14 ensemble
「よしっ、」
さて、とバンドスコアの表紙を捲る。芒がわざわざ何曲かを冊子に纏めてくれているのである。意外と(?)まめだ。それを譜面台に載せる。
「アンサンブルするぜ!!」
2人に顔を向けると、伊藤は頷いて電子ピアノの鍵盤に手を添えた。芒はメトロノームをオンにする。メトロノームの針がカチ、カチと一定のリズムを刻む。
「曲はーーーー」
今から奏でるのは、人気スポーツアニメのオープニング曲。情熱と闘争心溢れる熱い曲だ。今回のビートはライト・オン・ビート、ドラムのリズムにピアノ、ギターがぴったりと合わせて演奏するので、やりやすい。
「馨ちゃん、4拍子でカウント出せる?」
と芒が言うので、馨はメトロノームの針の動きに合わせて、ドラムスティックをクロスさせ、カッ、と打ちつけてカウントを出す。バンド演奏では、ほとんどがドラマーのステック音で曲の始まりを合図するというので、馨も勿論練習済みである。
「1・2・3・4」
空気が動き、空間が震える。伊藤がピアノを弾き、芒がギターを奏で、馨がドラムを叩く。初っ端から全ての音が重なる。
ぶわっ、と世界が拡がる未知の感覚。ドラムの叩き方の強弱で音量バランスを調整すると、より絡み合い、同調し、ソロでは成せないグルーヴ感が生まれ続けている。その輪の中に自分がいると思うと、これ以上なく気持ちが昂ぶった。それなのに、ドラム以外の音色も身体に染み込むようによく聞こえて、不思議な心地だ。
馨は音楽に詳しくないし、自分にはセンスなんかまるでないと思っている。それでも、伊藤のピアノテクがとにかく凄いというのがわかる。芒のギターはなんというか、彼の経験値の高さと人間性からくるのだろう包容力が凄まじい。
あー・・・今が、すげぇ楽しい!!!この2人と初アンサンブルができて、馨は最高に運が良かったと心底思っている。
爽快感、躍動感ヤバい。ピッチを上げて、一気に駆け抜ける。馨は楽譜を超えて、情動のままに叩いて跳ねて、合間にドラムスティック投げも入れてやった。スティックは馨が意図していたよりも高らかに上がったが、キャッチまでカッコよく決まった。
ちなみに、彼女のスティック投げの練習時の成功率は五分五分。本番でヤベェと、馨が内心びびるほど、絶好調である。
やがて、一番盛り上がる部分が来た。手足を過去一速く動かしながら、彼女はサビを口ずさむ。サビ以外の歌詞は覚えてねえから、サビだけ。
ピアノの音が一瞬乱れて、ギターのフォローですぐに持ち直された。馨が2人を見ると、互いにアイコンタクトを交わしていた。初対面ではあんなギスギスしてたのに、いつの間にか仲良くなってるようだ。いいね、いいね!!!
というわけで、馨は辛うじて欠片ほど残っていた理性を手放したのだった。
ーーー事後。
「馨が予想以上に暴れ馬で振り落とされるかと思っ・・・いや振り落とされてたな。有哉さんのフォローがなかったら、死んだままだった」
伊藤が、電子ピアノの鍵盤に突っ伏して微動だにしない。つんつんと、頭のつむじ部分をつついても反応せず。まるで屍のようだ。
芒が可哀想なものを見るように、伊藤を見下ろしている。
「馨ちゃん、協調性って知ってるかい?
途中から、突っ走り過ぎ。初めてのアンサンブルで、アレはないと思うよ」
「うーー
・・・でも有哉さん・・・楽しくなかった?」
「・・・馨ちゃん褒めると、すぐ調子に乗っちゃうタイプだよな」
まあ、確かに調子に乗っちゃうけども?私は褒められてすくすく伸びるタイプだ、たぶん。
「前から考えてたんだよ。
馨ちゃんの歌声、凄く上手いってわけじゃないが、なんか心に響くもんがあるんだよな。
ドラムボーカルとかやってみたら、おもしれぇんじゃないかって・・・ん?」
芒はふと、自身のスマホを覗いて眉を顰める。ここの音楽スタジオは、地下ではないので電波がギリギリ通るようだ。
「・・・ちょっと電話してくる」
と言いながらギターを置いて、慌てて部屋を出ていった。
「・・・」
どらむぼーかる?
馨が聞き馴染みのない言葉にぽかんとしていると、伊藤が鍵盤からむくっと顔を上げた。相変わらずの無表情だけど、眼鏡の奥の瞳が異様にぎらぎらしている。
「いいんじゃない。ドラムボーカル、やってみたら?」
「・・・どらむぼーかるって、何さ?」
「ああ。ドラム演奏しながら、ボーカル、歌い手を兼任すること・・・って、意識して歌ってたんじゃないの?」
「うーん。サビだけだけど。歌いながらのが気持ちが乗るから、つい?」
「・・・普通は、ドラム叩きながら歌うの、キツそうなものだげどなあ」
伊藤が呆れたように言った次の瞬間、部屋の扉が凄い勢いで開く。芒が、やべーテンションで戻ってきた。
「うぉおおっ!!!内定もらえたっっっ!!!」
芒は雄叫びを上げた後、やべーテンションのまま、ジャンジャカジャンジャカ、ギターを弾きまくる。馨と伊藤が、おめでとうを言う隙間もない。あんなにヘドバン(頭を激しく上下に振る)して、頭がもげないのだろうかと心配になりつつ、馨も便乗して試してみる。YouTubeで、ドラマーがヘドバンしてるのも見たことあったから。
結果として、馨がヘドバンすると乗り物酔いみたいにおぇってなるから、すぐ断念した。馨はやはり、スティック投げとスティック回しをもっと鍛えようと思う。




