなら殺してやるのが優しさだったのだろうか。




「この長かった罪人闘技大会……あぁいやそんな長くないか。罪人闘技大会もケンジョウ=イズミの優勝となりました!!

盛大に拍手ゥゥゥ!!!」


うるさい声が聞こえたと思ったら直後に腹の底まで響くような歓声が聞こえてきた。

このまま釈放されて大団円、と行けば楽で良かったのだが。この後に何が控えているかを知っている。

知っているからこそ、腹が立つ。


「それでは優勝したケンジョウ=イズミにインタビューを……」

「やってない罪で見世物にされるのを見て楽しいか?」

「えっ」


殺気を込め、ついに言ってしまった。

ずっと思っていた。ずっと嫌だった。

観客の連中も俺を犯罪者だと思っている。仮にこのまま何も起きずに釈放となったとしても、俺は咎人として忌み嫌われる。

俺が何をしたと言うんだ。


「この国で犯罪など趣味でも仕事でもやったことがない。この国に来てそんなに経っていないのにふとした事から捕まって。王女暗殺の濡れ衣を着せられて……」

「ケンジョウ=イズミ、まだ濡れ衣だのなんだの言ってんの!?だからなんでそうなってんのかって……え?緊急?」


何かいきなりもごもごとし出した実況の女。

そう時間も経たないうちにまた喋りだす。


「あー……なんか長くなりそうなのでインタビューはすっ飛ばして、エキシビジョンマッチに入りましょう!!」


うるさい女の声がやむと、1人の男が客席から飛び降りてきた。美しい白い鎧を着て、左手にカイトシールドを着けている。

先程客席を見上げたときに目が合った、隻眼の人物。王女と一緒にいた、あの男だ。


「あれ!?ゲートから入らないんです!?」

「こちらから入った方が速かったものでね。さて、名乗らせていただこう。

僕の名は、レオニード=キュレネ=ハイフレイア!この国の王子であり、この国の守護者たる者さ」


王子の名乗りで客席が盛り上がる。


「ケンジョウ=イズミ君、よくぞここまで戦い抜いたね」

「王子、あなたは……聞いていないのですか?」

「何をだい?君が濡れ衣を着せられていて、真犯人が他にいるかもしれないということかな?」

「……ええ」

「聞いているさ。そして敢えて僕はこう言おう。


僕個人としては、そうかもしれないと思っている」

「!?」


思いもよらない言葉が出てきた。まさか、王女様は説得に成功したのか?

王子の言葉に客席からのざわめきが大きくなる。


「殿下!?あの、ケンジョウ=イズミは無罪……ってことですか!?」

「僕は、そう思っているよ」

「何故ですか!?」

「君達も見ただろう。彼の卓越した実力を。僕の最愛の妹は確かに凡夫に負けぬ実力者だが……彼が本気で襲い掛かれば一瞬で首が飛んでいるはずだからね」

「ならばこのまま釈放ということで?」

「でもね」


実況の声に返事する王子の声を聞き内心喜んだのも束の間。


「客観的な証拠が無い。だから無罪放免とはいかないんだ」

「なっ……」

「状況証拠は君を下手人だと指し示していたのだろう?だから捕えられた。それをひっくり返すには証拠が無いと……僕の一存で君を無罪とするわけにはいかないんだよ」

「証拠など、どうすれば」


どうしようもない。

そもそも探すにしても俺は捕まっているから自由に探せない。結局、俺にできることは……


「君にできることは2つだけだよ。もうわかっているんじゃないかい?」

「……勝つか、負けるか」

「わかっているじゃないか。……さぁ、戦おう。実を言うとね、君と戦ってみたかったんだ。

あ、先に言っておくけど……僕が王子だからと言って遠慮する必要はない。殺す気で掛かってくるといい」


言いながら王子は腰に差した剣を抜き、構える。


「なんか一悶着ありましたが!戦いが始まろうとしています!

【ハイフレイア王国王子】レオニード=キュレネ=ハイフレイア対【王女暗殺未遂?】ケンジョウ=イズミ……試合、開始ィィィ!!!」


始まってしまった。

……まぁ、覚悟していたことだ。

軽く脚に力を込め、


「【短距離瞬間移動ブリンク】」


踏み込む際に何か聞こえた。さっきまで散々うるさい実況やらゴイデスさんやらが言ってた言葉。

嫌な予感がして無理やり方向を曲げる。すると元々突っ込もうとした進路上に盾を構えた王子が現れた。

方向を曲げはしたものの避けきれずに左肩をぶつけ、俺は吹っ飛んでしまう。


「ぐあっ……!!」

「おや、流石だね。このまま突っ込んできたら正面衝突で終わりだったのにね」


左肩から鈍い音がした。

肩が外れてしまったらしい。


「な、な、な、何が起きたァァァ!?」

「互いに【短距離瞬間移動ブリンク】をしたように見えましたが、ケンジョウ氏が何故か吹っ飛びましたね」


何が起きたかわかっていない観客向けに王子は自信満々に解説する。


「彼が使っているのは【短距離瞬間移動ブリンク】なんかじゃないよ。アレは、ただ脚に力を込めて走ってきてるだけだ。跳んでると言った方が正しいのかな。進路上に僕が【短距離瞬間移動ブリンク】をすることで彼は急に現れた障害物を避けきれずにぶつかってしまったってわけだよ」


「な、何ィィィ!?え、ゴイデス先生どういうことですか!?」

「え、私にもわかりません。そんな、魔術も使わずにそんなことができるものなんですか?」


「ヤマトの武術にそういうものがあるんだよ。そもそもの話……彼は、というよりヤマト人は魔術を使えないんだよ。ゴイデス先生はご存知なかったかな?」


またも驚きの声が上がる。


「恥ずかしながら……ヤマトには呪術なるものがあると聞き及んでまして、それがご当地の言い方の違いかと思ってまして……」

「魔術と呪術は根本が違うんだよ。ヤマトの人間には魔力回路が存在しないんだ」

「だから【死亡遊戯デス・ルーレット】でケンジョウ氏の目が無かったんですね」

「そういうことだ。さて、ケンジョウ君はそろそろ起き上がったかな?」


と言いながらこちらに振り返る。

外れた肩を嵌めなおし、軽く動かしてみる。……痛みはあるが、この程度ならまだ戦える。


「……ヤマトにお詳しいのですね」

「そうだね。散々調べたものさ。資料が少ないなか色々とね。

10年前、この大会で辛酸を舐めさせられたその日から。アレが唯一の黒星だ」

「……」


昨日兵士が言ってた、唯一脱出できた者のことか。アレはやはりヤマト人だったのか。


「だから、君がこの大会に現れたときは正直、嬉しかったよ。彼と君は違うけれど、似たものを感じる者と、再び戦える機会を得ることができたのだから」

「……」

「マサムネ=イズミ」

「!?」


何故……!?

ここで思いもよらない名前が出てきた。

何故、海を渡った先のこの国で、兄さんが……?


「その反応、やはり知っているね」

「……兄が、ここで?」

「そうだ。何の罪で捕まったかは忘れてしまったがね。何にせよ彼はこの大会で優勝し、僕と戦い……この目を奪って勝利した」

「それは……」

「ああ、勘違いしないでくれたまえ。別に彼に恨みはないよ。あの時の僕はあまりに自信過剰で愚かだった。それを学ばされたのは僕にとっては良い事だったと思っている。あの時のことが無ければ、僕はここまで強くもなれなかったことだろう」


その言葉と同時に、大気が揺らぐ。

異様な圧迫感を感じる。何をした……?


「だから今、僕は君の手を借りて答え合わせをしようと思う。精一杯足掻いてみせてくれたまえ。僕はもう、負けることはない!」


先程のような瞬間移動を使わずに真正面から走ってくる。

なんてことない袈裟斬りだ。剣を沿わせ、流して反撃……


「っ……!!」


おかしい。流したはずなのに正面で受けたかのような手の痺れだ。先程のガルバルの斧を受けたのとはまた違う、電撃由来ではない痺れ。

衝撃が、重い。

数合打ち込まれる。

その都度流したり回避するが、やはり流したときに痺れが襲いくる。



「やるじゃないか。やはり君は素晴らしい……簡単に終わらないね」

「……何かしていたのですか」

「まあね。僕はマサムネに負けてからずっと鍛えていた。でも彼のようなとんでもない身体能力はどうしても身に付かなかった。鍛錬方法が違ったのか、僕に才能が無いのか。しかし、ふとあることに思い至ったのさ」

「何に、です……かッ!!」


話の途中に斬りかかる。正面からの攻撃が通じるわけもなく、盾で弾かれる。またも、先程のような痺れが。こちらが受けても、相手に受けられても、似た衝撃が襲いくる。どうしたものだろうか。


「彼と僕とは違うということさ。彼に卓越した身体能力があるように、僕には類い稀なる魔術の才能があった。彼と同じ土俵で追いつこうというのが間違いだったのさ。

……さぁ、次は君の力を見せてくれたまえよ。僕が、そのことごとくを受け切ってみせよう」


おしゃべりはここまでという雰囲気を出している。

向こうから斬りかかってくるつもりは無いみたいだ。ならば言葉に甘えて……


イズミ流剣術奥義────


「【風鳴カゼナリ】」


王子の周りを高速で走り、隙を見つけつつ斬りつける。


「おおっとぉーーー!!!決勝で見せたあの技だァーーーっ!!!」

「何回見ても魔術無しでこれができるのが信じられないですねぇ……どう見ても分身してるように見えますよこれ」


実況の声は驚いている、が。

当の王子は全く動じずに悠然とその場で構えている。

しかし反撃をするでもない、回避を試みるでもない。盾で流すこともしない。

当然俺の攻撃は全て当たっている。なのに、どうして……


「どうしたんだい?君の力はそんなものかい?

速さだけでは僕は倒せないよ」


傷ひとつ付かないんだ……?


斬りかかる度に感じる違和感。人を斬っているはずなのに、緩衝材を巻いた石柱を叩いているかのような衝撃。

別に手加減しているわけでもない。殺すつもりで首元も狙っているが全然斬れない。

その後も幾度となく斬りかかるが、変わらず斬れずに足を止めてしまった。


「ハァ……ハァ……」

「これが苦悩の果てに僕が導き出した……魔術の使えないヤマト人には扱えないものさ。

身体を堅く守る身体強化、高速振動する空気。これらを組み合わせることで成る絶対防御。

砕響要塞シンフォニック・フォートレス】」



「殿下がああ言ってますけど、私には何も見えないんですけどゴイデス先生には何が起きてるかわかります?」

「いえ、見た目には変化は無さそうです。ただ、【鉄面皮スチールスキン】とはまた違った身体強化魔術を使っているのでしょう。自身の身体強化そのものは比較的簡単な部類の魔術なのですが、他の強化魔術と共存ができないとされてきました。なので殿下の言っていることが本当なら……今までの常識を打ち破る凄い魔術ってことになりますね?」



「…………」

「おや、その顔はまだ諦めてない顔だね?そろそろ諦めるかと思っていたが」

「諦めるなど……あり得ない」

「そうかい。魔術も使えないでこの防御を貫くことはできないと教えてあげたつもりなのだがね。あ、勘違いしないでくれたまえよ。別に魔術が使えてもそう易々とこの防御が貫かれることはあり得ない。

もうわかっただろう。君はもう詰みだということを。もう諦めたらどうだい?せめて苦しまずに送ってあげよう」

「何故、俺が諦めなければならないのですか」

「強情だね。ヤマトの美学ってやつなのかな。いいだろう。その美学を抱きながら死ぬといい……」


こちらへ踏み込み、斬りかかってくる。

基本的に受けられない。受けると高速振動に巻き込まれて衝撃が走る。

俺ができることは……!!


「ふむ。よく避けるね。反撃の隙でも狙っているのかな?」


回避に専念!これしかない!

たしか、何回戦かに魔力限界量、などという言葉が出ていた気がする。つまり限界がある。斬れない理由が魔術だというのなら魔力が尽きるまで粘るしかない……!


しかし数回の斬撃を回避することで王子は怪訝そうな顔をする。


「……何かつまらないことを考えているんじゃないだろうね?

斬りかかってくることもしない。剣で受けて反撃に転じるわけでもない。だからといって高速移動で撹乱するわけでもない。諦めてないと君は言ったが……ただいたずらに引き伸ばすことを諦めないとは言わないよ?」


客席からもブーイングが聞こえてくる。

何を言われようと、誹られようと、俺は、微かな勝ち筋に向けてひたすらに避ける。

しかし、避けるだけでは限界がやってくる。左上から襲いかかる袈裟斬りを王子の右手側に回避……したと思ったら王子が回転。その勢いのまま刺突を繰り出してきた。

咄嗟に剣で受け流す。


「……!?」


衝撃が、痺れが、こない!?

魔力が切れたのか?


「ならば……ッ!」


ここで、決着をつける!!


「うおおおおおッ!!!」

「くっ……!!」


残る力で【風鳴カゼナリ】を使い、全方位から斬りかかる。

しかし


「……なるほどね」

「ッ!?」


斬撃は届かない。

またも緩衝材を巻いた石柱を叩いてるような衝撃が腕を襲う。

急いで距離を取り直す。するとその後隙をついて斬りかかってくる。


真っ向から剣で受けてしまった。

重い。剣から嫌な音が鳴る。削れている!


そのまま押し込もうとしてくる王子に蹴りを入れつつ剣を手放しながら後ろに跳んだ。


なんとか距離は取れたものの、剣を失い、満身創痍。もう、打つ手が見当たらない。


「魔力切れを狙ってたのか。残念ながらね、ケンジョウ君。僕の魔力はそう簡単には無くならないのさ。君の目論見は外れてしまったというわけだ」

「……くっ……」

「今度こそ、正真正銘の詰みだ。諦めたまえ」


……諦めた方がきっと楽なのだろう。

この人も、俺に対して哀れみを持っている。いたずらに苦しめるようなこともしないだろう。


……それでも


「いいえ。俺が諦めることは、あり得ません」


拳を構える。


「どうして。それ以上は無駄だとわかるだろう?何故自らそこまで苦しむような真似をするんだい?」

「俺は、祖国の内乱を嫌い、生きる為にこの国に来ました。生きる為にやってきたのに、濡れ衣を着せられ、ありもしない罪で今まさに処刑されようとしている」

「……」

「そんな、理不尽……認められません。理不尽に屈して、やってもいない罪のために自ら命を捨てるなど、俺は許せない!!」


感情を爆発させてしまった。

息を整え、構え直す。


「……君は、愚かだ」

「……」

「僕も愚かでいたかった。そうであったなら、君を助け、君と友になれたかもしれないな」

「……そうですか」


王子が剣を構える。その瞳には、哀しみが滲んでいる。



…………静かだ。おそらく、次で決着がつく。



……嫌だな。死にたくない。

でも、信念だけは……貫く。命を諦めずに、最期まで戦う。




……父さん、兄さん……




ミタマ…………





「ケーーーーン!!

こいつをッ!!受け取れぇぇぇぇッ!!」





「「「「!?」」」」


「……この声は」


どこからともなく声が聞こえて、何かが俺の近くの石畳に突き刺さった。



「あー!闘技場内に物を投げ入れるのはご遠慮くださーい!!どういった教育受けてんだよもう!」

「アレはなんなんでしょう……ん?アレは……」



実況達の声を聞き流しながら、突き刺さった物に近付く。


『あーーー……あやつめ……なんと乱暴な……

なんとなくまだぐわんぐわんするぞ……』

「ミタマ……!」


ミタマが鞘ごと突き刺さっていた。

引き抜き、王子に向き直る。


「……王子、いいですか」

「……あぁ、いいとも。しかしそれは……東国剣……いや、刀だね。それも、とても良い刀だ」

「ええ」

「切れ味は素晴らしいというが、その程度で僕の【砕響要塞シンフォニック・フォートレス】をどうにかできると?」

「先程も言いました。俺は……諦めない!」


話しながらミタマにも声を掛ける。


「(ミタマ、大丈夫か)」

『それはこっちのセリフじゃ!ヒヤヒヤさせおって!

あやつもあやつじゃ……もう少し早くに投げ入れてくれてたならケンもここまで消耗することもなかったろうに』

「(見てたんだな。なら話が早い。【アラの火】を使うぞ)」

『かなり消耗しきっておるが、大丈夫なのか?』

「(仕方がない。こうでもしないと勝ち目がないからな)」

『……承知した』



諦めたようなミタマの声。その直後、左手が燃えるように熱くなる。

ミタマを持つ左手から腕に赫い線が走る。線が伸びるにつれて熱も上ってくる。そして、熱は身体全体に行き渡る。



「おおっと、ケンジョウ=イズミ!これはどうしたことだァーーッ!?刺青みたいな線が身体中に浮き出ているぞーーっ!?」



荒御魂アラミタマの法 火呪(かじゅ)

ミタマの力を借りて、身体に神の火の力を降ろす呪術……略して【荒の火】と呼ぶ。【荒】とだけ略すこともあるが……だいたいは火呪を指す。

巫剣ミタマと、巫剣の守護者である俺の正真正銘の切り札だ。




「は、はは……ケンジョウ君、なかなか面白い隠し玉を持っているじゃないか。それは……呪術かい?僕が調べた限りの呪術とはまるで違うようだが……」


俺の様子を見て、乾いた笑いを出す王子。


「これは……本物の、呪術です。

余所者が調べた程度で出てくるようなままごとじみたものではない……」


王子を見据え、抜刀の構えを取る。


「ははは……良いじゃないか。本物の呪術の力とやら、見せてもらおうじゃないか!」


おそらく、彼は避けない。

今までの俺の攻撃を、盾で捌くことはあれど避けることをしなかった。

それは矜持きょうじによるものなのか、民に自身の力を誇示する為のものなのか。

どちらにしろ、今となってはありがたいことだ。おそらく、今の俺は回避に徹された場合に当てることができない。それほどまでに消耗してしまった。



だからこれが、正真正銘、最後の好機。

この奥義で、決める……ッ!!



「イズミ流剣術、奥義……」

「っ……」


王子は盾を構える。思った通り、受ける気だ。

あとは、この力をもって……貫くのみ。


「【アギト】」


アギトは兄さんが一番好きだった奥義だ。

ただ、高速で抜刀し斬り上げ、返す刀で斬り下ろす。ただそれだけの単純な奥義。

その刀捌きの速さで敵を斬り砕くその様は、まるで噛み砕く顎の如し。


「……改め」


しかし、それだけでは足りない。この要塞には届かない。

だから、俺は御魂ミタマの力を借りて、命を燃やす。命の炎を、刀に乗せる。


「【緋蛇ヒカガチ】!!」



繰り出した斬撃が炎を纏い、飛ぶ。

灼炎しゃくえん気刃きじんは紅き顎となり、敵を噛み砕かんと襲いかかる。


気刃と、盾がぶつかり合うその瞬間。




「うっ……ぐ、っ、うぁぁああああ!!!!!」



盾は斬り裂かれ、王子の左腕が飛んだ。

すんでのところで少しだけ避けたみたいだ。


……良かった。無駄に殺さずに済んだ。

腕を飛ばしたんだ。流石に俺の勝ちだろう。




『ケン!?大丈夫か!?ケン!?』




安心したら視界が揺らぎ、意識が朦朧とする。

身体の限界が近付いてきていた。




『ケン!返事をせんか!おい!……ケンジョウ!!』




気付けば地に伏していた。

周りの音も聞こえなくなってくる。




眠い。




これだけのことが一気に起きたんだ。

少しくらい、眠っても…………


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