おまけ.王様たちの午後
おまけ話となります。
リューのパパ視点です。
とある人物のおかげで、予想外の方向にぶっ飛んだお話となりました。
これで本当に完結となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
俺の名は、ヴィクトゥル・エス・ルークス
ルークス国の国王である。
イニティウム大陸
その一画にある資源豊かな国
それが、我が国だ。
イニティウム大陸の各国の王は国から離れることを許されていない。
その理由は王族だけが使える魔法力にある。
その力で実質的に国を守護しているのが王だ。
なので国家同士での王の話し合いには、主に鏡などの自身の姿を映す媒体が用いられる。
今回も、そうして隣国への連絡を繋いだのだが・・・
俺は、すぐ後悔することになった。
俺は彼が・・・
大の苦手なのである。
鏡の向こうで、それはそれは美しい、庇護欲を掻き立てる美青年が、神秘的な菫色の瞳から大粒の涙を溢れさせていた。
ほろり・・・ほろり・・・
涙の粒が真珠色の肌をこぼれ落ちていく。
銀色のサラサラの髪が頬に落ち、その儚さをより増していた。
彼の名は、アウレア・アウローラ・フランマ
フランマ王国の国王である。
「泣くな、アウレア」
俺は、うんざりしながら鏡越しの相手にそう声をかけた。
「ごめんなさい、ヴィー・・・ごめんなさい。うちのデネブ君が迷惑をかけて・・・」
ヴィー・・・そう俺を呼ぶのはコイツだけだ。
久しぶりの魔法の鏡での通信に最初は嬉しそうにしていたが、息子をそちらに強制送還したことを伝えると、さめざめと泣き出した。
それから1時間
コイツは延々と泣き続けている。
もう45にもなるというのに、いつまでたっても子供のような男だ。
これで妃はおらず、愛妾ばかりが100人以上いるというのだから頭が痛い。
「もういいから謝るな。煩わしいぞ」
ため息を吐き、乱暴な口調で話かけるが、アウレアは堪えない。
大きな瞳をキョトンと見開いた後、えへへ、とそれはもう可愛らしく笑った。
それが大人の男の態度かと更に頭が痛くなる。
「本当にありがとう。ヴィーは優しいね」
「・・・今の台詞のどこに優しさがあった・・・?」
こいつの頭はお花畑だ。
100人を超える愛妾は、こいつのどこが良いのだろうか・・・
競ってこいつの寵愛を得ようとしているようだが、俺にはこいつの良さがわからない。
こんなのでよく一国を支えている。
「こうして話すのも久しぶりなんだもの。泣いてばかりいたら、ヴィーのカッコいいお顔を曇らせてしまうね」
「やめろ、鳥肌がたつ」
「ふふ・・・素っ気ないんだから・・・でもそんなところも大好きだよ」
「・・・・・・」
そう・・・
こいつは終始こんな感じなのである。
十代の頃に出会ってから、ずっとだ。
「お前、いい加減にしろよ・・・?」
「大好きじゃ収まりきらないくらいの気持ちなんだよ?口に出さないと想いが爆発しちゃう」
「爆発してしまえ!!!!」
俺は頭を抱えた。
だから・・・こいつと話したくないんだ・・・
これが一国の国王の言葉かと思うと脱力してしまう。
弟以上に厄介な存在だ。
「お前を好いている女が100人以上、お前の周りにいるんだろう。そいつらに囁け」
「勝手に押しかけてきて、いつの間にか側にはべっている人たちなんだよ・・・そんな人たち好きじゃない」
「それにしては、子沢山じゃないか」
「気が付いたら、寝室のベッドの上で乗っかられてるんだもん。だから彼女たちの顔も判別できてない」
「おいおい・・・」
渋面を作っている隣国の王の下事情なんて知りたくなかった。
「自殺騒ぎをおこした女もいるっていうじゃないか・・・その女たちの顔を判別できていないだと・・・?」
「ああ、そんなこともあったね・・・少し覚えてるよ。確かその子、私だけを愛してって言ったんだ。笑っちゃうね」
彼の言葉に嫌な感じを覚えた。
俺は眉間の皺を深くして、彼に尋ねる。
「・・・おまえ、その女に何を言った?」
鏡の向こうで美しく微笑む男
だが、目が笑っていない。
彼の口が三日月型に笑む。
「僕が愛しているのは、これまでもこれからも隣国の王様だけ・・・って言ったんだ」
人外めいた美貌が、ゆっくりと鏡に近づいてくる。
「僕の愛は永遠に君一人だけのものだよ」
「俺の愛は、全て妻のものだ」
「ふふ・・・知ってるよ?」
だからこいつは苦手なんだ。
正直、気味が悪い。
「・・・もう通信を切るぞ。俺は忙しい」
「え、もう?久しぶりなのに・・・」
「お前の泣き言に1時間は付き合った」
駄々をこねる子供のように、頬を膨らませている彼に容赦なく別れの言葉を告げる。
「じゃあな」
その言葉を告げた瞬間、彼の気配が変わった。
「・・・・・・」
「おい、アウレア?」
「うん、またね・・・」
鏡越しに彼の視線が絡み付いてくる。
妖しく光る涙に濡れた彼の瞳を見ていると無性に嫌な気分になる。
舌打ちしたくなる気持ちを抑え、俺は通信を無理矢理切った。
何も写さなくなった鏡・・・
その向こう側にいた彼の顔を思い出し、眉間の皺が深くなる。
「これだから・・・あいつと顔を合わせたくないんだ・・・」
彼と顔を合わせると、いつも嫌な気分になる。
俺はそんな気持ちを吹き飛ばす為、鏡に背を向ける。
癒しを求め、妻のもとへ向かうことにした。
彼の顔を頭から払いのけ、歩み出す。
光に向けて・・・
「ああ・・・好き・・・大好き・・・愛してる・・・彼の全部が欲しい」
何も写さなくなった鏡に身体を寄り掛からせ、その男は妖しく笑んでいた。
「僕のものにしたい。愛してる愛してる愛してる・・・」
久しぶりに見た彼に、ずっと下半身が滾っていたのだ。
泣いたふりをして誤魔化していたが、今でも下半身に熱が集まっている。
「ふふ・・・ははは・・・いつか僕のものにしてみせる。ヴィー自身もヴィーの国も全部・・・」
彼は隣国の王が映っていた鏡に口づける。
「ヴィー・・・愛してるよ・・・」
室内にその男の笑い声が暗く響いた。
ヤンデレホモが暴走しました。
申し訳ありません。
隣国の王様は、こんな人物でしたー。
今後大丈夫なのか、ルークス国!
こんなラストですが、これで本当に最後になります。
ありがとうございました!