第二章:3 邂逅
「こちらですぅ」
「ここは……工房?」
城から少し離れた場所にぽつりと建っている小屋を見る。煙突からはもくもくと煙を吐き出しており、中からはカンカンと金属を叩く音が聞こえる。
扉を開け、中に入る。簡素なカウンターがあり、その奥では複数人の鍛冶師がそれぞれの作業をしている。
「すいませぇん!」
「ああ!!?今忙しいのは見てわかる……って、あっ」
「誰に向かってそんな口利いてるんですぅ?」
「あっ、いやその……すいませんでした」
「アンジェ?」
「ふふふ〜なんですかぁ?ケンジョウ様ぁ?」
「…………いや、なんでもない」
なんだろう。いきなり鍛冶師が怯え出したことをこれ以上聞くと嫌な目に遭いそうだ。沈黙は金とも言う。やはり聞くのはやめておこう。
「あ、アンジェさん……その……今日はどんな用向きで?」
「普通に接してくださいよぉ。ケンジョウ様に要らない誤解を与えちゃうじゃないですかぁ」
「あっ、はい……」
もう手遅れである。
「アレの話だったら、姐御が今仕上げてる最中ですよ。仕上げに関しては俺たちも関与できないからどのくらいかかるかはわからないですけど」
「ああ、その話ではないんですけどぉ……そっかぁ……当然、他のことなんてできませんよねぇ」
「姐御に用事なんですね?」
「そうですぅ」
「じゃあまた時間を改めてもらうか、ここで待ってもらうか……」
「少しだけ待たせてもらいましょうかぁ。ケンジョウ様もそれでいいですかぁ?」
「ああ、俺は構わないが。鍛冶師の方に迷惑は掛からないだろうか」
明らかに忙しそうなところを止めてしまったのだ。さらにここで部外者が居座るような事態は嫌なのではないだろうか。
「大丈夫ですよ。そんなごちゃごちゃと話しかけさえしてこなければ迷惑にはならないので。そちらの椅子で座っててもらえたら……」
「それでは、お言葉に甘えて」
そして何故か鍛冶師は俺に対しても少しだけ丁寧になっている。おそらく第一声の粗雑な感じが彼の本当の話し方なのだろうが……。アンジェに「ケンジョウ様」と呼ばれてるのが原因だろうか。
とりあえず案内してもらった椅子に座りながら中の仕事をチラッと見る。
「……忙しそうだ」
「この城の兵士さんの武具をここで一手に引き受けてますからねぇ」
「町の鍛冶屋などに委託するものではないのか」
「王国軍の武具って、基本的に聖銀って呼ばれる特殊な鉱物を使ってるんですよねぇ。その鉱物は民間には卸せない決まりになってましてぇ……」
『魔術などで作ったりはせんのか?』
「耐久性に難ありなんですよぉ。あと、その魔術はかなりできる人が限られるんですぅ」
アンジェはどこからともなく取り出した小さいメガネを掛けて話を続ける。
「魔力と想像力が間に合えば使うことができる汎用魔術と違って、【武器創造】は土と火の精霊の力を借りて使う精霊魔術に分類されるんです。精霊魔術は該当する属性の精霊に認められないと全く使えないのでぇ……」
「鍛冶師がその魔術を使えるとは限らないということか」
「そうですぅ。でも仮に使えたとしてもやっぱり耐久性の問題もあるので王国軍の武具には適さないですねぇ」
武器を作るには精霊の力が要るという……ん?そういえば。
「闘技大会の時に短剣を無数に増やしてきた男がいたのだが、あれは精霊魔術……というものなのか?」
「無数に、ともなると【武器創造】じゃなさそうですねぇ。ケンジョウ様が戦ってるのを見てないからどんな魔法なのかはなんとも……」
『外から見てる感じは短剣が増えておるように見えたのう』
「じゃあ【物質複製】ですかねぇ?その場合は汎用魔術ですぅ。複製したものは【武器創造】で作り出したものよりも脆いと言われてて、少し時間が経てば自壊しちゃうのであんまり使い勝手が良くない魔術ですねぇ」
『魔力と想像力で使えるというから無法なものが多いのかと思えば……思ったより制限が多いんじゃの?』
「そうですよぉ。魔術を学ぶにあたって必ず当たる疑問ですぅ。想像力っていう部分が曖昧すぎるんですよねぇ。例えば武器を作るにしても絶対折れない鋭い武器!とか想像するわけじゃないですかぁ。それでも結局強度の高くない武器が出来上がるんですぅ」
魔術というものは夢のようなとんでもない技術と思っていたが、意外と不便が多いみたいだ。
呪術と根底は似通っているのかもしれない。利に対して不利も生まれる。それは何においても避けることができない理なのかもしれないな。
魔術の話を色々と聞いていると、すぐそばに人がやってくる気配がした。アンジェを呼びに来たのだろうかとそちらを向くと
「……………………」
無愛想な顔をした女性が立っていた。
頬には汗を手で拭った時にでも付いたであろう煤が一直線に伸びており、それすらも化粧と言われるとそうかもしれないと錯覚するほど顔が整っている。鍛冶師の割には両袖が無い薄手の服を着ていて、美しく長い黒髪は後ろに纏めてある。黒髪……ヤマト人か。アイリス様とはまた違った美しさだ。
アンジェが側に立っている女性に気付き立ち上がる。
「あっ!これできたんですねぇ?ありがとうございますぅ!」
「…………うん」
「……?」
「…………じーっ」
アンジェへの返事はそこそこにこちらをじっと見てくるのはどういうことだろう。知らぬ間に俺は何かをやらかしてしまったのだろうか。もしくはヤマトで会ったことがある、とか?
とりあえず立ち上がってみる。
なんとなくわかっていたが、女性の割にかなり身長が高い。俺より少し低い程度だ。会ったことがあるなら流石に覚えていそうだ。つまり俺が何かをやらかしたか、ヤマト出身の人間が珍しいから見ているかのどちらかだろう。
「あっ、紹介しますねぇ!この方は……」
「いい。知ってるから」
「え?」
俺を、知ってる?
全く整理がつかない俺に手を伸ばしてくる謎の女性。その腕は俺の顔の横を通り過ぎ……
「……久しぶり、ケン」
そのまま俺を抱き抱えた。
顔が彼女の豊満な胸に押しつけられる。
柔らかさと汗の匂いが脳内を支配しようとするが、すぐに異変に気付く。空気が、入ってこない……!
「えっ?カンナ!?ケンジョウ様!?」
アンジェが制止する声が聞こえる。
どうにか拘束から脱しようとするが、力が、強い……!!
『ケンよ、公衆の面前で女子の乳房にそうむしゃぶりつくものではないぞ』
「(お前、ここで鋳潰してもらおうか……!!)」
『なんてこと言うんじゃ!世間一般の常識の話をしてやっただけだと言うに!』
「(拘束が解けないんだ!わかるだろう、俺の状態が!!)」
『お主の力で解けぬとは考えにくいがのう』
事実、拘束から抜け出せないのだからどうしようもない。だめだ。息ができなくなってきた。
あんな理不尽な闘技大会を生き抜いたのに、こんな情けない死に方をするだなんて……あまりに、無情。人によってはご褒美な死に方かもしれないが俺はこんな死に方したくない。誉が無さすぎる……!
「カンナ!!ケンジョウ様が苦しそうですよぉ!!」
「え?……あっ」
アンジェが大きな声で止めてくれたおかげで拘束が緩み、ようやく息ができるようになった。
すぐさま距離を取る。あぁ、空気とはこんなにも美味いものなのか。いやまぁ苦しくさえなければあの匂いも悪くはなかったのだが。
「……ごめん」
「いや……」
「…………なんか微妙な空気になってますぅ」
「ところで」
空気を切り替える為に話を切り出す。
先程のアンジェの言葉が本当ならこの女性は……
「カンナ、なのか?」
「そうだよ。……気付かなかった?」
「……すまない。綺麗に、なったな」
「ケンも、かっこよくなった」
「……惚気はそこまでにしてもらって。2人はお知り合いだったんですねぇ?」
「ああ」
15年前のタカマ村襲撃より3年ほど前にタカマ村から母親に連れられ出ていった……カンナ=イブキ。いわゆる幼馴染というやつだ。
まさかこんな海を越えた先で会うことになるとは思ってもみなかった。
「村のみんなやマサムネくん、お父さんは元気?」
「……いや、村は……」
あのとき起こった惨劇を話した。当然、カンナの父親もあのときに殺されてしまっている。
全てを話すのは心苦しかったが、カンナの瞳を見ると隠したところですぐにバレそうな気がした。
全てを話し終えると、カンナは少しだけ寂しげな顔をしながら
「……そう」
とだけ、つぶやいた。
しかしすぐに表情を元に戻し、工房に声を掛ける。
「休憩、行ってくるから」
「あっ!行ってらっしゃい姐御!」
「行こ、2人とも」
そのまま外に出ていってしまうカンナ。
「待ってくださいよぉ」
『マイペースじゃのう』
俺たちも急ぎカンナを追うことになった。
なんというか、掴みどころがないというか……少しだけ懐かしさを感じた。
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カンナについていくこと数分。
辿り着いたのは先ほどお世話になった食堂だった。おばちゃんがカウンターから声を掛けてくる。
「いらっしゃいカンナちゃん!今日はちょっと遅かったね?」
「うん」
「アンジェちゃんはさっき食べてなかったし、今何か食べるかい?」
「えー、じゃあパンケーキをお願いしますぅ」
「はいよ!」
何故か俺には聞いてくれないみたいだ。
仕方ない。
「すいません、俺はこの月熊ステーキを……」
「……………………はいよ」
「(おばちゃんの態度が明らかにおかしくないだろうか)」
『まだ食うのか?アレだけ食べたのに?と思われてるだけじゃろ』
少し悲しい。食っても食ってもミタマの呪法に熱量が持っていかれるのだから仕方ないことだというのに。
「おばちゃん、ソースたぷたぷヤキソバひとつ」
「今日は良くヤキソバが出るねぇ。ヤキソバ一丁、パンケーキ一丁、月熊ステーキ一丁!!」
「はーい…………月熊ステーキ!?」
「えー、あんなの頼む人いるんだ……」
「新兵さんかな」
「さっきの大盛りヤキソバの人じゃない?」
「あんなに食べたのにまた来たって?ないない」
厨房から話し声がばっちり聞こえてくる。
あんなに食べたのにまた来たのだから仕方がない。カンナがここに来なければ今日の夜まではここにお世話になるつもりはなかった。……たぶん。
「ここの大盛り食べられる人いたんだ」
「あはは……」
カンナが驚き、何故かアンジェが少し引いた笑いを浮かべる。……まさかこんなに食事でどうのこうのと言われるとは思わなかった。今までそんなことは……
『ヤマトではよく出禁食らっておったのう、ケン。おぬしが姫様の客人で良かったの。そうでなければここで出禁を食らっておったやもしれぬ』
…………
そんなことは、あったかもしれない。
「ケン、アンジェ。あっち座ろ」
「あ、ああ……」
空いてる席を確保し、料理を待つ間にカンナは話を切り出した。
「それで、なんでケンはアンジェと一緒にうちの工房に来たの?」
「それは…………何故だ?俺はアンジェに連れられてあそこに行ったからわからん」
「魔術に対する抵抗力が上がる装備を求めてカンナを訪ねたんですよぅ」
「抵抗力……」
「作れますぅ?」
「……うーん」
少し考え込むカンナ。
「作れないことはない、と思う」
「うん?なんか微妙な返事ですねぇ」
「この場合、わからないことが多くなるから」
どういうことだろう。と思っているところに料理が運ばれてきた。とてもいい香りが漂っている。
「いただきます」
席に料理が着くや否やカンナは一心不乱にヤキソバを啜りだした。その様子を見て俺たちも食事を始める。話の途中ではあるが、カンナは腹が減っている。ならば仕方がない。
仕方がないので目の前に出された肉塊を食べる。うん、やはり美味い。
数分後、食事を平らげて話を再開する。
「私を頼ってきたってことは呪法を当てにしているってこと、だよね」
「呪法?カンナも呪法が使えるのか?」
呪法とは、呪術の一種と言う位置付けではあるが、ヤマトの世間一般で広がっている呪術……おまじないの類と異なり、強い制約を受け、理を逸脱する恩恵を得ることができるものである。あまりに強力ゆえに世間には流出させてはならないと言われている。
ミタマの力【御魂の法】は呪法に属する。この呪法の強い制約は【熱量を呪力に変換し、ミタマに与える】こと。俺がいくら食っても太らないのはこう言う事情がある。ほぼミタマが食ってるようなものなのだ。
【御魂の法】はミタマに蓄積された呪力で扱うことができるが、じゅうぶんな呪力が溜まっていない場合、術者の熱量を奪いながら発動することができる。ただこの方法で発動すると命の危険が大きい。闘技大会の時はまさに熱量不足だったので非常に危なかった。
「うん。【鬼の呪紋】っていう呪法。お母さんから教わった」
「それがあると、魔力抵抗力のある装備が?」
「できる、と思う。ただ……」
「ただ?」
「ふたつ問題がある。ひとつめは、私自身が魔力に対する抵抗を持っていないこと。理解が追いついているわけじゃないから……解釈を間違えて呪紋を彫ってしまうと望んだ効果が出ない恐れがある」
そうか。カンナも俺と同じくヤマト出身だ。魔力の抵抗なんか知る由もない……
「ふたつめは……代償がどうなるか、ってこと。ある程度の重さ自体はわかるけど、厳密な代償の重さと種類がわからない。例えばその鎧」
言いながらアンジェが隣の座席に置いた鎧を指差す。あれは、カンナが仕上げた鎧らしい。……鎧というには、腰のあたりからスカートのようなひらひらが伸びている気がするが。
「これはアイリスの為に拵えた【戦闘装束】。これにも呪紋が彫ってある」
「……ん?アイリス様の鎧なのか?」
「うん。……どうかした?」
「いや、アンジェの為の鎧なのかと思ってな」
「……それはどういう意味ですかぁ?」
何故かアンジェが不機嫌になる。
「いや、アイリス様の鎧ならサイズが合っていないのでは」
「ていっ」
「うっ」
横腹を殴られた。
しかし、見れば見るほどアイリス様が着る鎧としてはあまりにサイズが合っていないように見える。
『姫様の乳はデカいからのう。あんな鎧を着れるかも怪しいし、仮に着ようもんなら苦しくてろくに動けんじゃろ』
「(そこまで明け透けに言ってない……)」
『しかして、お主が気になったのもそこじゃろ』
ミタマの言う通りではある。が、なんだろう。なんかそう言われると嫌かもしれない。
「まさにその話をしようと思ってた。アイリスは胸を小さく見せて、尚且つ苦しくない鎧が欲しいって言った。だから呪紋でどうにかした。これを装着すると、胸がぺたんこになるのに苦しくなくなる。あとついでに動きやすくなって戦いやすくなったって言ってた」
「で、その代償も当然あると」
「うん。代償は魔力の使用効率の低下。アイリスは本来すごい魔術を使えるんだけど、その鎧を着けてると初級魔術しか使えなくなっちゃうみたい」
魔力を犠牲に胸を小さく見せる鎧を着ていたのか。……代償、大きすぎやしないだろうか。
「仮に、その鎧をカンナが……というより魔力の無い者が着けるとどうなるんだ?」
「代償が払えないから当然恩恵もない。ただの鎧になるよ」
「アンジェが着けた場合は?」
「なんでここで私の名前が出るんですぅ?」
アンジェから殺気が漏れ出ている。
胸の大小はそんなに気にするべきことなのだろうか。
「アンジェが着けた場合……?
どうなるんだろう。代償だけ払って恩恵を得られないってことだから……」
「カンナも失礼ですよう!最近育ってきてますもん!」
「採寸とかで見慣れてるからわかるけど育ってないよ」
「むーーーー!!!!」
「それはそれとして、多分恩恵を得られなくて代償だけ払うことになるか、無理に恩恵を与えられて胸を抉ることになると思う」
迂闊に試してみてくれと言わなくて良かった。
これで試してアンジェの胸が抉れてしまうと大惨事だ。
「呪紋を付与された物の強制力はまちまちだから私にもわからないことは多いよ」
「そうか……」
「ケンはなんで魔力抵抗力が欲しいの?」
「それは……」
カンナに事情を説明した。
魔力抵抗が無いから盗みの魔術を使われてしまうと確実に物を奪われてしまうこと。
奪われてはならないものが、俺の手元にあること……
「ケンが持ってる刀、巫剣さまだったんだね。もしかしてさっきから少し聞こえてくる声って巫剣さまの声?」
『む?別にカンナに聞こえるように言葉を発してはおらなんだが……』
「やっぱり」
「聞こえるのか」
「うん。ぼんやりとだけどね」
『ぼんやり、とな?わしの美声がはっきり聞こえぬのは勿体無いのう』
「あれ?急に鮮明になった」
『ふむ。直接話しかけると鮮明になるのか』
「そうみたい。で、話を戻すけど……ケンは、巫剣さまを盗まれないようにする為に魔力抵抗が欲しいんだよね?」
「ああ」
「盗まれる、以外はどうにかできそう?」
どういう意味の問いだろうか。
回避できない魔術もあると教わったばかりだ。どうにかできるかと問われると、厳しい可能性がある。
「……わからない」
「これは、一つの提案なんだけど」
「?」
「【魔力抵抗】ではなく【盗まれない】という呪紋なら問題無く準備できると思う。用途を絞ると代償も軽くなるから悪くない話だと思うけど、どう?」
「盗まれない……」
目から鱗だった。盗まれる危険性にのみ対処する……呪紋というのはそういうやり方もできるのか。
「いいんじゃないですかぁ?目下気にしてたのは盗まれる危険性ですしぃ」
『わしも良いと思うぞ』
アンジェもミタマも良しとしている。
どのような代償になるかもわからない都合上、少しでも軽くなる方がいいのかもしれない。
胸を小さく見せる為だけに魔力の使い勝手が悪くなる、なんてものを見せられたら……重たい代償は本当にごめん被りたい。その代償の中身がわからないとなれば尚更だ。
「そうだな。ではその方向で作ってもらえるだろうか。金は……」
「別にいい。ケンのためだから」
『愛じゃのう』
「うん」
「えっ!?カンナって……ケンジョウ様のこと本当に……!?」
「アイリスとアンジェには言ったことある」
「あ、あの話の少年がケンジョウ様ってことですかぁ!?若干7歳で地元の山の熊を叩き殺してカンナを助け出したっていう、あの!?」
……何やら変な方向に話が転がっていきそうだ。久しぶりに会ったから変に舞い上がっているのだろうか。
というか、カンナはいったい何を2人に話したと言うんだ。そんなことしていないはずだ。…………たぶん。
「……カンナ、ちなみにどのくらいでできそうだ?」
「うーん……一晩欲しい。呪紋に効力を込めるのには時間が掛かる」
「わかった。よろしく頼む」
「うん」
話が終わり、窓の外を見てみると陽が傾きかけていた。ずいぶんと長く話をしていたのだろう。わりとあっという間だった。
そして食堂を出て別れ際。
「ケン」
「なんだ」
「ケン、昔とだいぶ変わったね。もっと明るい感じだったのにね」
「……色々あったからな」
「でも」
一歩、こちらに詰めてくる。
「私が好きだった、ケンの雰囲気は変わってない。根っこはそのままなんだね」
「…………そう、なのか?」
「うん」
俺にはわからない。カンナが何を見てそう言うのか。
俺は旅を経て変わり果ててしまった……と思うのだが。そうではないということだろうか。
「じゃあ私は行くから。また明日取りに来てね。巫剣さまも、またね」
「ああ」
『うむ』
「アンジェも、アイリスによろしくね。戦闘装束に不備があったらすぐ教えてって言っといて」
「はぁい」
そう言い残すとカンナは工房へ歩いて行った。
まさかタカマ村の同胞に会うことがあるなんて、世の中何が起きるかわからないものだ。
「ではケンジョウ様ぁ。そろそろ陽も傾いてきましたし、姫様のお部屋に向かいましょうかぁ」
「わかった」
「それにしてもカンナがですかぁ……姫様も強大なライバルとぶつかってしまいましたねぇ……」
「何を言っている」
「ケンジョウ様には関係ありませんよぉ」
アンジェと取り留めのない話をしながらこの後のことを考えていた。
アイリス様はいったい何を企んでいるのだろうか。いったい、何をすることになるのだろうか……。この国で、俺は何を為すのだろうか。
一抹の不安を感じながら、俺たちはアイリス様の部屋へと向かった。




